第10回海外日本語教育研究会 報告 第2部 タイ国中等教育用日本語教科書『日本語 あきこと友だち』作成 その3
プラパー・セーントーンスック
前田綱紀
- 背景説明
- 教科書作成の諸相
- 『日本語 あきこと友だち
- プロジェクトの成果
- 今後の課題 ・ 参考文献 ・ 背景説明 ・ 執筆体制
3.『日本語 あきこと友だち』
1)教師と生徒が希望する教科書
アンケート調査 :タイの高校日本語教師90名と高校生200名 明らかになった事:コミュニケーションのための教材がほしい、日本文化についても紹介してほしい
2)概要
対象者:日本語専攻コース(6コマコース)の学習者(大部分が大学に進学)
到達水準:大学入試の出題範囲を越えている事が望ましい(日本語能力試験3級出題範囲程度)
内容:「仏暦2544年度(西暦2001年度)版新指導要領」による規定
- (1) コミュニケーションのための言語
- (2) 言語と文化
- (3) 言語と他教科との関係
- (4) 言語とコミュニティーや世界との関係
3)特徴
コミュニケーション重視の教科書
機能を明確にしその課の学習で何ができるようになるかを明示
4)構成
1セット:本冊、ワークブック、音声テープ、教師用指導書
セット数:1学期1セット全部で6セット
Ⅰ 本冊
(1)学習目標 (2)キーセンテンス (3)会話 (4)練習 (5)文法説明 (6)ことば (7)漢字 (8)ミニ情報(日本文化や社会等についての情報)
内容
- (1) 学習目標
その課の学習を終えたら何ができるようになるかを示す。
タイの他の教科書は文法積み上げシラバスなのでこの項目がない。 - (2) キーセンテンス
学習目標を含む文を提示。 - (3) 会話
話題 :高校生に身近なもの。
登場人物:「高田あきこ」(日本人の留学生)
あきこのホストファミリーで高校生の「ナッター」と両親
あきこは日本についての情報を伝え、ナッター等はタイについて情報を提供する。
場面 :高校教科書であることから学校が多い。 - (4) 練習(「基本練習」「応用練習」)
基本練習:語彙や文型等を正しく使えるようになるための練習でゲームの形式のものが多い。
応用練習:場面を設定。
単に教科書に出ているキューだけではなく学生に言う内容を決めさせるキューも。
応用練習には聴解、読解もある。 - (5) 文法説明
この教科書ではその文型をどんな場面で使うかも説明。
これにより実際の生活の場で場面に合った会話が可能になる。 - (6) ミニ情報
日本の社会や日本の高校生などについての情報を扱う。
ミニ情報の最後にタスクがあり、日本についての情報を得た後でタイについても振り返り、比較して考えさせる。
担当:大学教員、日本語センター講師
Ⅱ ワークブック
・ 内容:本冊の練習は授業での口頭練習に使うものが中心だが、ワークブックの練習は、文法定着のために書いて文字で確認するためのものである。
担当:大学教員
Ⅲ 音声テープ
教科書付属の音声テープは、タイ在住の日本人日本語教師が出演し、タイのスタジオで行なった。
Ⅳ 教師用指導書
従来タイの教科書にはなかった。
・内容:本冊の使い方、追加の活動を紹介、教師のための情報など
・担当:センターのタイ人講師を中心とする高校教員
5)試用
Ⅰ 試用校 :教育省が指定
タイ全国で5校(6コマ校が3校、3コマ校が2校)
Ⅱ 使用校 :試用版使用校113校(日本語教育実施校全144校(200109))
Ⅲ 試用日程:第1、2分冊 2001年5月~2002年2月
第3、4分冊 2002年5月~2003年2月
第5、6分冊 2003年5月~2004年2月
Ⅳ 試用調査:第1~4分冊の試用の後、試用校でアンケートを実施
Ⅴ 調査時期:2001年10月、2002年3月、10月、2003年3月
Ⅵ 調査結果
長所
- (1) 場面や内容が高校生に身近で、楽しく学習できる。従って高校生向けとして適切。
- (2) 他の教科書で学習した上級生と比べ、聴解、会話能力が高い。
これは日本人来訪者に対する積極性、発話の量などを教師が観察したことから明らかになった。 - (3) 本教科書で学習した生徒は、気軽に日本語で話すことができる。
これも上と同様にして明らかになった。 - (4) ゲーム性の高い練習が多いので、楽しみながら学習している。
問題点
- (5) さし絵にわかりにくいものがある。また数を増やすことも必要。
6)市販
2004年4月:前期に使われる第1、3、5分冊(1,2分冊各6,000部印刷)
2004年10月:後期に使われる第2、4、6分冊