キルギス(2017年度)
日本語教育 国・地域別情報
2015年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数 |
---|---|---|
23 | 48 | 924 |
教育段階 | 学習者数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 180 | 19.5% |
中等教育 | 169 | 18.3% |
高等教育 | 394 | 42.6% |
その他 教育機関 | 181 | 19.6% |
合計 | 924 | 100.0% |
(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1991年のキルギス共和国独立後に国内での日本語教育が開始した。1991年にキルギス国立総合大学(旧日本語名称:キルギス民族大学)に日本学科が設けられ、また同年、初等・中等教育機関の第一寄宿学校でも日本語教育が始まった。1995年にはキルギス日本センターが設立され、一般向け日本語講座が開始した。同センターは2003年にJICAに移管され、キルギス共和国日本人材開発センター(以下、「キルギス日本センター」)となり、日本語講座が引き継がれた。2013年8月からは国際交流基金との共同事業となり、「JF講座」としてJF日本語教育スタンダードに準拠した日本語コースがスタートした。現在、首都ビシケクにあるキルギス国立総合大学とビシケク人文大学、キルギス日本センターがキルギスの日本語教育の主要拠点となっている。日本語能力試験は2007年より行われるようになり、2015年からは年2回の実施となった。2017年12月はキルギスで第14回目の試験を予定しており、109名が受験の申し込みをした。
背景
キルギス共和国は日本のODA対象国であり、さまざまな援助を受けている。両国間の経済交流の機会は非常に少ないが、戦後日本の経済発展、現在の日本の科学技術、工業技術に高い関心が寄せられている。また、キルギス人は民族的に日本人への親近感が強く、遠い親戚といったような漠然とした意識をもつ者もいる。政治的に見ると、独立後キルギス政府は外国語教育に力を入れ、特に英語教育が盛んに行われるようになったが、その流れの中で日本語教育もさまざまな機関で行われるようになった。
特徴
長期にわたるカリキュラムに沿った日本語教育はビシケクの高等教育機関及びキルギス日本センターを中心に行われているが、2017年現在の学習者数は中等教育機関で学ぶ学習者が圧倒的に多く、10代の若者が日本語に触れる機会が多くなっている。日本語を学習する動機は日本の文化・伝統への興味、また将来、日本へ留学したり、研修に行ったりしたいといったものが多い。
最近、キルギスの若者は日本のアニメ・マンガに興味を持ちはじめており、アニメ・マンガは日本語学習の動機の一つだと考えられる。キルギスは日本語教育の歴史が浅いにもかかわらず、日本語運用能力に長けた者を少なからず輩出しており、今後、日本語を使った多様な分野で優秀な人材が輩出されるものと期待される。一方、日本留学を果たした人材が日本の知見に学んだ後本国で活躍するには、未だ企業も国立機関も受け入れ条件が整備できていないといえる。この状況の改善が今後の課題である。
最新動向
2017年10月現在キルギスで日本語教育を行っている機関は32機関あり、約1,500名がそれらの機関で日本語を学んでいる。前年度と比較すると学習機関は1.3倍、学習者数は1.5倍と爆発的に増加しているが、日本語を必須科目とした11年制の私立のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関)の開校が学習者数の急増につながっている。地方においても、これまではJICAボランティアによる課外活動が中心であった日本語教育が私立のシュコーラで教科として取り入れられるようになったことで、中等教育機関を中心に日本語学習者が急増している。
また、日本留学や研修を目指して日本語を学習する一般向けの日本語学校も徐々に学習者数を増やしながら規模を拡大しているため、今現在、キルギスにおける日本語教育は大きく様変わりしようとしている。
教育段階別の状況
初等教育
初等教育機関では日本語教育は必須科目として実施されていない。JICAボランティアが派遣先のシュコーラ(初等・中等一貫教育機関)や子どもセンターで選択科目、課外授業として、日本語教育を行っているが、キルギスの初等教育期間は4年間と短く、その間に日本語教育に触れる機会のある学習者は僅かである。
全学年で日本語を必須科目とするシュコーラの登場で、初等教育でも日本語教育が正式に行われる日も近いと思われるが、現時点では学習者数、授業数など確認できていない。
中等教育
2017年10月現在、キルギスにおいて最も多くの学習者に日本語が学ばれているのは中等教育機関であり、その数は800人近く、全体の50%を超えている。多くは選択科目としてであるが、キルギス国内に4つの私立シュコーラを開いているBilimkana(ビリムカナ)では日本語を必須科目としており、Bilimkanaに在籍する学生が中等教育機関学習者の半数を占めている。
高等教育
- ビシケク人文大学 東洋国際関係学部(日本語主専攻、副専攻、修士課程)
- アラバエフキルギス国立大学付属日本語学院 ホテルサービス学部、地域学部
(第一外国語)/2017年新設校 - キルギス国立総合大学 東洋学部、地理歴史学部(日本語主専攻、第二外国語)
- キルギス国際大学付属科学研究所 地域学科 言語学科
(第一外国語、第二外国語)/2017年新設校 - キルギスロシアスラブ大学(第二外国語)
- キルギス共和国国際大学 文学・コミュニケーション学科
(第一外国語、第二外国語) - アラトー国際大学(第二外国語)/元 アタチュルク国際大学
- オシュ国立大学 地域学部(日本語主専、第二外国語)
- 中央アジアアメリカ大学(選択科目)
- キルギス国立大学アラバエフ 東洋言語文化学部(日本語専攻)
中等教育機関に次いで、多くの学習者が日本語を学んでいるのは高等教育機関である。大学名や組織の変更など混乱も見られるが、2017年度、新たに2つの高等教育機関で日本語教育が始まり、現在、10の高等教育機関で日本語教育が行われている。新しく加わった機関の学部や専攻は「ホテルサービス」や「通訳」などであり、高等教育機関でも新たな分野の日本語教育が始まっている。
大学卒業後の日本語研究の場としては、ビシケク人文大学の大学院修士課程東洋学・国際関係学研究科があり、修了すると東洋学修士、国際関係論修士の学位が取得できる。
以下、キルギス国内の高等教育機関、日本語学習者在籍数が多い順(2017年10月現在)。
その他教育機関
ビシケクのキルギス日本センターでは2017年10月現在、一般コースとして15歳以上の学習者向けに入門から中上級までの6クラスを開講しており、学生・社会人を中心に約70名が日本語を学んでいる。また、ビシケクでは日本留学や研修を目指して日本語を学ぶSaat-BilimやJapanStyleといった学校も確実に学習者を増やしている。現時点で合わせて70名程度が在籍しているが、高等教育機関と提携を結ぶなど、今後さらに規模の拡大が予想される。
地方ではタラス市やナリン市の子どもセンターで日本語教室が開かれており、主に10代の若者を中心におよそ100名がNGOボランティアやJICAボランティアから日本語を学んでいる。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
4-5-2制
初等・中等一貫教育(シュコーラ/11年制)。
初等教育が4年間(6または7歳~9または10歳)、前期中等教育が5年間(9または10歳~13または14歳)。その後2年間後期中等教育の高等学校に通うものと3年間の専門学校に進学する者とに分かれる。
高等教育機関には大学(2012年入学者より四年制へ完全移行)、コレージュ(3年間)がある。
教育行政
初等、中等、高等教育機関のほとんどが、教育科学文化省の管轄下にある。
言語事情
独立後、国家言語はキルギス語となったが、2000年4月に新たにロシア語も公用語となった。キルギス系住民の約8割はキルギス語、ロシア系や朝鮮系住民及びドゥンガン人など非キルギス系住民とキルギス系住民の約2割はロシア語を使用しているが、旧ソ連時代のロシア語教育の影響で、公共機関においてはロシア語使用が頻繁である。最近は、高等教育現場でも国家言語であるキルギス語使用を政府が強く求めはじめている。
外国語教育
多くの国立シュコーラでは1年生から11年生まで外国語教育が行われている。生徒は選択科目として外国語を履修する。一番多く学ばれているのは英語で、トルコ語、ドイツ語、フランス語も多く学ばれている。
キルギス語が国家言語、ロシア語が公用語であるため、キルギス語を使用する学校ではロシア語が必修、ロシア語を使用する学校ではキルギス語が必修となっている。そのほかでは、多くの学校で第一外国語として英語教育が行われているが、一部の私立学校では、第一外国語のほかに第二、第三外国語としてドイツ語やフランス語が選択されている。
外国語の中での日本語の人気
外国語を学習する生徒の中では英語が一番人気で、ドイツ語、フランス語がこれに続いている。キルギス語がチュルク系言語であることから、トルコ語が、また、アラブ語、日本語、中国語、韓国語等の東洋言語の人気も伝統的に高い。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
自主制作教材、歌、ひらがなカード、絵教材など
中等教育
『みんなの日本語初級Ⅰ』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、DVD
『DVDで学ぶ日本語エリンが挑戦!にほんごできます。』国際交流基金(凡人社)
『まるごと』国際交流基金(三修社)
高等教育
『みんなの日本語初級』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
『J-Bridge』小山悟(凡人社)
『できる日本語』できる日本語教材開発プロジェクト(アルク)
『中級へ行こう』平井 悦子(スリーエーネットワーク)
『BASIC KANJI BOOK』加納 千恵子ほか(凡人社)
『まるごと』国際交流基金(三修社)
その他教育機関
『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)
『文化初級日本語』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)
『日本語20時間 ロシア語版』宮崎 道子ほか(スリーエーネットワーク)
『漢字物語』ガリーナ・ワラビョーワ
『まるごと』国際交流基金(三修社)
教師
資格要件
初等教育
学士号(専門不問)を持っていること。
中等教育
学士号(専門不問)を持っていること。
高等教育
キルギス国籍保有者は専門学士号(5年間の大学教育修了で得られる)を持っていることが最低基準となっている。また、ほとんどの講師が日本学に関する専門学士号を取得している。日本人講師については特別な要件がないところがほとんどだが、修士号取得を条件とするところもある。
その他教育機関
学士号(専門不問)を持っていること。その他に教員免許を必要とする場合がある。
日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を行っている機関はない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
現在、ビシケクの日本人教師は人文大学日本語日本文学科の学科長として1名、派遣教師は日本センターに国際交流基金派遣の日本語専門家が1名、その他の教育機関JapanStyleに現地採用の教師1名のみとなっている。各教育機関とも、ネイティブ教師獲得のために、派遣を要請したり、インターンシップとして日本から呼ぼうと広告を出したりしているが、現時点では厳しい状況である。
その他、NGOボランティア、JICAボランティア(青少年活動)が地方の子どもセンターや中等教育機関で選択科目や課外活動として日本語を教えている。
教師以外の在留邦人、日本人留学生などによるゲストとしての授業参加は、時折行われているが、在留邦人の数も少なく、頻繁には実施できないのが実状である。
教師研修
ビシケク人文大学では、日本語講座修了生の中から優秀な学生を選んで1年間実習生として日本語講座の授業実習をさせている。
また、キルギスでは日本語教師会主催で日本語教師研修が行われており、これまで夏季集中セミナーや若手日本語教師を対象とした研修が行われた。その他、キルギス共和国日本語教育セミナーでは毎年、様々なテーマでセミナー・ワークショップが行われており、現職講師の研修の場となっている。
訪日研修としては、文部科学省教員研修留学生、国際交流基金の日本語教師研修プログラムが利用されている。
現職教師研修プログラム(一覧)
日本語講座の授業実習(ビシケク人文大学)
教員研修留学生(文部科学省)
日本語教師研修プログラム(国際交流基金)
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
日本語教育の発展を図ることを目的とするキルギス日本語教師会が存在し、日本語教育に関する情報交換の場、日本語教師相互の親睦・交流の場となっている。会員はビシケクの教師だけでなく、地方都市の教育機関に所属する者も多い。
主な活動は隔月の定例総会開催、年3回の教師会会報の発行、弁論大会、日本語教育セミナーの開催や日本語能力試験の実施などで、活発に活動を行っている。キルギス日本語教師会が主催するキルギス日本語弁論大会は2016年大会で通算19回目をむかえた。その他在キルギス日本国大使館など他機関が主催する日本・日本語・日本文化普及活動にも積極的に協力している。また、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスの3か国が持ち回りで中央アジア日本語弁論大会及び中央アジア日本語教育セミナーを開催している。
最新動向
2017年4月には第21回中央アジア日本語教育セミナー、8月には日本・キルギス外交樹立25周年を記念して、キルギス日本学・日本語教育国際研究大会が人文大学において教師会主催で開催された。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣(2017年10月現在)
日本語専門家
キルギス日本人材開発センター 1名
国際協力機構(JICA)からの派遣(2017年10月現在)
なし
その他からの派遣
(情報なし)
シラバス・ガイドライン
統一シラバス、ガイドライン、カリキュラムはない。
評価・試験
評価・試験の種類
キルギス独自の共通の評価規準や試験などはなく、現在のところ、日本語能力試験が唯一の共通の試験となっている。しかし、実際にはキルギス国内において試験の結果を日本語能力の証明として使用するような機会も少ないのが現状である。
日本語教育略史
1991年 |
キルギス国立総合大学に日本学科開設 第一寄宿学校にて日本語教育開始 |
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1992年 |
ビシケク人文大学東洋国際関係学部にて日本語正規教育開始 アラバエフ記念キルギス教育大学東洋文化部にて日本語正規教育開始 |
1995年 | キルギス日本センター設立、一般向け日本語講座が開始 |
1999年 | キルギス日本語教師会発足 |
2001年 | オシュ国立大学国際関係学部にて日本語正規教育開始 |
2002年 | 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国 |
2003年 | キルギス日本センターがJICAに移管 |
2004年 | ビシケク人文大学において日本語日本文学科開設 |
2005年 | 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国 |
2007年 | 第1回日本語能力試験実施 |
2008年 | 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国 |
2011年 | 中央アジア日本語教育セミナー、中央アジア日本語弁論大会開催国 |
2013年 |
第1回キルギス共和国日本語教育セミナー実施 キルギス日本センター日本語講座をJF講座として開始 |
2014年 |
第18回中央アジア日本語弁論大会 第18回中央アジア日本語教育セミナー開催国 |
2015年 | 日本語能力試験の年2回の実施を開始 |
2016年 | 第4回キルギス共和国日本語教育セミナー実施 |
2017年 |
第19回中央アジア日本語弁論大会 第19回中央アジア日本語教育セミナー開催国 私立シュコーラ、Bilimkanaにおいて全学年で日本語教育開始 |