オーストリア(2017年度)
日本語教育 国・地域別情報
2015年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数 |
---|---|---|
12 | 30 | 1,322 |
教育段階 | 学習者数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 52 | 3.9% |
高等教育 | 1,067 | 80.7% |
その他 教育機関 | 203 | 15.4% |
合計 | 1,322 | 100.0% |
(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
首都ウィーンにおける日本研究の歴史は長く、1939年にはウィーン大学に日本学研究所が設立されている(同研究所は1945年に活動を停止したが、日本語の講義は1947年に再開。1965年に新たに日本学研究所が設立された。2000年1月に中国学研究所と統合し、現在は東アジア学科となっている)。1973年にはウィーン大学翻訳・通訳研究所に日本語学科が設立された。このほか、ウィーン経済大学、ウィーン工業専門大学、グラーツ大学、ザルツブルク大学、インスブルック大学で選択科目として日本語が導入されている。
大学では以前はマギスター(日本の大学院修士課程に相当する学位)取得のためのカリキュラムが提供されていたが、大学法改定を受け、2003年にウィーン大学東アジア学科日本学コースに学士制度が導入された。
中等教育機関では、1982年にウィーン22区の商業高等アカデミーで課外選択科目として、1991年より正規の第二外国語として日本語が導入された。同校では2003年6月をもって日本語講座は廃止されたが、2017年10月現在、ウィーン市で2校、グラーツ市及びブルック市で各1校が課外選択科目として日本語を導入している。また、いくつかの市民大学、職業訓練学校等で日本語が教えられている。
背景
1873年に開催されたウィーン万国博覧会で日本の美術品・工芸品が高く評価され、欧州に流入した浮世絵が世紀末芸術に大きな影響を与えたように、また、明治期以降多くの日本人留学生がウィーンで学んでいるように、芸術・学術面における日墺の交流の歴史は長い。
現在でも、日本はアジアにおける経済的なパートナーとして重視されており、オーストリアを訪れる多くの日本人観光客も一定の存在感を与えており、日本に対する関心は一般に低くはない。一方、学生など若年者層が日本語学習を始める動機としては、マンガ、アニメなどのポップ・カルチャーの魅力が多くあげられている。
特徴
ウィーン大学東アジア学科日本学コースはヨーロッパでも有数の伝統ある日本研究機関で、充実した講師陣とカリキュラムを誇っている。
初等・中等教育においては、東欧を含むヨーロッパの諸言語に重きを置いており、日本語教育を導入している学校は数校の中等教育機関に留まっている。
最新動向
ウィーン大学東アジア学科日本学コースでは2017年10月現在696名が登録しており、そのうち新規入学者は193名。2016年と比べて新規入学者数が44%増えた。
教育段階別の状況
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
ウィーン市で2校、グラーツ市及びブルック市で各1校が課外選択科目として日本語を導入している(2017年10月現在)。なお、グラーツ市の講座は市内全域の高校生を対象として、1校に集めて開講されている。
高等教育
ウィーン大学東アジア学科日本学コース及び翻訳・通訳研究所日本語学科で日本研究及び翻訳・通訳(日本語)の学位が取得できる。ウィーン大学東アジア学科日本学コースでは2003年より学士制度が導入され、日本語・日本学専攻学生は3年間で学士号を取得し、日本学で修士号を取りたい学生はその後修士課程に進学する。
東アジア学科日本学コース(3年間の学士課程)では最初の2年間に日本語を集中して学び、常用漢字習得と中級前半修了に達することが要求される。1年目はオーストリア人教師担当の日本語理論(文法説明、翻訳、漢字)と日本人教師担当の実用日本語(文法練習、会話など)をそれぞれ週6時間、2年目はそれぞれ週3時間を必修科目としている。3年目は日本語理論、実用日本語、新聞購読それぞれ半年間週2時間を必修科目としている。
このほか、ウィーン経済大学、ウィーン工業専門大学、ザルツブルク大学、インスブルック大学で選択科目として日本語が導入されている(2017年10月現在)。
その他教育機関
ウィーン大学言語センター、グラーツ大学言語センター、インスブルック職業訓練学校、いくつかの市民大学及び商工会議所等で日本語講座が開設されている。一般の語学学校でも日本語講座が設けられており、幅広い層にわたって日本に関心を持つ人々が日本語を学んでいる。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
4-4-4制(普通教育中等学校高学年に進学する場合)。
4-4-1~4制(職業中級学校に進学する場合)。
4-4-5制(職業上級学校に進学する場合)。
4年間の基礎学校(6~10歳)修了後、大きく分けて中学校(全生徒数の約7割)または普通教育中等学校(約3割)の2通りの進路がある。いずれの進路を選択しても義務教育は6歳から15歳までの9年間。
中学校は4年制で、卒業後1年間の総合技術教育課程に進み、その後企業及び職業学校で職業訓練を行う。あるいは、能力・適性に応じて、普通教育中等学校の高学年や、職業教育中級学校あるいは職業教育上級学校に進むこともできる。普通教育中等学校は8年制で、前半4年修了後、能力・適性に応じて職業教育中級学校または職業教育上級学校に進むこともできる。
普通教育中等学校ならびに職業教育上級学校の修了時には卒業試験があり、それが大学入学資格となる。2002年の大学法改定を受けて、学士・修士制度が導入された。
教育行政
大学については、科学技術省が、教育全般については、教育・女性省が所管している。
言語事情
公用語はドイツ語。
義務教育に係る教育機関では、1992/1993年より必要に応じてドイツ語を母語としない児童のためのドイツ語による補講、母語による授業の導入(週2~6コマ。セルボ・クロアチア語、トルコ語、アルバニア語など23言語)が行われている。
外国語教育
2001年欧州評議会による欧州言語年提唱に応えて外国語教育を重視した教育政策をとっている。EUの東方拡大を考慮して、東欧の諸言語に特別な注意を払っている点が特徴的である。
初等教育から外国語を必須科目としており、2003年9月からは1年次からの外国語教育が義務化された(英語・フランス語・イタリア語・クロアチア語・スロベニア語・ハンガリー語・チェコ語・スロバキア語のいずれか。ほとんどの学校が英語を選択)。
中等教育では、普通教育中等学校では第二外国語が必須科目となっている。学校によって言語の選択肢が異なるが、英語・フランス語・イタリア語・スペイン語・ロシア語・チェコ語・スロベニア語・ハンガリー語・クロアチア語・ボスニア語・セルビア語などが教授されている。中等教育で履修率が高い外国語は英語(99.9%)、次いでフランス語(4.9%)。
オーストリアでは、近年は現代日本文化(特にアニメ・マンガ)への関心の高まりなどから、日本語は、青少年層をはじめ、幅広い層で人気が高まっている。
外国語の中での日本語の人気
詳細不明
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
- 自主作成教材と『漢字たまご初級 』
高等教育
- ウィーン大学東アジア学科日本学
1年生『文化初級日本語 改訂版 Ⅰ Ⅱ』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)
2年生『上級へのとびら』くろしお出版
3年生『上級へのとびら』くろしお出版 - ザルツブルク大学
『Japanisch bitte! Neu A1-A2』Watanabe-Rögerer Yoshiko他
その他教育機関
- ウィーン大学言語センター
『Marugoto. Japanese language and culture. Starter A1 + Starter A1 Rikai』 Sanshusha Publishing - リンツ市民大学
『Japanisch bitte! Neu』Klett Verlag - ザルツブルク商工会議所
『Einstieg Japanisch fuer Kurzentschlossene』(前出) - グラーツ大学言語センター
自主作成教材と『上級へのとびら』
マルチメディア・コンピューター
ウィーン大学は、eラーニングプログラムに大学の学習プラットフォーム"Moodle"を提供。"Moodle"は日本学コースの日本語の授業でも使われている。
ウィーン大学日本学科では自主制作の教材等を集めた専用ウェブサイトを設けており、学生の自習や宿題に利用されている。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
語学教員資格及び経験を有する者。
高等教育
日本語または日本文学の修士号及び2年間の教授経験を有する者。
その他教育機関
語学教員資格及び経験を有する者。
日本語教師養成機関(プログラム)
詳細不明
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
ウィーン大学東アジア学科日本学コースでは、日本語教育に係る6名の教員のうち5名が日本人教師。日本人教師のうち専任は2名で3名は非常勤講師として採用されている。同翻訳・通訳研究所では2名の教員のうち1名が日本人。
中等教育機関で日本語教育に関わっている教員はいずれも日本人。市民大学でも日本人教師が日本語講座を担当する例が多い。
現職教師研修プログラム(一覧)
現職の日本語教師対象の研修はない。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
1995年に「日本語教師の会」が発足。2001年に「オーストリア日本語教師会」に改称。教師25名が定期的(年2回)に勉強会を開催して教授法等について情報交換を行っている。
最新動向
特になし。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
統一の日本語教育のシラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
日本語教育略史
1939年 | ウィーン大学にて日本学研究所設立 |
---|---|
1945年 | ウィーン大学日本語研究所、活動停止 |
1947年 | ウィーン大学日本語研究所、日本語の講義再開 |
1965年 | ウィーン大学にて新しい日本語研究所設立 |
1972年 | ウィーン経済大学にて選択科目として日本語を導入 |
1973年 | ウィーン大学翻訳・通訳研究所に日本語学科設立 |
1979年 | ウィーン工科大学にて選択科目として日本語を導入 |
1982年 | ウィーン22区の商業高等アカデミーにて課外選択科目として日本語を採用 |
1988年 | ザルツブルク大学にて選択科目として日本語を導入 |
1991年 |
商業高等アカデミーにて第二外国語として日本語を導入 グラーツ大学にて選択科目として日本語を導入 |
1995年 | 「日本語教師の会」発足 |
2000年 | ウィーン大学にて日本学研究所が中国学研究所と統合 |
2001年 | 「日本語教師の会」が「オーストリア日本語教師会」に改称 |
2002年 | インスブルック大学にて選択科目として日本語を導入 |
2003年 |
ウィーン22区の商業高等アカデミーにて日本語講座廃止 ウィーン大学東アジア学科日本語・日本学に学士制度が導入 |
2012年 | 日本語能力試験の実施を開始 |
2015年 |
グラーツ大学社会経済学部内ビジネスランゲージセンターの日本語講座廃止 ウィーン大学東アジア学科がさくらネットワークのメンバーになる |