11月イベント報告

 

11月18日(土)、NHK教育テレビで放映「エリンが挑戦! にほんごできます。」制作メンバーを迎え、それぞれの視点から、本教材並びに語学学習番組作りについて語っていただきました。

 

簗島氏、高村氏、北澤氏、岩切氏の写真

左から簗島氏、高村氏、北澤氏、岩切氏。

制作のコアメンバー4名を迎えた今回のイベントでは、現在放送中の番組がどのようにして誕生したか、そこにはどのような工夫が隠されているかを知ることができました。当日参加できなかった皆さんのために、話題になった事柄のうち特に興味深い点をご紹介します。

「海外の高校生をターゲットにした映像教材」からスタートした番組

2003年の調査によると、海外で日本語を学んでいる人の数は235万人。その7割が高校生以下の若い世代であることから、日本語国際センターでは、高校生を対象とした初級レベルの映像教材を制作することにしました。

海外の高校生の意見を採用

そこでまず、海外の日本語を学ぶ高校生1100人に、「どんな映像教材を望むか」というアンケートを行いました。その結果は、教材の内容・構成に詳しく生かされ、取り上げるトピック(話題)、映像、言葉など、多くの点を留意して反映されています。

その中には例えば、
・美男美女が登場する教材にしてほしい
・先生が、先生然としてしゃべる教材はいやだ

などという要望もありました。番組をご覧になった皆さんは、ドラマに登場するメインキャストの5人に、なるほどと納得されることでしょう。そしてエリンの先生として登場するCGキャラクターのホニゴン。まったく先生らしくないという点で、アンケートの要望に見事に応えています。

日本語国際センターがめざしたもの

今回の教材制作で日本語国際センター側がこだわったのは、言語項目と文化項目の2本の柱を立てることです。言語項目では毎回、何かができる(CAN-DO)、たとえば「自己紹介」、「時間を聞く」などということができるようになるための会話を取り上げ、そこで中心的に使われるキーフレーズの練習もします。文化項目では、伝統文化のみならず、高校生が遭遇する場面や話題など、上のアンケート結果を生かして、日本のものを紹介しています。言葉だけでなく文化的事象、更にその背景も学んでもらおうというのが、この教材の特徴です。

日本語教育的な姿勢と文化交流的な姿勢、この二つを融合させた教材をつくる、それだけでもたいへんなことですが、それに加えて、この教材をテレビ放送することが決まり、放送番組としても魅力あるものに仕立てていくことになりました。これをどうやって実現するか。日本語国際センター側と制作側スタッフは、何カ月にもわたって真剣な議論を続けたそうです。

 

会場入口の写真

会場入口には、ドラマ出演者や
ロケ風景の写真が展示されました。

この機会に新しいものを創ろう!

NHKエデュケーショナルの高村氏は10年来、番組を中心とした語学のコンテンツ作りを手がけてきました。イタリア語、英語など、外国語の番組コンテンツ作りのベテランですが、自分の母語を伝えるコンテンツを手がけるのははじめて。
「面白いチャレンジだ。今まで自分ができなかったこと、今までに発見したことなどをできるだけたくさん盛り込みたい。」
と思ったそうです。

「国際交流基金からの依頼は『若い人の目線に立って、日本の文化、今の日本が見えてくるような映像教材。』語学教材という観点から見ると、スキットにまだ習っていない文型や語彙がでてくるなど、わからないことが多いはずだが、映像を見ていると、今の日本人がどのような服を着て、どのような道を歩いているか、どういう表情をしてどんな持ち物をもち、どんな会話のリズムで話しているかといった隠れた情報がたくさんある。それを視聴者に感じとってもらえるようなコンテンツづくりを心がけている。」
と高村氏。

そうはいっても教材と番組は水と油のような存在なのだそうです。
教材は、教室で使用することを想定しており、一部だけ反復して利用することも可能。全部見なくてもよいのに対し、番組はその場にいてみてもらうのが大前提。この二つをどこかで融合させるためにたどり着いたのが、マガジンスタイルという手法です。

マガジンスタイルとは、いろいろな種類のものが集まって、ひとつの集合体となったもの。幼児番組に多いスタイルだそうです。例えば「おかあさんといっしょ」。いろいろなコーナーが集まっていて、順番の入れかえがある程度可能。抜き出して見ることも、通して見ることもOK。これなら番組としても教材としても使えるということで、エリンが挑戦!もこのスタイルを採用することになりました。

さらに「生身(なまみ)の講師が出てこないように」という国際交流基金の要望を実現するため、CGアニメーションを使うことを決めました。

CGアニメ、若手のイケメンが登場するドラマ、海外ロケというバラエティに富んだ内容で、この機会に新しいものを作ろうと考えた高村氏は、実際の制作を担当する映像制作会社として、この3つにノウハウのある、ディレクションズに白羽の矢を立てました。

映像の裏にある工夫と苦労

ディレクションズのディレクターである北澤氏は、番組全体の構成とドラマの演出を担当しています。

ドラマの制作については、学習項目を勉強するためのわざとらしいドラマとならないよう、知恵を絞ったそうです。

例えば3課のスキットでは、「家の中で夕食」という設定で、指示語の学習をします。スキットには基本スキットと応用スキットがあり、2種類のドラマを見せることができますが、これをどのようなものにするかが腕の見せ所です。

基本スキットには、必ず主人公のエリンが登場します。学習者もエリンに同調すると思われるので、ここでは日本の代表的なものを見せるようにします。夕食は日本の有名な料理である「てんぷら」を選びました。
これに対して応用スキットでは、日本の別な面を見せます。働いているお母さんが、デパ地下でお惣菜を買ってきて、電子レンジで温めて食べるという光景。これも日本の食卓の一風景です。

「学習項目を盛り込みながら、ドラマとしても楽しんでもらえるよう努力している」
と北澤氏。

しかしこのドラマは一般のドラマとは違い、難しい演出はできません。まず話している人が必ず映っている必要があります。一般のドラマは、話している人が映らないインサートといった演出手法がありますが、そのような複雑なつくりはできません。そのぶん、脇役の性格設定に工夫をこらしています。例えば、エリンのホームステイ先のお母さんがおっちょこちょいで、笑いをさそうといった具合です。

ロケーションも多用しています。日本にこのようなところがあるんだということを、映像で紹介できるからです。実際の高校でドラマ撮影を行ったり、駅や温泉旅館、おまつり、コンビニなどをドラマの舞台として使っています。学習者がそこにでてくる風景やモノに興味を感じることが予想される場合、エリンを長く歩かせて、映像的な興味でひきつける工夫もしています。

しかし駅など公共の場を使用したロケーションは、一般のスタジオと違うむずかしさがあります。北澤氏は、撮影に適した駅をさがして、30ぐらいの駅を見てまわったこと、バックに色の違う電車が入線してきて、せっかく撮った映像が取り直しになったこと、人の動線がきれるまで長い時間待つなど、苦労の多いロケの裏話を披露してくれました。

制作全体の管理とCGを担当しているのは、ディレクションズのプロデューサー岩切氏です。先生役の黄色いキャラクターを生み出すには、たいへんな苦労があったそうです。紆余曲折、試行錯誤を繰り返し、若い人に親しみやすい現在の姿に落ち着いたといいます。エリンのほうは、村上隆のアニメのような、日本的美少女を狙ったといいます。
「目の形だけでも、直したのは10回や20回ではきかない。」
という発言に、プロのこだわりを感じました。

ドラマに登場する俳優は、60-70人の中から、愛嬌のある人、高校生らしい芝居のできる素養のある人、そしてイケメンであることを条件に5人を選んだそうです。

一話分のドラマを撮影するには、台本決定、ロケ場所、衣装、小道具の決定、実際の撮影、編集作業と、だいたい1カ月かかるそうです。

 

熱心に話を聞いてメモをとる参加者の写真

熱心に話を聞いてメモをとる参加者。

思いがけない反響-これを刺激として次のステップへ

この番組では、キーフレーズの解説部分は可能な限り、日本語能力試験3級までの漢字と語彙を使用しています。それでも初級者にはむずかしい説明と思われるし、解説のスピードも早い。この点は、学習者だけでない視聴者のいるNHKで放映することになったことで、ジレンマに陥ったことの一つでもあります。ところがインターナショナルスクールの学習者は、この部分でさえ、大半は理解できると答えたそうです。

若い高校生はどうやら、先生が予想するより映像と言葉の端々をつなげて理解しているらしいのです。

当日のイベント後半は、参加者が質問用紙に記入した質問をもとに進行されました。みなさん熱心にたくさんの質問をよせてくださったので、すべてにお答えすることができないほどでした。
お答えできなかった参加者の方には申し訳なかったのですが、当日の講師陣はその質問をすべて読み、たいへん励みになったと喜んでくださいました。また、特に基金の講師が関わる日本語教育関連のご質問については、お答えできなかった内容を整理して、今後、何らかの形でご説明していけたらと考えています。質問用紙に記入いただいた皆さんに感謝いたします。

最後に、講師4名が寄せてくれたメッセージをご紹介します。

岩切氏

いろんな人の手を通ってできた教材、いろんな人の情熱がこもった教材です。外国人向けではありますが、日本人の皆さんにも楽しんでいただけたらと思います。

北澤氏

面白さの演出だけでなく、面白くて役に立つということを意識してやっていきたいと思います。
ドラマには毎回学習テーマがありますが、ストーリーとしても25回連続していくもので、男の子と女の子の恋のあやというものもでてきます。お楽しみに。

高村氏

予期しなかった思いがけないところで、番組の反響がでています。出演者のメンツにもよるのでしょうが、2チャンネル系のところで大きな反応があり、驚いています。私にとっては、賛否どちらも刺激になります。この教材が世界に出て行ったときに受ける反応も、今から楽しみです。

国際交流基金 日本語国際センター専任講師 簗島氏

教材作りにおいては、私たちが教えるのでなく、学習者が発見するのをどうやって促すかということに力を注いできました。意図しなかったところに意図しなかった反応がありますが、むしろそれを喜びつつ、いただいた反応を、次のステップにつなげていきたいと思います。

 

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