パキスタン(2017年度)
日本語教育 国・地域別情報
2015年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数 |
---|---|---|
3 | 13 | 84 |
教育段階 | 学習者数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 0 | 0.0% |
高等教育 | 25 | 29.8% |
その他 教育機関 | 59 | 70.2% |
合計 | 84 | 100.0% |
(注) 2015年度日本語教育機関調査は、2015年5月~2016年4月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
1981年、首都イスラマバードにある国立現代語大学(National Institute of Modern Languages)に日本語科が設置された。同学院はカーイデ・アーザム大学附属の国立機関としての位置づけであったが、2000年5月の大統領令により、名称が国立現代語大学(National University of Modern Languages(NUML))に変更され、独立した国立大学の資格を得た。2017年現在、NUMLでは、6ヶ月の資格コース、1年間のディプロマコース、1年半の日本語通訳コース及び5週間のサマーコースが開設されている。全コース合わせて48名が在籍している。
在カラチ日本国総領事館が実施機関となり1972年7月に日本語講座が開講され、パキスタンにおける日本語普及事業に努めてきたが、2003年からは同講座の実施機関はパキスタン・日本文化協会(シンド)に移管された。2006年8月、パキスタン・日本文化協会(シンド)に移管されていた日本語講座は、教室をカラチ市内のアーツカウンシルオブパキスタンに移した。また、JICAから派遣されていたシニアボランティアは任期満了により、2009年3月に帰任し、その後、後任は派遣されていない。
また、カラチ大学(シンド州立)においては、2001年に人文学部に選択科目のひとつとして日本語コースが開設され、2年間のコースで週3回、3時間の講義が行われていたが,現在は週2回の講義となっている。
そしてカラチ市内のインダス大学(私立)においては、2016年度より日本語の授業が必須単位となり、約200人の学生が日本語を学んでいる
またジャムショロ市内シンド州立シンド大学においては、東・東南アジア地域研究センター内にて日本語講座開始の機運が高まっており、その開設準備が始まったところである。
民間の団体としては、イスラマバードにあるオイスカエコロジカル日本語学校イスラマバード支部、ラホールにあるアルサニア日本語センター(AJLC)、オイスカエコロジカル日本語学校ラホール支部、ラホール近郊のグジャランワラにあるグジャランワラ日本語センター(GJLC)及びさくら日本人学校が日本語教育を行っている。
2017年10月現在、国立現代語大学(NUML)日本語学科には大学所属の日本人講師が1名在籍している。またイスラマバード在留邦人がボランティアで会話授業を補佐している。
日本語能力試験はこれまでに2002年度~2016年度で計15回、イスラマバード及びカラチにて実施された。
背景
パキスタン国内での対日感情は良好であるが、日本に対する積極的な関心度は余り高いとはいえない。ビジネスにおける日本語の需要もまだまだ小さい。2010年前後までは、主としてギルギット・バロチスタン(旧北方)地域への日本からの観光客増加のため、日本語通訳や観光ガイドに対する需要が増大してきていたが現在は観光客減少に伴い日本語ガイドのニーズが低下している。しかし、最近のパキスタン経済が好調なこともあって、ビジネスマンの学習者も増える傾向にあり、日本語に対する関心も徐々に高まりつつある。特にパキスタン最大都市カラチ市においては、60社を超える日系企業が進出しており、それら企業の被雇用者が日本語を学ぶケースが出始めている。
特徴
基礎(初等・中等)教育段階では日本語は教えられていない。上述のとおり日本語を学ぶ機会はきわめて限られており、パキスタン国内での日本研究、日本語学研究は根付いていない。また、現時点ではその需要も高いとは言えず、パキスタンでは、研究活動や仕事をする上で、日本語に関する知識を有していることによるメリットは大きいとは言えない。他方で、潜在的に外国語を学ぶことに対して関心を持つ者が多く、また既述のように、商業都市カラチやラホールにおいては進出している日系企業に勤務する者やビジネスマン、また、日本文化に対する関心が高い者もおり、学習希望の動機となっている。学習者規模は近年、年間約300人前後となっている。現在パキスタン・日本文化協会(シンド)が行っている日本語講座の学習者総数は1972年の開講以来5,000名を超えている。
最新動向
近年、YouTube等ソーシャルメディアを通して日本のアニメを見る子供たちが増えてきており、その影響から日本語に興味を持つ若い世代が多くなってきている。特に、2012年から2016年の間に政府からYouTubeにかけられていた制限が解禁され日本のアニメ等にアクセスがしやすくなったことの影響は大きい。一方で、中国・パキスタン経済回廊計画の影響により各地に中国語クラスが多数開設されており東アジア言語の中では中国語が最も学びやすい言語となっている。
教育段階別の状況
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
日本語教育は実施されていない。
高等教育
国立現代語大学に日本語学科が設置されている。またカラチ市内のインダス大学では、日本語が必須科目となっている。カラチ大学でも日本語は開講されているが、空調の無い教室での授業を強いられており、そのため受講学生数の確保に苦労している。
その他教育機関
パキスタン・日本文化協会(シンド)において、一般成人を対象とした日本語講座を開設している。学習者の大半は20歳以上の学生及び社会人(ガイド、コンピュータ関係、日系企業勤務者等)が占め、男女比はほぼ半々である。そのほかに不定期ながら、日本からの帰国留学生の会などが日本語講座を開設することもあるが、教材等の不足により長続きさせることが困難である。また、オイスカエコロジカル日本語学校(イスラマバードとラホールにそれぞれ支部あり)、ラホールのAJLC、グジャランワラのさくら日本語学校とGJLCの5つの語学学校が日系企業勤務者や留学希望者など、日本語を必要とする一般成人や学生に対し日本語講座を開設している。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
5-3-2制。
一般に就学年齢は5歳で、初等学校(primary school)5年、中等学校(middle school)3年、準高等学校(secondary high school)2年を終えると、日本での中学校卒業と同レベルと見なすことができ、マトリック(matric)という修了証書が得られる。
その後、高等学校(higher secondary school)2年、カレッジ(college:日本の大学教養課程に相当)2年、大学(degree college:日本の大学専門課程に相当)2~3年、大学院(university)と進む。法律上、義務教育制度はない(初等教育5年の義務化は以前から考慮されているが、実現されていない)。
パキスタンの識字率は、パキスタン財務省発行の2014-2015年度経済白書によると、58%である。
教育行政
監督官庁は教育省である。但し、高等学校以上の高等教育行政に関しては、高等教育委員会が管轄する。
言語事情
公用語は英語、国語はウルドゥー語。
国語ウルドゥー語の母語人口は全人口の約8%に過ぎず、シンド州でシンディー語が州の公用語として認められている他、各州で様々な言語が使用されている。したがって、日常会話はそれぞれの母語、他州の者とのコミュニケーションはウルドゥー語、仕事の多くは英語を用いるという、多民族多言語社会を形成している。
公用語でもある英語の通用度は高く、官公庁の公式文書や高等教育の多くは英語が用いられている。
外国語教育
大学教育では、選択科目として英語のほか、外国語は必修科目のひとつとなっている。ただし、日本語が大学入試で課されている例は見あたらない。
初等教育の段階でも大半の私立校の場合、英語で全科目の授業が実施されている。
外国語の中での日本語の人気
フランス語、ドイツ語の人気が高いが、ここ数年東アジアの中国語、韓国語に対する注目が高まっている。日本語は、常に一定の人気がある。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
日本語教育は実施されていない。
高等教育
日本で市販されている英語版の日本語教科書・教材が用いられていることが多い。ただし、学生はコピーされたものを使用しているのが現状である。国立現代語大学(NUML)日本語学科では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)が使われている。また、2007年および2009年には、在パキスタン日本国大使館を通じて、国際交流基金よりNUML日本語学科に対して、日本語教材が寄贈された。さらに、2016年から草の根文化無償資金協力によりNUMLの日本語学科校舎新設及び機材提供を行っており2017年にプロジェクト完成予定である。
その他教育機関
日本から市販教材を購送してもらうなどしている。パキスタン・日本文化協会(シンド)主催日本語講座では、国際交流基金より寄贈を受けた教材を使用している。
マルチメディア・コンピューター
日本語教育にマルチメディア・コンピューターは使用されていない。
教師
資格要件
初等教育
日本語教育は実施されていない。
中等教育
日本語教育は実施されていない。
高等教育
日本語教師になるための資格要件は特に定められていない。一般の教員になるためには、教育学修士号を取得していることが望ましいが、絶対条件ではない。
国立学校および州立学校の教員になるには、原則として、連邦レベル、もしくは州レベルの公務員採用委員会が実施する試験を受ける必要がある。私立学校の場合は、それぞれの学校の独自基準により選考が行われる。
その他教育機関
日本語教師になるための資格要件は特に定められていない。
日本語教師養成機関(プログラム)
パキスタンで日本語教師を養成している機関、プログラムはない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
イスラマバードの国立現代語大学においては常勤の日本人講師1名が授業を行っているほか、同大学において、在留邦人、日本人留学生などが、非常勤もしくはボランティアとして授業をしている。その役割としては、発音及び言い回しなどの矯正を行っている。
教師研修
国内で現職の日本語教師対象の研修はない。但し、国際交流基金の訪日日本語教師研修を受けた教師がいる。
現職教師研修プログラム(一覧)
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
日本語教育関係のネットワークはない。
最新動向
なし。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
(情報なし)
評価・試験
国際交流基金主催の日本語能力試験がイスラマバードとカラチで年1回実施されている。
日本語教育略史
1972年7月 | 在カラチ日本国総領事館に日本語講座開講 |
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1981年 | 国立現代語学院(National Institute of Modern Languages)に日本語科設置 |
2000年5月 | 大統領令により、国立現代語学院の名称が国立現代語大学(National University of Modern Languages)に変更。国立大学の資格を取得 |
2001年 | カラチ大学(シンド州立)において人文学部にて選択科目のひとつとして日本語コース開設 |
2003年 | 在カラチ日本国総領事館の日本語講座がパキスタン・日本文化協会(シンド)に移管 |
2007年12月 | 日本語能力試験をイスラマバード及びカラチにて2年ぶりに実施 |
2016年9月 | インダス大学(私立)にて、日本語講座が必須科目として開講 |