アイルランド(2017年度)
日本語教育 国・地域別情報
2015年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数 |
---|---|---|
40 | 68 | 3,070 |
教育段階 | 学習者数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 86 | 2.8% |
中等教育 | 2,422 | 78.9% |
高等教育 | 426 | 13.9% |
その他 教育機関 | 136 | 4.4% |
合計 | 3,070 | 100.0% |
(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
アイルランドの高等教育機関における日本語教育の本格的な発展は、1986年Dublin City University(DCU)での講座開設に端を発する。2016年現在、日本語を専攻できるのはDCUとUniversity of Limerick(UL)の2校であり、アイルランドの高等教育における日本語教育の中心となっている。
それ以外の機関でも日本語が学べる状況になっており、例えば、University College Dublin(UCD)では全学生を対象として選択科目として日本語のモジュールがあり、専攻を越えて日本語が受講できるシステムになっている。
また、2005年6月に日本語講座がいったん打ち切られ、一般向けの公開講座(夜間コース)として続いていたTrinity College Dublin(TCD)でも、2012年度よりUCD同様、日本語のモジュールが開設され、選択科目として取得できるようになった。
University College Cork(UCC)では2009年にChinese Studiesを中心にAsian Studiesという新しい大学院のコースが立ち上がり、2011年度からは日本コースが加わった。当初は一般向けのCertificateコースのみでスタートしたが、2012年から修士コース、2013年からは学部の学生も単位認定科目として受講できるようになっている。
中等教育に関しては、2000年に教育・技能省が日本語を中等教育強化対象外国語のひとつに選択し、Post-Primary Languages Initiative(PPLI)が設立されて以降、着実に発展してきた。現在は中等教育後期(Senior Cycle、日本の高校に当たる)で日本語教育が行われている。
(*注:Senior Cycleは、Transition Year(TY:高校1年次のいわゆるGap Year)とLeaving Certificateコース(LC:高校2年、3年次にあたり、中等教育修了資格試験のための2年間のコース)からなる。LCコースの日本語は中等教育修了資格試験の受験科目という位置づけであり、TYは数週間~数ヶ月の日本語・日本文化の紹介講座のような位置づけである。)
日本語を教えている中等教育機関は2007年には54校まで増加したが、その後減少し、2017年現在では30校程度である。2008年以降の学校数減少の理由は、LCの日本語科目に重点をおくため、TYのみで日本語を教えている学校に対する支援が減らされたことによる。なお、現在中等教育前期(Junior Cycle)全体のカリキュラム改革が進行中であり、日本語がShort Courseという枠組みの中で選択できる可能性が出てきたので、今後学習者数の増加も期待される。
また、アイルランドでは、夜間コースや民間の学校、Japan Societyなどのグループ、プライベートで日本語を学ぶ学習者もおり、2009年にアイルランドでの実施が始まった日本語能力試験では、社会人日本語学習者の受験も多い。日本語能力試験は年1回12月のみの実施であるが、2017年度よりDCUからUCDに会場が変更になり、受験申込がオンラインでできるようになった。
背景
1990年代のアイルランドにおける急速な経済成長や、EUの拡大に伴う多方面での諸外国との接触の増大によって他のヨーロッパ言語とともに日本語教育の需要も高まった。また、文化の多様性に対する関心の高まりを背景に、2000年9月にPost-Primary Languages Initiative:(PPLI)が設立され、中等教育機関でそれまで中心的に教えられていたフランス語及びドイツ語以外の外国語(スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語)を強化対象外国語として支援してきた。特に各学校で自主調達の難しいロシア語と日本語の教師をPPLIが雇用して高校に派遣するなど、日本語教育の底辺の拡大に大いに寄与している。
また、現在Junior Cycle (中等教育前期)のカリキュラム改革が進行中であり、その過程で通常の科目(Subjects) 以外にShort Courseの枠組みができたことで今後の中等教育への日本語の導入の可能性が出て来た。
高等教育機関に関しては、1980年代中頃に日本語講座が開設されたDublin City University
(DCU)を中心に専攻科目としての日本語教育が進められてきたが、University College Dublin(UCD)やTrinity College
Dublin(TCD)ではモジュール型の選択科目として日本語が受講できるなど、日本語専攻以外の学生も幅広く受講できるようにもなってきている。このように、専攻科目として日本語を学ぶ、他の分野を専門にしながら日本語の継続学習を進めるなど、学習者のニーズに合わせて、選択の幅が広がっていることも高等教育段階の日本語教育が発展してきている理由の一つであろう。
特徴
高等教育に関しては前述の通り、専攻科目、モジュール型の選択科目、あるいは大学内で一般向けに公開されている講座など、学習者のニーズに合わせて選択の幅が広がっている。専攻の場合は、ビジネスや他言語などと平行して専門的に日本語を学ぶことになっており、卒業後の就職など実利的な目的の学習者が多いが、大学院に進学する者もいる。翻訳研究・言語研究の歴史があるDCUに加え、UCCでも日本研究を専攻できるコースが設立され、アカデミックなレベルでの日本語・日本研究の発展が期待される。
一方、中等教育機関では、上述のPPLIの日本語教育支援に加え、日本のポップ・カルチャーに対する若者の関心の高まりもあり、2007年以降拡大した。Transition Year(TY:高校1年次にあたる)の日本語クラスでは、アイルランド中で1,000名以上の生徒が日本語や日本文化入門講座を受講している。Leaving Certificate(LC:中等教育修了資格)試験に関しては、以前は日本語が母語あるいは継承語である生徒や日本滞在歴のある生徒が中心だったが、2004年に日本語のシラバスが公開されて以降、外国語科目として一般的に日本語が学ばれるようになり、LCの受験者数も急増した。2006年には55人、2007年には95人、2008年には129名が受験し、2009年は約250名に増加した。2010年は一時的に170人に減少したが、2011年以降は250名程度に安定している。
最新動向
基本的に小学校、中学校では日本語教育が行われてこなかったが、Junior Cycleのカリキュラム改革に伴い、現在Short Courseとして中学校での日本語コースが始まっている。(但し、主要科目が200時間であるのに対して、日本語はその半分の100時間)。Short Courseとは、地域や学習者のニーズに合わせて特色を持った学校運営ができるように設置された枠組みであり、外国語共通科目の開発は2013年に始まり、2014年秋にフェイズ1が開始、2019年秋のフェイズ5まで段階的に異なる科目が導入される予定である。評価方法としては、全国統一試験とポートフォリオ評価の二本立てとなっており、Junior Cycle Student Award(JCSA)と呼ばれている。当初、教育省はJunior Certificate(統一試験)を廃止し、プロセス重視の各教師によるポートフォリオによる評価方式に変更しようとしたが、教職員組合の強い反対によりこの評価方法に落ち着いたという経緯がある。2017年度現在、2つの中学校でShort Courseとして日本語が教えられている。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育機関では日本語教育は行われていない。
中等教育
アイルランドでは、中等教育は前期(Junior Cycle)と後期(Senior Cycle)からなり、Senior Cycleはさらに、高校1年次にあたるTransition Year(TY)と高校2-3年次に当たるLeaving Certificate(LC)コースに分かれている。現在日本語教育が行われているのは、Senior CycleのTYとLCである。TYは、様々な経験を通じて人間的に成長し、将来的な視野を広げて行くことが期待される1年であるので、日本語科目に関しても日本語入門・日本文化体験という位置づけが大きい。本格的に日本語を学ぶのはLCの2年間であるが、到達レベルはCEFR/JF日本語教育スタンダードのA2レベル(A2.1)程度とされている。ここ数年のLC試験における日本語科目の受験者数は250名程度で安定している。
アイルランドの中等教育の場合、日本語を科目として採用するかどうか、時間割の中にどう組み込むかなどは各学校に委ねられている。したがって、学校の時間割の都合上、LCの日本語科目が正規の時間ではなく昼休みや放課後に日本語の時間が設定される場合もあり、クラスが小規模になってしまったり、途中で日本語をやめてしまう生徒が出たりするなどの原因ともなっている。また、学校に日本語科目がない場合は、毎週土曜日に開講されているSaturday Class(PPLIが主催、2017年現在ダブリン、コークで開講)で学んだりする場合もある。
なお、Junior Cycleでも2017年度からShort Courseとして日本語が教えられはじめ、それに合わせて日本語のシラバスを作成した。今後は、各教師への情報提供と研修を実施していく予定である。
高等教育
専攻、あるいは単位認定科目として日本語受講できるのは、Dublin City University(DCU)、University of Limerick(UL)、University College Dublin(UCD)、University College Cork(UCC)、Trinity College Dublin(TCD)の5校であるが、機関ごとに様々な特色を持っている。いずれの機関も日本の大学と交換協定を結んでおり、日本との交流が盛んに進められている。特にDCUでは、原則として3年次に全員が日本に1年間提携校に留学することになっており、日本語専攻の学生が高度な日本語力を習得することが期待されている。
また、アイルランドに限らず中等教育と高等教育の連関が課題として挙げられるが(「高校で日本語を勉強した学習者が大学で日本語科目を履修する場合また入門からスタートしなければならない」など)、UCDやTCDでは日本語がモジュール科目として設定されているので既習者が日本語レベルに合ったコースを受講できるようになっている。
アイルランドでは日本語教師養成課程を持つ機関はないが、ULでは外国語教育学と日本語という組み合わせで専攻として日本語を受講できるので、実質的に日本語教師養成という位置づけにもなる。
また、UCCではアジア研究コース在籍者用に日本語が履修できるようになっている。
(1)Dublin City University
- 《学士課程》
-
- (ア)応用言語学翻訳学コース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- (イ)国際ビジネスコース(人文社会学部応用言語翻訳学科)
- 《修士課程》
-
- (ウ)応用言語学翻訳学科
- 《博士課程》
-
- (エ)応用言語学翻訳学科
(2)University of Limerick
- (ア)ビジネス学科日本専攻(商学部)
- (イ)現代言語・応用言語学研究科応用言語専攻(人文学部)
- (ウ)成人教育
(3)University College Dublin
2005年よりモジュール制を開始し、どの学部の学生も日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。 2016年現在、次のモジュールが開講されている。Japanese1 (A1.1)、Japanese2 (A1.2)、Japanese3A (A2.1)、Japanese3B (A2.2)、Japanese4 (B1)。
(4)Trinity College Dublin
これまでの成人教育(一般向けの夜間講座)に加えて、2012年よりモジュール制を開始し、学部学生が日本語を単位認定科目として受講することができるようになった。 2016年現在、次のようなクラスが開講されている。
- 1.学部選択授業 A1、A2.1
- 2.一般向け夜間講座 Introduction(A1.1)、Post-beginner(A1.2)、Intermediate(A2)
(5)University College Cork
次のようなコースで日本語を履修できる。
- 1.アジア研究プログラム(学士課程)・選択科目
- 2.アジア研究プログラム(修士課程)・選択科目
- 3.世界言語コース(学士課程)・選択科目
- 4.スプリングボード・コース アジアビジネス言語文化上級ディプロマコース(一般成人対象)・選択科目
その他教育機関
一般社会人対象の語学学校等で、日本語を教えているところがいくつかあり、学習者は社会人や、大学生等である。高校生が試験勉強のために家庭教師を雇うこともある。また、コミュニティーセンターなどで開かれている各種夜間講座の中にも、日本語コースが開かれているところがある。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
6(8)-3-3(2)-4制
初等教育が6年間(6~12歳)(4歳から入学可能であり、その場合には8年間)、中等教育が5~6年間(13~18歳)、高等教育が通常4年間(19~22歳)である。
なお、中等教育はJunior Cycle(中等教育前期:日本の中学にあたる)とSenior Cycle(中等教育後期:日本の高校にあたる)からなり、加えてSenior Cycleは、Transition Year(TY)の1年間とLeaving Certificate(LC)の2年間で構成されている。TYの1年間はいわゆるGap Yearで、National Council for Curriculum and Assessment(NCCA http://www.ncca.ie/en/)のガイドラインに沿って学校ごとに独自のカリキュラムが組まれており、LCと直接リンクするものではない。Junior Cycle終了後、TYをとらずにLCに進むことも可能である。また、高等教育機関は4年間であるが、外国語専攻学科などは、3年次はYear Abroadにあたり、海外の提携校に留学する場合も多い。
教育行政
学校の運営母体は教会や地域である。教育科学省直轄の学校もある。しかしどの学校も国のカリキュラムに沿って授業をしている。
言語事情
公用語はアイルランド語(ゲール語)であるが、大多数の国民にとって日常使用する主要言語は英語となっている。公共交通機関や公共の場では、アイルランド語と英語が併記されたり両言語で放送されたりしている。
アイルランド語・英語ともに初等教育及び中等教育段階では原則的に義務づけられており、国内には英語で教育が行われる学校、アイルランド語で教育が行われている学校がある。しかし高等教育機関ではほとんどの場合、英語を使用して講義、研究が行われている。
また、近年とくに中東欧(ポーランド、ラトビア、エストニアなど)を中心に移民が増加してきたことを背景に、英語やアイルランド語を母語としない子供たちの教育や子供たちの母語の継承語教育に関する課題が話題に上るようになってきている。
外国語教育
公用語であるアイルランド語は、初等教育から必修科目となっている。中等教育では、伝統的に人気のあるフランス語、ドイツ語に加えて、スペイン語、イタリア語、日本語、ロシア語等が選択肢として加わる。Junior Cycle ではその他、ポーランド語、中国語が科目として確立している。(中東欧からの移民の増加を背景に、ポーランド語等の中東欧言語への関心が高まっている)。
現在、一番人気があるのはスペイン語であり、次いで中国語となっている。中国語はLeaving Certificateコース(LC:高校2-3年)の学習科目には入っていないが、TY(Transition Year)での普及が目覚ましく、学習機関数、学習者数を伸ばしている。また、2016年コークの高校で 孔子学院によるShort Courseが開始され、中等教育段階への参入の動きを加速させている。
PPLIでは「More Languages, More Options」というスローガンを掲げ、学習者のニーズや関心に合わせて、より多くの外国語の学習機会を提供することを目指している。Junior Cycle のカリキュラム作成過程においても、各外国語間で協働しながら、共通の枠組みを共有し、それを基にそれぞれの言語のシラバスを作成している。その中には、Irish Sign Languageも含まれる。
外国語の中での日本語の人気
フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語などのヨーロッパ言語が根強い人気を持ち、中等教育、高等教育での日本語の人気はそれほど高くない。LC受験者数では、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語に続く第6位である(ロシア語の場合はロシア語を母語あるいは継承語とする受験者が多い)が、その数はここ数年同水準を維持している。JETプログラムは2017年に30周年を迎え、参加者は1200人を超えたという。彼らの存在は、日本、日本語、日本文化を広めるのに一役買っていると思われる。
大学入試での日本語の扱い
アイルランドでは、大学入学に際し大学側が個別に入学試験は行っていない。中等教育修了資格(Leaving Certificate)試験の結果が大学入学の基準として用いられている。つまり、各試験の得点のうち上位6科目分がその生徒の「持ち点」となり、それに応じて大学や学部学科を希望し、入学するシステムになっている。なお、このLCの受験科目として日本語も選択できるようになっており、現在年間250名程度が日本語科目を受験している。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
中等教育機関では、前述のLeaving Certificateの試験に準拠した日本語教科書『NIHONGO KANTAN』(2007年出版)がほぼすべての日本語クラスで使用されているほか、かなの学習に関しては、同シリーズの『Hiragana Kantan』と『Katakana Kantan』を活用する機関が多い。
また、各教師が作成したプリントや宿題、試験などは、PPLIのサイト上で共有できるようになっている。
高等教育
各大学の日本語教育方針、科目の特徴や内容、シラバスに合わせて、各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。機関によってカリキュラムや日本語科目の位置づけが異なるので一概には言えないが、初級レベルの場合は、『まるごと日本のことばと文化』シリーズ 独立行政法人国際交流基金(三修社)、『Genki』シリーズ 坂野永理ほか(The Japan Times)、『Japanese for Busy People』シリーズ 国際日本語普及協会(講談社USA)などが使用されているようである。
その他教育機関
各教師が個別に作成した教材を使用したり、市販教材を活用したりしている。
マルチメディア・コンピューター
アイルランドでは、広く一般にコンピューターが使用されており、インターネットを通じて日本語情報へのアクセスが容易に行えることから、ある程度の基礎を習得した学習者はこれらのリソースを活用して学習を進めている。インターネット上の日本語のページや日本の動画閲覧を趣味にしている学生などは、日本での流行、マンガやアニメの情報に非常に詳しい。
授業中での使用に関しては、高等教育機関、中等教育機関のほとんどの機関で各教室にプロジェクターとWiFi(またはLAN)が装備されている。学習者一人ひとりがコンピューターを使う必要がある場合は、機関内のコンピューター室やマルチメディアルームを事前に予約し、利用しているようである。また、一部の学校ではスマートボード(Interactive Whiteboard)を使用した授業が行われている。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
中等教育機関で日本語教師として雇用される場合、原則としてTeaching Councilに登録することになっている。Teaching Council登録のためには、2年の教職課程(Professional Master of Education:PME)を修了することが必要であるが、加えて登録できる科目は2科目必要であり、大学での専攻と関係したものに限定される。
2017年1月からはTeaching Council登録の要件が変更されことが発表されている。新要件では、大学で日本語を専攻した者だけでなく、次のような要件を満たす人も、PME終了後、教師登録が可能となる。大学で何らかの言語を専攻したか、または言語学や言語教育学などの関連分野を専攻した者で、なおかつ日本語能力試験のN2合格以上の日本語能力を有する者。日本語母語話者で何らかの言語または、言語学、言語教育学などの関連分野を専攻した者。
通常の教師雇用の流れは、Teaching Councilに登録し、各学校が登録教師を採用する形式であるが、日本語に関しては各機関が独自に日本語教師を探し、雇用するということが困難なことから、現段階ではほとんどの日本語教師はPPLIが雇用し、日本語教育が行われている学校に派遣する形をとっている。そのため、Teaching Councilに未登録であっても教えている教師もいるが、将来的なことを考えるとTeaching Councilに登録し、正規雇用されるようになっていくことが望ましいと考えられている。なお、日本語だけでは授業数や学習者数が少ないので、一つの学校に雇用されるためには日本語以外の教科を教えられる必要があるのが現状である。
また、若干名であるが、元JETプログラム参加者で中等教師機関の教師をしている者(他教科で学校に雇用されている教師)の中には、学校側から日本語科目の担当を依頼され(特にTY)、日本語を教えている者もいる。
高等教育
国として定めている日本語教師としての特別の資格要件はないが、各大学で独自の基準で選考される。
その他教育機関
それぞれの機関で独自の基準で選考される。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を目的とした特別のプログラムは設置されていない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
高等教育機関では、DCUで日本人教師が常勤勤務しており、専門的な立場からカリキュラムの作成、授業担当だけでなく、コース運営や交換留学等の実務的な業務、大学院生の指導まで幅広くこなしている。他大学では、日本人ネイティブは非常勤として日本語を教えているが、大学内での日本・日本語関係のイベントでは主要な役割を担っている。現在、大学経営の財政問題等から、受講生が増加した場合でも日本人教師の採用数を増加できない状況である。
中等教育機関に関しては、教師の約3分の1が日本人ネイティブである。PPLIが雇用している教師は、滞在許可等の関係でアイルランド定住日本人であり、教師経験のある者となっている。
教師研修
中等教育の教師を対象とした研修が年に数回実施されているほか、アイルランド日本語教師会によるセミナーや勉強会なども不定期で行われている。また、ほぼ毎年国際交流基金日本語国際センターの短期研修に1名参加している他、欧州の日本語教師を対象としたアルザス・欧州日本語教師研修会(パリ日本文化会館・アルザス欧州日本学研究所主催)にも参加している。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
高等教育機関の日本語教育に従事している人たちを核として2000年にアイルランド日本語教師会(JLTI)が設立された。設立目的はアイルランドにおける日本語教育の推進である。また教育・技能省によって設立されたPPLIもJLTIと連携しながら活動を行っている。
JLTIでは、ホームページやFacebook、会員のメーリングリストを使って、様々な情報を提供しているほか、年間を通した活動として毎年3月にアイルランド日本語弁論大会を実施したり、年に数回のセミナーを行ったりしている。
また、JLTIの活動ではないが、毎年春にダブリン市内で「Experience Japan」という日本語・日本文化に関する大きなイベントが開催されており、日本語教育関係者だけでなく、日本語学習者や在アイルランド日本人、日本や日本文化に関心がある一般の人たちなど、日本人・日本関係者が一堂に会する機会になっている。
http://experiencejapan.ie/w/?page_id=219
最新動向
中等教育へのELP(European Language Portfolio)導入プロジェクト
2010年5月にプロジェクト発足。アイルランド中等教育用ELP(Council of Europe Accreditation No:10.2001)をもとにして日本語版を作成。特にチェックリストは中等教育修了資格試験(Leaving Certificate)の日本語シラバスに沿って内容を変更し開発された。その後、欧州評議会(Council of Europe)で認可をされた。なお、今後は各教育現場に運用されるよう研修を行うなどの普及を目指した段階に入っている。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2017年10月現在)
日本語上級専門家
アイルランド教育・技能省 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣
なし
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
2004年に高校修了資格試験を実施するにあたって、シラバスが公表された。
日本語教育略史
1986年 | Dublin City Universityにて日本語講座開設 |
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1990年 | University of Limerickにて日本語講座開設 |
1995年 | University College Dublinにて日本語講座開設 |
1999年 | Trinity College Dublinにて日本語講座開設 |
2000年 |
教育・技能省が日本語を中等教育レベル外国語強化対象言語に選択 アイルランド日本語教師会設立(第1回会合開催) |
2004年 | 中等教育資格試験の「日本語」シラバスが公開 |
2005年 |
Trinity College Dublinの日本語講座閉鎖(夜間の一般講座として開設) University College Dublinにてモジュール制開始 |
2007年 | 中等教育の日本語シラバスに準拠した教科書『Nihongo Kantan』作成 |
2009年 | 日本語能力試験開始 |
2011年 | University College CorkでJapanese Studiesのコース設置 |
2012年 | Trinity College Dublinにてモジュール制開始 |
2013年 | Junior Cycle Short Course用の日本語カリキュラム作成作業開始 |