タイ(2016年度)

日本語教育 国・地域別情報

2015年度日本語教育機関調査結果

機関数 教師数 学習者数
初等教育 中等教育 高等教育 その他
教育機関
合計
606 1,911 3,601 115,355 24,789 30,072 173,817
2.1% 66.4% 14.3% 17.3% 100.0%

2015年度日本語教育機関調査結果 学習者数グラフ
2015年度日本語教育機関調査結果の学習者数に関する帯グラフ。初等教育は3,601名で全体の2.1%、中等教育は115,355名で全体の66.4%、高等教育は24,789名で全体の14.3%、学校教育以外は30,072名で全体の17.3%。

(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。

日本語教育の実施状況

全体的状況

沿革

 戦後の本格的な日本語教育は、1960年代中頃、タマサート大学及びチュラーロンコーン大学に日本語講座が設けられたことによって始まり、大学(特にバンコクの総合大学)を中心に行われてきた。1980年代になると、バンコクの総合大学の卒業生の中から日本語教師になる者が増え、徐々に他の総合大学へと日本語教育は広まった。また、1981年には、後期中等教育(高校)の第二外国語のひとつ(8つの外国語からひとつを選択)として正式に日本語が加えられたことにより、中等教育段階でも日本語教育が広まり始めた。その後2001年に基礎教育カリキュラムの改定が行われ、前期中等教育でも日本語講座の開設が可能になり、その影響で、日本語を教える中等教育機関の学習者数はさらに増加した。さらに2010年から、中等教育機関を対象に「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」(以下WCSS、詳細は【中等教育】欄参照)という新しい方針が導入され、文科系の生徒に限られていた第二外国語の履修が、理数系も含めた全てのクラスで可能になり、中等教育機関での日本語履修者の数が急増した。
また、1980年代後半から、高等教育では総合大学だけではなく、各地域にあるラチャパット大学(各地の教員養成大学から発展した地域密着型大学。詳細は【教育制度】欄参照)でも日本語講座を開設するところが増えた。また専門家の養成機関として、1990年代後半には、タマサート大学、チュラーロンコーン大学に、2009年には中部の地方都市ピサヌロークのナレースワン大学にも、日本研究関連の大学院が設置された。(ナレースワン大学は2013年から募集を休止)。 2013年には北部のチェンマイ大学、2014年にはバンコクのカセサート大学も修士課程を開講、また2016年にはチュラ―ロンコーン大学に日本文学の博士課程が設置された。

背景

 このような日本語教育の進展の背景には、親日的感情、日本とタイの経済関係の強さ、アニメや歌、コンピューターゲームといった日本のポップカルチャーの流入などが挙げられる。タイに進出している日系企業は、2014年JETRO調査によると4,567社にのぼり、進出企業の増加が認められる。さらに、2013年の一部ビザ免除に起因するタイ人訪日観光者増加(2015年は79万6千人で2012年に比べ3倍)も背景にあると考えられる。
 一方、大学を中心として発展してきた日本語教育の土台があることに加え、近年の中等教育の学習者の伸びには、2008年に発表された『仏暦2551年(西暦2008年)基礎教育カリキュラム』、「WORLD-CLASS STANDARD SCHOOL」という第二外国語重視の方針が強く影響している。

特徴

 タイの日本語教育、特に高等教育段階の日本語教育は歴史が古く、日本で学位を取得した優秀な研究者もバンコクを中心とする有力大学に多く在籍している。これらの人材を中心に日本語、日本語教育に関する研究やセミナー、勉強会の実施、日本で出版された教材や参考図書の翻訳など、さまざまな取り組みがなされている。一方、日本語を教えている高等教育は若干増加しているものの、学習者数においては横ばい傾向が続いている。
 一方、学習者の顕著な増加傾向が続く中等教育段階では、学習者は決して日本語が好きだから学習している生徒ばかりでなく、教育省の方針や学校の方針により、第二外国語の学習が義務付けられている場合も多い。こういった学習者は動機付けが希薄で、学習に集中させたり、継続して学習する意欲を持たせたりするのがなかなか難しい場合も多い。
 一方、2015年の日本語教育機関調査を見ると、学習目的について「マンガ・アニメJPOPが好きだから」という回答が一番多く、「日本への観光旅行」と答えた人も大幅に増えている。学校教育以外の機関で日本語を学ぶ学習者数が、2012年に比べて70%以上伸びていることを考え合わせると、日本のポップカルチャーや観光先としての関心が学習の動機になっている場合が多いと考えられる。

最新動向

  • タイ中等教育公務員日本語教員養成研修
     タイ教育省は、中等教育機関の第二外国語教師の不足を補うために2013年から2018年までの6年間で600名の教師を養成することにした。うち、200名が日本語教師枠で、毎年50名が約2年間の研修を受けて公務員の資格を得て中等教育機関に配属されることになる。研修内容は、教師資格を取るための研修と日本語教育に特化した専門研修に二分される。日本語の専門研修は国際交流基金が担当している。この専門研修の募集は2016年度で終了する。
  • 中等教育 日本語センター校の設置
     公立校において、隣接する県をまとめて一つの教育地区にし、それぞれの地区の中にリーダー的存在の「センター校」を設置、それぞれの教育地区が独立して、日本語や日本文化のイベントを実施している。2014年時点で日本語センター校は28校あり、中心になって日本語キャンプやコンテストを実施している。
  • 中国語の普及
     2012年に教育省が初中等教育機関に中国人教師による中国語の授業を開始することを発表した。多くの中国人ボランティア教師がタイに入り、第二外国語としての中国語の授業を行っている。 孔子学院は、複数の大学等と個別に学院設立の交渉を行っており、2016年現在、15カ所の孔子学院と11カ所の孔子課堂がタイに設立されている。

教育段階別の状況

初等教育

 初等教育では、日本語教育を行っている機関はまだ少なく、外国語プログラムを持つ学校で、小学校4年生から第二外国語の選択必修科目として教えている。教育方法などを模索している段階である。

中等教育

 1981年に、日本語は後期中等教育学校(高校)の第二外国語(全部で8言語)の中の1科目に加えられ、その後教員は約70%がタイ人だが、日本人教師も30%ほどいる。2001年に教育省より基礎教育の新カリキュラムが発表され、2008年7月には更に改訂版が公開された。この中で日本語は、8つの学習カテゴリー(タイ語、数学、外国語など)のうちの「外国語科目」のひとつとして位置付けられている。
さらに2010年に中等教育レベルを国際化に対応できる水準にすることを目指したWCSSが導入された。具体的には、教科横断的な科目設置がなされたのだが、日本語教育においては、文科系の生徒に限られていた英語以外の第二外国語の履修が、理数系も含めたすべてのクラスで可能になり、中高における日本語教育が大幅に拡大した。教育省によるとWCSSは当初45校だったが、2016年現在529校である。
 教員は約70%がタイ人だが、日本人教師も30%ほどいる。1994年から教育省の共催で実施してきた「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」が2014年に休止になり、2013年度からは先に述べた「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」が4年間で200名の公務員教師候補を育てた。これによって、中等教育における日本語教師は量・質ともに拡充できたといえる。
これら後期中等教育学校(高校)での日本語学習は①週に5コマ~7コマ程度学習する専攻コース、②週に1コマ~2コマ程度の選択科目、③テストは行わないものの単位として認定される、週に1回程度学ぶ日本語クラブの3つの形態があり、前期中教育学校(中学)では、多くが上記の②選択科目か③日本語クラブのいずれかである。
2015年度現在、日本語専攻クラスのある公立中等機関は255校であるという教育省の報告がある。教育省は各教育地区の日本語センターを中心に、キャンプやコンテストなどの各種イベントや教師勉強会を実施するように奨励している。
上述のWCSSの導入を受けて、21世紀の人材育成が教育省においても強く意識され、国際交流基金バンコク文化センターと教育省の共催で、2012年度から毎年、全国規模の日本語インテンシブキャンプが実施されている。また、国際日本語キャンプや、2014年度からはProject based learningを取り入れた日本語教師キャンプも実施されている。

高等教育

 国際交流基金が実施した2015年度日本語教育機関調査によると、国立・私立大学を合わせて90以上の大学で日本語教育が行われている。そのうち主専攻学科を持つ大学は、国立が30校(33学科)、私立が8校である。主専攻学科は文学部や人文(社会)学部に設置されている。東北部のコンケン大学と中部のブラパー大学は、教育学部に日本語教育専攻課程を設置している。これらは他大学とは異なり、日本語教員の養成を目的としており、卒業生は日本語教員免許が取得できる。
 2014年度時点の情報では国立大学の中のラチャパット大学では40校中25校で日本語コースが開講されており、主専攻コースを開講するラチャパット大学は11校ある。観光学科の日本語履修コースも多く、実務日本語への指向も強い。なお、ラチャパット大学や私立大学では日本人教師の占める割合が大きい。
 修士課程、博士課程に関しては、上記「沿革」に記したとおりである。

  • 日本語主専攻課程(学士号)を開講している高等教育機関は以下の通り(2013年9月現在)
    中部タイ
    (国立大学)
    • カセサート大学人文学部日本語学科
    • キングモンクット工科大学(ラーカバン校)産業教育学部日本語学科
    • 国立開発行政研究院(NIDA)言語・コミュニケーション学科
    • シーナカリンウィロート大学人文学部日本語学科
    • シラパコーン大学文学部日本語学科
    • タマサート大学教養学部日本語学科(ランシット校)
    • チュラーロンコーン大学文学部日本語学科
    • スワンスナンター・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • テープサトリー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • ブラパー大学人文社会学部日本語学科
    • ブラパー大学教育学部日本語教育プログラム
    • チャンカセーム・ラチャパット大学人文社会学部ビジネス日本語学科
    • バーンソムデットチャオプラヤー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • プラナコーンシーアユタヤー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • ラチャモンコン工科大学クルンテープ教養学部外国語学科日本語専攻
    • ラチャモンコン工科大学ラタナコシン教養学部外国語学科日本語専攻
    • ラーチャナカリン・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • ラームカムヘーン大学 Department of Thai and Oriental Languages
    (私立大学)
    • アサンプション大学文学部ビジネス日本語学科
    • サイアム大学教養学部日本語コミュニケーション学科
    • トゥラキットバンディット大学人文科学部ビジネス日本語学科
    • タイ商工会議所大学人文学部日本語学科
    • パンヤーピワット経営大学教養学部ビジネス日本語プログラム
    • ランシット大学教養学部日本語学科
    北部タイ
    (国立大学)
    • チェンマイ大学人文学部日本語学科
    • ナレースワン大学人文学部東洋言語学科日本語科(ピサヌローク校)
    • パヤオ大学教養学部日本語学科
    • ウッタラディット・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • チェンマイ・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • チェンライ・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    • ピブーンソンクラーム・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    (私立大学)
    • パヤップ大学人文学部日本語科
    • ファーイースタン大学教養学部ビジネス日本語学科
    東北部タイ
    (国立大学)
    • ウボンラーチャターニー大学教養学部日本語学科
    • コンケン大学人文社会学部日本語プログラム
    • コンケン大学教育学部日本語教育課程
    • マハーサーラカーム大学人文社会学部日本語学科
    • スィーサケート・ラチャパット大学教養理学部人文社会学科日本語プログラム
    • ナコーンラーチャシーマー・ラチャパット大学人文社会学部日本語学科
    南部タイ
    (国立大学)
    • タクシン大学人文社会学部日本語科
    • プリンス・オブ・ソンクラー大学(パッタニー校)人文社会学部日本語学科
  • 日本語関連専攻の修士課程を開講している高等教育機関
    • チュラーロンコーン大学文学部日本語専攻(日本語学コース、文学コース)修士課程
    • タマサート大学大学院日本研究科修士課程
    • チュラーロンコーン大学外国語としての日本語教育修士課程(2016年現在募集休止中)
    • 国立開発行政研究院(NIDA)ビジネス修士課程
    • カセサート大学修士課程東洋言語専攻
    • チェンマイ大学人文学部日本研究センター日本研究修士課程
  • 日本語関連専攻の博士課程を開講している高等教育機関
    • チュラーロンコーン大学文学部文学・比較文学学科博士課程(2003)
    • チュラーロンコーン大学日本文化・日本文学博士課程設立(2016)

その他教育機関

 学校教育以外、つまり民間の日本語学校レベルでは、2015年の教育機関調査で2012年調査より学習者が70%以上増加した。中等教育で第二外国語として日本語を履修している学習者数の伸びと比較して、大学での学習者数が横ばいであることを考え合わせると、学校教育以外の教育機関が大学生や日系企業におけるタイ人社員の受け皿になっている可能性がある。また、日本のPOPカルチャーや 日本観光を学習の動機に上げる学習者が多いことから、日本への様々な関心と必要性から学校教育以外での学習者が増加していると考えられる。

教育制度と外国語教育

教育制度

教育制度

 6-3-3制。
 初等学校(6年間)、前期中等教育機関(3年間)、後期中等教育機関(3年間)。なお、前期普通中学校3年生修了後、職業専門学校(3年間)に進学することもできる。高等教育は、総合大学(4年間)、ラチャパット大学(4年間)、職業高等専門学校(2~3年、4年)などがある。ラチャパット大学とは、教員養成を目的とした師範学校が前身である。この師範学校が、1992年にRajabhat Institute(地域総合大学)となり、その後の省庁再編でRajabhat InstituteRajabhat University(ラチャパット大学)となった。
 大学における教員養成課程は5年制であり、義務教育は、1999年の国家教育法改正で9年間となった。

教育行政

 担当官庁は教育省。2003年7月に教育省(初等教育、中等教育、一部の大学を管轄)、大学庁(総合大学を管轄)、国家教育委員会が統合され、新しい教育省となり、省内機構改革も実施された。

言語事情

 公用語はタイ語。

外国語教育

第一外国語:英語(必修)。初等学校は1997年より開始。英語は小学校1年次から学習を開始する。
第二外国語:原則として後期中等教育(高校)より開始。ドイツ語、フランス語、日本語、中国語、アラビア語、パーリ語、スペイン語、イタリア語の8科目から1科目選択。

外国語の中での日本語の人気

 2015年の公立中等教育機関学習者数上位5言語は、中国語、日本語、フランス語、ミャンマー語、韓国語で、2015年の公立中等教育機関において、第二外国語の学習者数・教師数・機関数は中国に次いで2位。学習者数の2010年から2015年の伸び率は日本語4.1-倍、中国語2.77倍という報告がある。

大学入試での日本語の扱い

 2006年度入学者対象の大学入試より導入された入試制度Admissionsは、2010年度入学者対象の大学入試(2009年3月実施)より、一部試験の名称と内容、及び選抜における配点の内訳が変更になった。変更点に関しては下表1)を参照のこと。(2014年からタイの大学の学年暦は8月開始、翌年の5月終了)。日本語は、専門的知識の試験であるPATProfessional Aptitude Test)の1科目に入っており、試験は「語彙」「漢字」「文法」「日常生活で使う基礎的な表現」「日本事情」が30%、「コミュニケーション能力」「作文力」「読解力」が70%で構成されている。フランス語、ドイツ語、中国語、アラビア語、バーリ語がPAT科目になっている。2011年度入学者対象の大学入試まで、PATは年3回(7月、10月、3月)実施され、前年度3月の試験は高校2年生も受験が可能であった。しかし、2011年にPATの実施回数、受験資格の変更が発表され、2012年度入学者対象の大学入試からPATは年度内に2回(10月、3月)の実施、受験は高校3年生と既卒者のみ受験可能、3月の入試を高校2年生が受験することはできなくなった。2回の試験の中で得点の高い方を大学に提出することになるが、これを実際に採用するかどうかは各大学、学科ごとに決められる。また、この共通試験を採用せずに大学が独自で入試を作成・実施することも可能である。

表1)Admission方式大学入学試験2010年度変更点
2009年度までの名称及び内容 2009年度までの配点の内訳 2010年度以降の名称及び内容 2010年度以降の配点の内訳
GPAX(高校3年間の全科目の平均点) 10% 変更なし 20%
O-NET(基礎的内容) 35~70% 変更なし 30%
GPA(各専攻が指定した科目のみの高校3年間の平均点) 20% GAT(タイ語の読解力、分析力と英語力) 10~50%
A-NET(発展的内容)※日本語はこの一科目 0~35% PAT(専門的知識)
 ※日本語はこの一科目
0~40%

 下表2)、3)、4)は外国語科目として選択できる6つの言語のうち、受験人数が多い上位3つの言語、日本語、中国語、フランス語の受験人数を年度ごとにまとめたものである。そのうち表3)については、それぞれの年度に複数回実施されたPATで各言語を受験した人数の延べ人数を表したものである。

表2)2007年度から2009年度までの日本語、中国語、フランス語受験者人数
  2007年度※ 2008年度※ 2009年度※
日本語 3,418名 3,697名 3,791名
中国語 3,675名 4,647名 5,820名
フランス語 6,059名 5,549名 5,084名

2007年~2009年は年1回行われていたA-netの人数。2010年は、3月に行われたPAT1回目の人数。

表3)2010年度から2013年度の大学入試 日本語、中国語、フランス語受験者延べ人数
  2010年度 2011年度 2012年度 2013年度
日本語 20,917名 8,144名 7,052名 9,052名
中国語 35,573名 12,904名 13,154名 19,982名
フランス語 23,870名 9,467名 9,239名 10,795名
  • 2010年度は、2009年3月、7月、10月、2010年3月に実施されたPAT受験者の延べ人数。2011年度に比べ試験回数が1回多くなっている。
  • 2011年度は、2010年7月、10月、2011年3月に実施されたPAT受験者の延べ人数。
  • 2012年度-2016年度は、年2回実施されたPAT受験者の延べ人数。
表4)2014年度から2016年度の大学入試 日本語、中国語、フランス語受験者延べ人数
  2014年度 2015年度 2016年度
日本語 7,950名 12,702名 7,052名
中国語 15,320名 26,751名 28,670名
フランス語 10,338名 16,561名 18,995名

学習環境

教材

初等教育

 日本語教育を実施しているそれぞれの学校によって教材は異なる。自作教材を利用している学校や、中等教育用教科書を部分的に利用して教えている学校もある。

中等教育

 ほとんどの学校で『あきこと友だち』国際交流基金バンコク日本文化センター、『みんなの日本語』スリーエーネットワークのどちらかが使用されている。他に『日本語よろしく』(泰日経済技術振興協会)、泰日経済技術振興協会編『にほんご・あいうえお』(泰日経済技術振興協会)、『日本語初歩』国際交流基金日本語国際センター(凡人社)なども使用されている。『あきこと友だち』は、出版から10年が経過したので、2017年3月の完成を目指して改訂作業が進んでいる。
 また、学習時間の少ない選択科目の日本語学習用に制作された「こはるシリーズ」が、広く使われている。この教科書は、国際交流基金バンコク日本文化センターが制作し、泰日経済技術振興協会が出版している。まず、2011年3月にひらがな学習用の『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』、場面会話と日本の文化事情を学ぶ教科書『こはるといっしょに にほんごわぁ~い1』は2012年3月に、続編の『こはるといっしょに にほんごわぁ~い2』は2013年2月に出版された。日本の文化事情を学ぶユニットでは、CDに現在の日本を視覚的に紹介する写真も数多く収められ、専攻科目として学ぶコースでも部分的に活用されている。また続けて『カタカナスースー』も、2014年国際交流基金バンコク日本文化センターによって出版された。

高等教育

 初級では、『みんなの日本語』(前出)、『日本語初歩』(前出)、『日本語よろしく』(前出)、『基礎日本語』(泰日経済技術振興協会)が使われている。中級以上では、『J.Bridge』小山悟(凡人社)、『日本語中級』(泰日経済技術振興協会)、『日本語上級』(泰日経済技術振興協会)、その他に日本で出版された中級教材も使用されている。

その他教育機関

 タイ語に翻訳された教材は、タイ語版『みんなの日本語』(前出)、タイ語版『J.Bridge』(前出)などの総合教材が広く使われている。ほかにも、漢字や文法、日本語能力試験対策などのスキル別教材の翻訳版が多く出版され、利用されている。国際交流基金制作のDVD教材も『エリンが挑戦にほんごできます』のタイ語版が泰日経済技術振興協会より出版されている。
 国際交流基金制作の『まるごと 日本のことばと文化』入門のタイ語版が、2016年3月に泰日経済技術振興協会より出版される予定である。

マルチメディア・コンピューター

 視聴覚教材として絵教材やビデオが使用される。コンピューターを使って教材作成をする教師は比較的多い。都市部ではインターネットが普及し、情報収集のツールとしての活用が進んでいる。中等教育機関においても、都市部では教具としてパワーポイントを利用している教師も多い。その一方で、コンピューターの活用が十分にできない環境の学校が地方にはあり、都市部と地方の学習環境の違いが存在している。大学によっては、宿題や授業のフィードバックをインターネット上に掲載し、学習者の自主的な学習を促すところや作文授業や異文化交流の一環として日本在住の日本人とE-mailでやりとりをする大学・高校もある。タブレット型コンピューターを学生に貸し出して授業をしている大学もある。

教師

資格要件

初等教育

 2004年に制定された「教育公務員及び教育職員規律法」によって、教員の免許制度が設定されることとなった。2008年に一部改訂されている。免許を申請するための資格は、満20歳以上、学士号またはタイ教員評議会(The Teachers’ Council of Thailand)によって認定されたそれと同等の資格、1年以上の教育課程に対応する教育機関における教育実習の修了、の3点である。これによって大学の教員養成課程は従来の4年課程から5年課程となった。この資格要件は、初中等教育機関に共通するものである。また、学校種別、教科別にはなっていない。

中等教育

 中等教育機関の教師になるための資格要件は、上述の初等教育機関と共通。
 国立の中等教育機関(タイでは多くが国立)の専任講師(公務員)になるためには、教員採用試験に合格する必要がある。公務員の人数抑制のため学校との直接契約の教師も多い。以前は、大学で日本語を専攻した日本語教師は少なく、英語やフランス語、タイ語など他教科の教師が、大学の副専攻やその後の学習を経て日本語を教えるようになった者が多かった。
 2013年から先述の「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」が開始され、2016年までに日本語能力試験N3レベル以上を持つ200名の日本語教員候補を輩出した。(実際に全員が公務員になるのは2018年)

高等教育

 大学の日本語学科の卒業生の中から高等教育機関の日本語教師になる者もいる。多くは、日本などの国外または国内の大学院を修了した者である。タイの大学のポストを得るには、修士号以上の高い学位が必要である。大学で職を得てから、博士号取得のために在職でタイの大学の博士課程で学ぶ教師、日本に留学する教師も少なくない。

その他教育機関

 各教育機関が独自に雇用している。

日本語教師養成機関(プログラム)

  1. 1.大学の日本語教員養成プログラム
    コンケン大学教育学部(2014年開設)とブラパー大学教育学部で実施していたが、ブラパー大学は2011年から新規募集を中止している。中等教育機関で教える日本語教師養成プログラムは、5年制で、最終学年の5年次には、中等教育機関で教育実習を行う。
  2. 2.「中等学校現職教員日本語教師新規養成講座」 1994年度―2014年度
    国際交流基金バンコク日本文化センター、タイ教育省  共催
    現職のタイ人公務員高校教師(他教科教師)で、日本語教師になる意志のあるものを対象に実施された。日本語と日本語教授法の研修で、機関は10ヶ月。修了生は2014年までに260名を超え、中等教育機関の日本語教師の約半数を占めている。現場で、本来の専門科目以外に日本語を教えている場合も多い。
  3. 3.「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修」 2013年度―2016年度
    国際交流基金バンコク日本文化センター、タイ教育省  共催
    タイ教育省は、中等教育機関の第二外国語教師の不足を補うために2013年から2018年までの6年間で600名の外国語教師を養成することにし、うち日本語教師候補は、毎年50名が訳2年間の研修を受けて公務員の資格を得て中等教育機関に配属されることになる。

日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割

初等教育

 日本語を教えている学校は非常に少なく、初中等一貫教育を行っている学校が存在する。日本人教師は学校と直接契約で雇用されている。

中等教育

 日本からの各種の派遣プログラムによって派遣された教師と、各教育機関が独自に雇用した教師がいる。また、タイ在住日本人のボランティア教師(無給)もいて、タイ人教師のアシスタントとして授業に協力している。初級の日本語指導に加えて、年中行事などの伝統文化及び若者のライフスタイルなど、最新の日本事情紹介も期待される。
 また、2014年度から国際交流基金の「日本語パートナーズ事業」が2020年度まで7年間の計画で始まっており、日本人の学生やシニア等の人材が、タイ各地の日本語教師や生徒の日本語学習のパートナーとして各地の高校などに派遣されている(2016年度派遣のタイ4期は約10か月間の派遣)。彼らは教師ではないが、現地教師とティーム・ティーチングを行い、日本語教育を支援するとともに、派遣先校の生徒や地域の人たちに日本文化の紹介を通じた交流活動を実施している。タイは2014年度から2016年度までで187名のパートナーズが派遣されている。

高等教育

 各教育機関が直接独自に雇用している。ほとんどの大学では、日本語教育または関連分野での学士・修士号取得を条件としており、さらに教授経験や日本語教育能力検定試験合格が問われることもある。会話(発音指導を含む)や作文を担当することが多いが、主専攻課程がある機関では中級指導に加え、課程のカリキュラムへの助言や日本の大学との交流事業への協力が期待されることがある。

その他教育機関

 各教育機関が独自に雇用する。初級から中級の指導及び日本語能力試験対策などが期待される。日系企業などの社員に対する日本語教育に関わることもある。

教師研修

 現職の日本語教師を対象に実施されている研修には、国際交流基金バンコク日本文化センター主催のもの、泰日経済技術振興協会の年会やタイ国日本語教育研究会による月例会、年次セミナーなどがある。タイ国元留学生協会や各大学によるセミナーも近年活発に開催されている。 また、訪日研修として国際交流基金「海外日本語教師研修」に加え、タイ国日本語日本文化教師教会(JTAT)が国際交流基金関西国際センターと共催で研修を実施している。
 また、訪日研修として国際交流基金「海外日本語教師研修」に加え、タイ国日本語日本文化教師教会(JTAT)が国際交流基金関西国際センターと共催で研修を実施している。

現職教師研修プログラム(一覧)

1.国際交流基金バンコク日本文化センター,タイ教育省 共催
タイ人中等教育日本語教師対象
  • 「日本語ブラッシュアップ集中研修」:1年に2回、学校の長期休暇に各30日間実施される。参加人数は毎回25名~35名程度。
  • 「教授法ブラッシュアップ地方研修」:半期ずつ同じテーマで全国5カ所を巡回する。2日間にわたり、ワークショップ型研修が実施される。理解度、思考力重視のため使用言語はタイ語。半年の参加延べ人数は約200名。
2.国際交流基金バンコク日本文化センター,タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT) 共催
大学日本語教員向けセミナー
  • 「日本語教育セミナー」:1年に1回、毎年異なるテーマで実施され、日本から日本語教育研究者を招き、新しい情報を得る機会とする。1日または2日間の実施。参加者はタイ人教員、日本人教員半数程度で計80名前後。
3. 国際交流基金バンコク日本文化センター,タイ国日本語教育研究会 共催
主に日本人教員対象のセミナー
  • 「合同セミナー」:1年に1回、毎年異なるテーマで実施される。1日の研修。参加者は主に日本人教員で計50名程度。
4.国際交流基金地方派遣専門家による研修会
  • 「マタヨム東北地方研修」中等教育機関で日本語を教えている教師(タイ人・日本人)や実習生を主な対象とした日本語の教え方などを扱う研修。年に2回程度。
  • 「マタヨム北部地方研修」中等教育機関で日本語を教えている教師(タイ人・日本人)を主な対象とした日本語の教え方などを扱う研修。年に3回程度。
  • 「コンケン大学教育学部日本語教育ワークショップ」:1年に2回程度、北部地域の大学教師や高校教員、コンケン大学の実習生を対象に実施している。

教師会

日本語教育関係のネットワークの状況

 現在タイ国内の教師会は下記の6団体。

現在タイ国内の教師会
タイ国日本語日本文化教師協会: タイ国内の大学、ラチャパット大学、高校のタイ人日本語教師を中心とした組織。
タイ国日本語教育研究会: タイで日本語を教える教師の全国組織、日本人教師中心。
北部タイ中等教育日本語教師会: 北部タイの中等教育機関で日本語を教えている教師により構成されている。「北部タイ高校生日本語コンテスト」などを主催。
南部日本語教師会: ソンクラーを中心とした南部地域の各機関の日本語教師により組織されている。
北部タイ日本語日本研究大学コンソーシアム: チェンマイ大学や北部の9大学が参加して、定例会や活発な活動を実施している。
タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会: 主に年少者に母語または継承語として日本語を教える教師と保護者の会。

 各教師会の活動としては、日本語のセミナーや勉強会の主催、webサイト運営などを行っている。

日本語教師派遣情報

国際交流基金からの派遣(2016年10月現在

日本語上級専門家

 国際交流基金バンコク日本文化センター 1名
 コンケン大学 1名

日本語専門家

 国際交流基金バンコク日本文化センター 1名
 タイ中等教育機関 2名

日本語指導助手

 国際交流基金バンコク日本文化センター 1名

国際協力機構(JICA)からの派遣(2016年10月現在)

青年海外協力隊

  • タマサート クロンルアン ウィッタヤーコム中高校 
  • タートパノム中高校 1名
  • プラーンクー中高校 1名
  • トリアムウドンスクサ南部高校 1名
  • ウィチェンマトゥ中高校 2名

JICAのページへ

その他からの派遣

 日本語教師をタイ国内の中等教育機関や大学に派遣するプログラムは、複数のNPO法人や国際交流団体等により実施されているほか、民間日本語学校(日本語教師養成機関)が提携している機関に派遣している。

シラバス・ガイドライン

初等教育

 (下記【中等教育】を参照のこと。)

中等教育

 タイでは初等教育・中等教育をあわせて基礎教育と位置付けているが、この12年間の教育の学習目標や科目の指針となる「仏暦2544年基礎教育カリキュラム」が2001年11月に発表された。そして、2008年7月にはこのカリキュラムの改訂版とも言える「仏暦2551年基礎教育カリキュラム」が発表された。2001年版との大きな違いは、各学年における到達レベルと学習時間数が具体的に書かれていることである。「ビジョン」「目標」「キー・コンピテンシー」「望ましい資質」「学習水準・指標」「各学年、各学習内容グループの基礎学習構造」「学習成果の測定・評価プロセス」について記載されている。

高等教育

 総合大学の日本語主専攻コースでは、これまでの成果に基づきシラバスやカリキュラムは大学独自に設定され、5年ごとに更新されている。新規に主専攻課程を開講する場合は、教育省の審査・認可を受ける。

その他教育機関

 教育省が定めるガイドラインに沿って、シラバスやカリキュラムを作成する必要がある。認可を受けずに独自に設定している機関もある。

評価・試験

 日本語学習者の到達度を測る試験としては、日本語能力試験、また、日本留学希望者のための日本留学試験が実施されている。
日本語能力試験は、毎年2回、7月にバンコクとチェンマイ(北部)で、12月は上記2都市に加えてソンクラー(南部)とコンケン(東北部)で実施している。受験者は2013年度以降、毎年合計3000人程度増加し、特にバンコクでの受験者増加が目立つ。タイで最も受験者が多いレベルはN5でN4~N1へと続く。

日本語教育略史

1947年 ボピットピムック後期中等教育日本語講座開設
1964年 タイ国元日本留学生協会附属日本語学校日本語講座開設
1965年 タマサート大学日本語講座開設(1982年主専攻)
1966年 チュラーロンコーン大学日本語講座開設(1971年主専攻)
1969年 在タイ国日本国大使館広報文化センター日本語学校日本語講座開設
1973年 泰日経済技術振興協会附属日本語学校日本語講座開設
1974年 第1回日本語弁論大会開催
1976年 カセサート大学日本語講座開設(1983年主専攻)
1977年 チェンマイ大学日本語講座開設(1987年主専攻)
1980年 コンケン大学人文学部日本語講座開設(2004年主専攻)、タイ商工会議所大学日本語講座開設(1986年主専攻)
1981年 日本語が後期中等教育課程に正式科目として採用される
1982年 プリンス・オブ・ソンクラー大学パッタニー校日本語講座開設(1996年主専攻)
1983年 シラパコーン大学日本語講座開設(1997年主専攻)
1984年 日本語能力試験開始(第1回目)
ブラパー大学日本語講座開設(1996年主専攻)
1986年 ナレースワン大学日本語講座開設(1995年主専攻)
タマサート大学日本研究センター創立
1987年 キングモンクット工科大学ラカバン校日本語講座開設(1997年主専攻)
1988年 アサンプション大学日本語講座開設(1988年主専攻)
タイ国日本語教育研究会設立
1989年 ランシット大学日本語講座開設(1998年主専攻)
1991年 国際交流基金バンコク日本語センターがバンコク日本文化センターに併設される
1992年 日本語センター、バンコク日本文化センターの「日本語部」へ改組
1994年 中等学校現職職員日本語教師新規養成講座開始(2004年から9期実施)
1997年 タマサート大学大学院修士課程「日本研究」研究科開設
1998年 大学入試科目に日本語が採用される
1999年 チュラーロンコーン大学大学院修士課程「日本文学及び日本語学研究科」開設
2002年 シーナカリンウィロート大学人文学部日本語主専攻課程開設
2003年 JTATJapanese Teachers Association in Thailand)設立
2004年 中等教育用日本語教科書『あきこと友だち』完成
コンケン大学教育学部日本語教育学科開講
2005年 国際交流基金制作「日本語を話そう」テレビ放映
2006年 中等学校現職職員日本語教師新規養成講座再開(10期~)
2007年 チュラーロンコーン大学大学院修士課程「外国語としての日本語(日本語教師養成プログラム)」開設
泰日工業大学(Thai-Nichi Institute of Technology)開学
2008年 タイ教育省『仏暦2551年(西暦2008年)基礎教育カリキュラム』を発表
日本語教育国際シンポジウム「東南アジアにおける日本語教育の展望」開催
2009年 JTATが法人化され、タイ初の日本語教育関係の学会となるタイ国日本語日本文化教師協会が誕生
ナレースワン大学大学院日本研究コース開設(2013年から募集を休止)
2011年 中等教育選択科目用日本語教科書『こはるといっしょに ひらがなわぁ~い』出版
2012年 同上『こはるといっしょに にほんごわぁ~い1』出版
教育省 国際交流基金バンコク日本文化センター共催
日本語インテンシブキャンプ開催
2013年 同上『こはるといっしょに にほんごわぁ~い2』出版
チェンマイ大学日本研究修士課程開設
2014年 同上『カタカナスースー』出版
日本語パートナーズ派遣事業開始
タイ中等教育公務員日本語教員養成研修開始 2013年度―2016年度
中等学校現職職員日本語教師新規養成講座 休止
カセサート大学修士課程東洋言語専攻開設
2015年 教育省 国際交流基金バンコク日本文化センター共催
日本語国際キャンプ開催
2016年 日本語能力試験オンライン申込み(バンコク、チェンマイで開始)
チュラーロンコーン大学日本文化・日本文学博士課程設立

参考文献一覧

ページトップへ戻る