世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教師養成講座を担当して

カイロ日本文化センター
飯尾幸司

みなさん、こんにちは。カイロ日本文化センターで日本語教育アドバイザーをやらせていただいている飯尾と申します。

早いもので、2017年1月に私がカイロに派遣されてはや3年半が過ぎ、間もなくカイロを離れなければならない時期となりました。

2018年も「日本語教師養成講座」についてお話しましたが、今回は「日本語教師養成講座」のその後についてご報告したいと思います。

カイロ大学日本語教師養成講座の写真
カイロ大学日本語教師養成講座

カイロ日本文化センターに派遣された日本語上級専門家の主な業務は、SNS等を通じた地域のネットワーク化促進、出張指導、年一回の大規模セミナーの実施、オンラインセミナーの実施などがありますが、その中で最も力を入れ、私の人生においても大切な宝物となったのが今回ご報告する「日本語教師養成講座」です。

お恥ずかしい話、カイロに来るまでの私は、日本語文法や日本語教授法についてある程度の知識は持っていたつもりですが、それらはみんなばらばらに存在し、何のための日本語教育なのかというブレない大きな柱を持つことができないでいました。

また、学習者と共に教師自身も成長するんだという意識が大切なんだと口では言っていましたが、そう言っている私自身が失敗を恐れ、手堅く無難に業務をこなそうとするところがありました。

そんな私が2年目の教師養成講座を始める前に決めたことが二つあります。

一つは、正解は教師が全て持っているという考えを完全に手放して受講者と共に学ぶこと、そしてもう一つは、自分自身が講座の受講者の誰よりも成長してみせるということです。

もちろん、全てが順風満帆というわけではなく、私の配慮不足から受講者の自信を失わせてしまい落ち込むこともありましたが、回を重ねるごとに受講者の反応がよくなってそれが自信につながり、肩の力が抜けてこの教師養成講座を心から楽しむことができるようになっていきました。

そして、私がやりたかったのは、私にかかわった全ての日本語教育関係者に今よりも日本語教育を楽しんでもらうこと、つまり、「幸せになるための日本語教育」だったんだなということに気づくことができました。そのことでそれまでバラバラに点在していた日本語教育に関する知識が全てつながったような気がしています。

それらのおかげで、以前は苦手だった初対面の教師を対象にした大規模なセミナーも今では心から楽しめるようになりましたし、「幸せになるための日本語教育」という大きな柱を一本通すことにより、私の話すことばの一つ一つが以前よりも日本語教育関係者の心の深いところに響くようになったと感じています。

この成功体験を何とかして維持しようとするのではなく、私のチャレンジは更に続いています。

2019年にはこの養成講座のうわさを聞き付けたカイロ大学日本語学科の学科長から、カイロ大学でも是非やってほしいと依頼され、カイロ大学でも教師養成講座を担当させていただきました。

オンライン講座ライブレッスンの写真
オンライン講座ライブレッスン

そして、2020年には教師養成講座の一部である日本語文法に関してのオンライン講座を開講し、その講座にはなんと世界各国から25名の申し込みがあり、うれしいことに、その中には私が以前から何とか力になりたいと考えていたイラクの教師もいました。

更に、今後、オンライン講座で使用している動画は、講座終了後に一般公開する予定です。

そうすれば、これまで学びたくても学ぶ機会がなかった世界中の日本語教師の役に立ち、多くの教師に日本語教師としての喜びを感じてもらえると確信しています。

他人からの評価を気にしすぎていた以前の自分なら、自分の授業を顔出しで全世界に対して公開するなんてことは不可能だったと思います。

このようなチャレンジをすることができたのは、私を信頼してついてきてくれた受講者のみなさん、エジプト全体の日本語教育についてのビジョンを持ち、日ごろからお世話になっているカイロ大学のアーデル先生、私を信じて自由に仕事をさせてくれるJF関係者、そして、普段から私に刺激を与えてくれる仲間のおかげです。

エジプトを中心に「幸せのための日本語教育」の同志は増加中です。

彼らがきっと世界中の日本語教育関係者に私の熱い想いをまき散らしてくれると強く信じています。

これからもチャレンジ精神を失わず、私にできることを一つずつやっていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Cairo Office
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東の近隣地域まで視野に入れた様々な支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、国内2か所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対する情報提供やコンサルティングなどを行う。また、セミナー等を開催し、日本語教師のスキルアップを図るとともに、地域連携の強化、相互交流の活性化にも努めている。
所在地 5F United Leace Bldg. 106 Kasr Al-Aini St., Garden City, Cairo, Egypt
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1998年
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