『教科書を作ろう』をくわしく知りたい方へ

『教科書を作ろう』について
『教科書を作ろう』をくわしく知りたい方へ
『教科書を作ろう』を入手したい方へ

『教科書を作ろう』は、教科書や教材を作るための素材集です。このような素材集の制作は、新しい試みです。これを手に取ったみなさんに、この『教科書を作ろう』を有効に活用していただくために「教科書・教材作成用の素材集とは何なのか」「どのように使うことができるのか」を説明します。


1. 『教科書を作ろう』とは

教科書を作ろうの説明図1 『教科書を作ろう』は、教材作成者が海外で日本語を勉強する中等教育段階の学習者用の教科書・教材を作るときに参考となるように日本語の説明、例文、練習をまとめたものです。
学習者用の教科書・教材にするには、教材作成者が、その目的、カリキュラム、教師および学習者の状況などに応じて加工することが必要です。

教科書を作ろうの説明図2 『教科書を作ろう』には、「せつめい編」と「れんしゅう編」があります。2編の制作にあたっては、日本語を勉強する学習者の学習環境と学習目的を左の図のように考えました。
「せつめい編」には、ことばのしくみと使い方の理解のための説明と例文をまとめました。「れんしゅう編」には、ことばの定着と使用を目的とした練習方法をまとめました。

また、執筆にあたっては、以下のことに配慮しました。

  • 海外の学習者間での日本語によるコミュニケーションを意識する
  • 外国人の教材作成者や教材使用者を意識する
  • 日本語について知ることと日本語を使うことの両方に対応できるようにする
  • 段階的な学習を示す
  • 図やイラストなどの視覚的な素材の活用の可能性を示す
<『教科書を作ろう(改訂版)』の概要>
対象とした使用者 日本語教材作成者、中等教育段階(中学・高校)の日本語教師
対象とした学習者 中等教育段階の学習者
学習段階 初級(旧日本語能力試験3級相当)
内訳 「せつめい編」
せつめい編1(1~12):旧日本語能力試験4級及び3級の一部の文法・文型84項目の説明と例文
せつめい編2(13~20):旧日本語能力試験3級相当の文法・文型48項目の説明と例文

「れんしゅう編」
れんしゅう編1:「せつめい編1」に対応する100の練習
れんしゅう編2:「せつめい編2」に対応する61の練習

2. 教材構成のモデルとしての『教科書を作ろう』

『教科書を作ろう』は、素材を提供すると同時に教材構成のモデルを示すことを目的としています。私たちは、教科書・教材を作るときには段階的な学習、学習の目標設定、また、学習者の達成感を考慮することが大切だと考えています。『教科書を作ろう』は、この考え方を具体的に示す教材モデルの一つとして、以下のような構成をとりました。この構成は、「せつめい編」「れんしゅう編」に共通しています。

(1)ブロックについて

教科書を作ろうの説明図1 ブロックは、学習内容のまとまりで、全体で、20ブロックあります。
そして、ブロック番号は「1→2→3→ ・・・ →20」と学習を積み上げていく順番と段階を示しています。「せつめい編1」「れんしゅう編1」は1~12ブロック、「せつめい編2」「れんしゅう編2」は13~20ブロックで構成されています。

(2)「話題」について

海外の学習者の生活を考えた、学習者に身近な「話題」が各ブロックに当てはめられています。「話題」は、「うち→学校→まち→私の国と日本」という学習者に身近なものから少しずつ遠くへ向かう空間的な広がりにそって、各ブロックに当てはめられています。この「うち→学校→まち→私の国と日本」は、1~2ブロックで3回、13~20ブロックで2回、全部で5回繰り返されています。また、四つのブロックごとに一まとまりとなり、全部で五つの学習段階を示しています。

教科書を作ろうの説明図4


3. 『教科書を作ろう』の利用について

『教科書を作ろう』からは、学習者用の教科書以外にもいろいろな教材を作ることができます。『教科書を作ろう』を使ってできる教材例を紹介しましょう。また、そのほかにも日本語教師研修用教材の作成にも利用できます。

教科書を作ろうの説明図5

ほかに、日本語教師研修用教材の作成にも利用できます。さまざまな教材開発に利用してください。


4. 「せつめい編」とは

「せつめい編」は、『教科書を作ろう』で扱われている132 の項目を理解するのに必要な情報として、文法的説明や使い方の説明、そして例文を提供しています。教科書や教材を作るときの素材としての使いやすさを考えて以下のような工夫がされています。

<三つの説明>

項目の説明は、「基本」、「発展」と「先生へ」の3段階に分かれています。
「基本」と「発展」に書かれていることは、学習者が知識として知り、理解する必要がある内容で、教科書や教材に載ることを前提としています。「発展」は「基本」より後の段階で学習することが望ましい内容です。学習の段階を「基本」と「発展」に分ける必要がないと考える学習項目には「発展」はありません。 「先生へ」にある説明は、「基本」「発展」より更に詳しい説明です。必ずしも教科書や教材に載せる必要はないと考えるものですが、学習者や学習目的、到達目標などに応じて教材作成者が学習内容とするかどうか判断してほしいと思います。

<学習者の負担を減らす>

取り上げた項目の構造や使い方の説明と例文は、海外で勉強する初級段階の学習者の負担にならないように配慮しました。説明の内容は、初級の学習段階で「せつめい編」の項目を使ってコミュニケーションをするのに最低限必要だと考えるものだけに絞りました。さらに、文章による説明だけでなく、図やイラスト、表も活用しています。また、例文は、各ブロックの話題にそった、中等教育段階の学習者に身近な語彙で作られています。人の名前、地名、固有名詞などを、国・地域に合わせて差し替えると更に学習者の理解の助けになるでしょう。

<四つのグループ>

項目は、文型、活用形、助詞、語彙の四つのグループに分けられ、どの項目がどのグループとして扱われているかがわかるようになっています。そして、グループ別に番号をつけ、必要な項目が探しやすいように工夫されています。

<柔軟な提出順序>

ブロック内の項目は学習する際の特定の順序を想定していません。また、項目の解説は、どの順序で学習してもいいように書かれています。
「せつめい編」は、『教科書を作ろう』のブロック構成にそって書かれています。教材作成者のみなさんが、別の構成で教材を作成するときには、その構成、項目の提出順、話題に応じて説明や例文などに必要な書き換えをしてお使いください。

<構造図>

文型の基本形を示しています。文の主語、目的語などで、それが何であるかわかっている場合は、一部が省略されることがあります。その省略例は、例文で示してあります。

教科書を作ろうの説明図7
教科書を作ろうの説明図6

5. 「れんしゅう編」とは

「れんしゅう編」は、学習者が日本語でコミュニケーションができるようになることを目標としています。「れんしゅう編」には、以下のような特徴があります。

<目標はコミュニケーション>

ことばは、自分を表現したり相手を理解したりするコミュニケーションのために使われます。ですから、学習の初歩の段階から四技能を使ってできるだけ日本語でコミュニケーションの体験ができることがよいと考えました。

<学習者同士のコミュニケーション>

海外での日本語の学習を考えて、学習者の日本語を使ったコミュニケーションの相手としては、いっしょに勉強しているクラスの人を想定しました。そして、学習者がこの練習を通して少しずつクラスの人や自分の新しい側面を発見したりすることができるように工夫しました。知識も経験も共有している学習者同士なら、ことばがまだ少ないときでもよく理解し合えるはずですし、なじみのない場面を設定して行う練習よりも、自分自身の気持ちや体験を表現する練習の方が、ことばの練習にはよいと考えたからです。

<練習の種類の多様性>

練習には、単語や文型などの定着を目指すものから、実際にコミュニケーションを体験するものまでのいろいろな段階の練習があります。実際にことばが使えるようになるためには基本的な定着練習が必要ですが、その練習ができるだけ楽しくできるように、「れんしゅう編」ではゲームの要素を取り入れたり、多様な種類の練習を取り入れたりして工夫しました。そして、コミュニケーションを体験する練習では定着練習で学習したことが応用できるようになっています。各ブロック内の練習はこの練習の流れを考えて並べてあります。この流れは、巻末「3.ブロック別練習の順序例」でくわしく紹介しました。

<日本のことを知る>

海外の中等教育段階の学習者が日本語を学習しながら、日本人や日本について少しずつ知ることができるような読み物も練習に取り入れました。「れんしゅう編」の練習は、『教科書を作ろう』のブロック構成にそって書かれています。教材作成者のみなさんが、別の構成や提出順で教材を作る場合は、それに合わせて練習を書きかえたり、新しい練習を加えたりしてお使いください。『教科書を作ろう(改訂版)』では、「れんしゅう編1」にブロック1から12までの練習が、「れんしゅう編2」にブロック13から20までの練習がおさめてあります。

<モデルテキストとタスクシートの表記について>

  • 漢字の表記
    漢字の使用を日本語能力試験4級の漢字(『日本語能力試験出題基準』のリストに掲載されている103字)とそれに20字を加えた123 字に制限した。(巻末6)
  • 数字の表記
    主に算用数字(1、2、3 ~)を使用した。ただし、人数(一人、二人)と一つ~十は漢数字にした。テキスト内の統一をとるために、人数(一人、二人)と一つ~十以外の数字も漢数字で表記した文章もある。

<固有名詞について>

日本人の人名については、「12-9 有名人」以外は、以下の名前を使用した。ここで使った名字は現在、日本人に多い名字の上位6 番目までである。
(名字)いとう、さとう、すずき、たかはし、田中、わたなべ
(男性の名前)たく、のりお、まさる(女性の名前)さとこ、ゆかり、かおる
町、村、川、通りなどの固有名詞は、「あさひ、あおぞら、こだま、さくら、ひかり、ふじ、みどり、もみじ」を使用した。

<音声ファイルについて>

みんなの教材サイト 「みんなの教材サイト」で音声ファイルを提供していますので、そちらをご利用ください。