世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)厳しい状況の中で独自の取り組み 

国際交流基金ソウル日本文化センター
山口敏幸・小川靖子・柿内良太

1.全国師範大学生日本語教育研修

急激に進む少子化や教育課程改訂等の影響で、韓国では、特に中等教育を中心に日本語学習者が急激に減少しています。それに伴い、新規の日本語教員の採用がほとんどない状況が続いています。今後も学習者の大幅な増加は見込めず、教員養成も量から質への転換期を迎え、「少数精鋭」を目指した研修の必要性が高まっています。このようなニーズに応える形で、ソウル日本文化センター(以下、ソウルセンター)では、将来の日本語教育を中心となって支える人材を育成する目的で、韓国全土の師範大学6校に在籍する日本語教育専攻の大学生を対象とした「全国師範大学生日本語教育研修」を2017年1月に初めて実施しました。

この研修では、より現実的で実践的なスキルを身に付けてもらうことを目標に、どの日本語教育現場に赴いても間違いなく教えることになる「ひらがなの指導法」について、その効果的な導入方法とコミュニカティブな練習方法を紹介したうえで、自ら教材を作成し、実際に高校生に教えるという実践を行いました。また、今回の日本語教育研修を通して、参加学生には、普段接する機会のない他の大学の学生と共に学ぶことで意欲を高めてもらうと共に、同じ日本語教育を専攻し現場を目指す仲間と共に学びあい、助けあうことで強い人的ネットワークを構築してほしいとの期待がありました。

研修終了後のアンケート結果を見ると、「より現実的で実践的なスキルを身に付ける」という当初の目標はほぼ達成され、期待通り、同じ夢を持つ学生同士、絆も強まったようです。「必ず日本語教師にならなければ」と決意を語る頼もしいコメントもありました。ぜひ夢をかなえ、研修の経験を活かしながら、生徒たちに日本語を学ぶ喜びを伝えてほしいものです。ソウルセンターでは、日本語教師志望の学生が激減する中、日本語教師になるという夢に向かって頑張り続ける学生のために、引き続き研修の場を提供していきたいと考えています。

大学生研修の模擬授業風景の画像
大学生研修の模擬授業風景

春になって嬉しいニュースが飛び込んできました。昨年度、ほぼ5年ぶりに日本語教員の募集が行われた教員採用試験に現役師範大学生が3名合格したというニュースです。この教員採用試験は、現役での合格は非常に難しいと言われています。日本語教員を目指す就職浪人が多数いると聞きますし、そうした人のための専門学校もあるそうです。そうした中での今回の3名の合格は必ずや後輩たちにとって大きな励みになるものと思われます。

2.ひらがな・カタカナデザインコンテスト

ソウルセンターでは、一昨年度から韓国の中等教育現場を対象に日本語の文字(ひらがな、カタカナ)をモチーフに創作したグラフィックデザインのコンテスト「ひらがなカタカナデザインコンテスト(かなコン)」を行っています。「かな」だけを使ったグラフィックデザインということで、応募者は、他の日本語関連のスピーチコンテストなどとは異なり、日本語学習の有無、能力を問わず参加ができ、幅広く日本語や日本文化への関心を高めることができるという効果があります。中学生・高校生を対象とした第1回目の一昨年は、応募数が30数件と少なかったのですが、昨年は、対象を大学生・一般にも広げ、広報に力を入れたこともあり、応募数は一気に2,700件にまで増加しました。また、数だけではなく質の面でもさらに向上し、審査にあたった外部審査員のデザイナーが感心するほどの、アイデアにあふれた作品が、特に、中学・高校の部からいくつも出たことは驚きでした。

「かな」のグラフィックデザイン作成風景の画像
「かな」のグラフィックデザイン作成風景

「かなコン」は中等日本語教育の現役教師のアイデアからスタートしました。ある中等日本語教育の現場で生まれた一つの教室活動が、コンテストという形で外に発信され、その取り組みやすさから、多くの人の関心を呼び、日本語関連の大きなイベントとなりました。学習者の急激な減少だけがフォーカスされがちな中等日本語教育の現場を元気づけるという意味も込めながら、より多くの人に日本語や日本文化に関心を持ってもらう機会として、今後も引き続き実施していく予定です。

韓国の日本語学習者56万人のうち、そのほぼ8割の45万人が中等教育機関で日本語を学ぶ生徒たちです。中等日本語教育を取り巻く環境は、少子化や教育課程の改訂、他言語(特に中国語)との競合から日韓関係まで、決していい状況とは言えません。しかし、日本や日本語に興味を持つ子供たちは私たちが想像する以上に存在するとみて間違いありません。それは、中等教育支援の一環で中学校や高校を訪問するたびに子供たちの反応から感じることです。こうした表面には出ないニーズも意識しながら、一人でも多くの子供たちに日本や日本語に興味を持ってもらえるよう活動を続けていきたいと考えています。

(注)2009年に告示された「2009年改訂教育課程」(日本の学習指導要領に相当)が、2011年に施行され、日本語を含む第二外国語科目が必修科目から選択科目に変更された。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行なうとともに、教師を対象とする支援を大きな柱とした各種支援を実施する。
具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、入門段階から日本語能力試験N1合格レベルまでの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けて、ホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行なっており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行なっている。
所在地 Office Bldg. 4F, Twin City Namsan, 366 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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