世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)会って話して笑って相互理解 

国際交流基金ソウル日本文化センター(釜山)
中野友理

1.気づくこといっぱい 日本人と中高生の出会い

日本の高校で、英語以外の外国語科目として「韓国・朝鮮語」を学ぶ学生は約1万人。これに対して、韓国の中学校や高校で「第二外国語」として日本語を学ぶ学生たちは、45万人以上です(国際交流基金2015年度日本語教育機関調査結果より)。

教育熱が高く、し烈な受験競争が繰り広げられているというイメージの強い韓国の学校ですが、少なくとも中学・高校の「日本語」授業に関しては、必ずしもその印象はありません。先生たちが学生たちの興味関心に合わせて、それぞれ授業に工夫をこらしています。そんな先生方を少しでも支援しようと、私も中学校・高校を訪問して授業支援を行っています。

この学校訪問に日本人ボランティアを同行させ、日本語を学ぶ学生たちと交流してもらう「日本語サポーター」活動を、ソウルに続いて釜山でも開始しました。韓国に住む日本人留学生や社会人の方が、拙いながらもなんとか日本語で伝えようと話す中高生の相手をし、時にはけん玉やだるま落としなどを一緒にしたりもします。

アイドル並みに中学生に包囲され、学校中の注目を集める女子大生もいれば、「東京」と「富士山」しか知らない学生に、ほとんど知られていない自分の故郷を楽しく紹介してくれる社会人もいます。サポーターである日本人にとっても、日本語を学ぶ学生たちにとっても、貴重な体験となっているでしょう。

中学生が日本人に出身地についてインタビューの画像
中学生が日本人に出身地についてインタビュー

ちょうど同じタイミングで、韓国の中学校では「自由学期制」が本格的にスタートしました。「自由学期制」とは、中学校3年間のうちの1学期間だけ、進路体験や主題探索、サークル、芸術体育といったテストのない活動に午後の授業を費やす制度です。自由学期の時間帯には日本語教師達も、学生がよりアクティブに日本について学べる時間を設定しています。ここに日本語サポーターたちの協力が加わり、学生たちは、メディアなどで知るイメージとは一味違う「日本」に気づくことができるのです。

2.アイディアいっぱい 釜山の日本語教育者たちの語りあい

釜山日本語教師会は、高校、大学、民間語学学校などの日本語教師が、国籍性別年齢を問わずに集う会です。結成から20年を過ぎた現在でも、学校の休業期間を除く毎月、定例会を行っています。

幅広い層が集まった釜山日本語教師会の画像
幅広い層が集まった釜山日本語教師会

教師会がこれほど長く存続できるのは、なぜか。釜山人は、とにかく集まって食べたり飲んだり語り合ったり(言い合ったり?)するのが大好きだから? それもありますが、重要なのは、社会の目まぐるしい変化に対応しながら会の存在意義を常に問う、歴代会員の適応力と企画力のおかげだと思います。

ICTが発達した現在、単に「教師同士の情報交換」だけでは会の意義も薄れがちです。そこで、最近の定例会ではビジネス分野からスピーカーを招いたり、一般の日本人や日本語学習者との交流会を開催したりと、より広く学びと語り合いの場をつくっています。このような柔軟性こそ、日本語学習者たちが教師に求めるものという気がします。そしてここでも、異なる文化を持つ人たちの出会いが生まれています。

オンラインでの出会い、文字だけの会話が日常生活にあふれ、世界は狭く、可能性は広くなりました。でも本当にあなたの近くにいる人、ひとつの場所を共有する人の顔、声、姿は、自分の目と耳と手で感じてこそ、心にダイナミクスを起こします。日本に一番近い国、韓国。一番近い外国の都市、釜山。ここに来て、見て、話してみれば、ことばによる相互理解を、まさに体感できるのです。

平成26年5月当時。文部科学省「平成25年度高等学校等における国際交流等の状況について」http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/koukousei/1323946.htmを参照

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1988年以来、在釜山日本国総領事館に日本語専門家が派遣されて嶺南地域の日本語教育を支援してきた。2005年8月より、派遣先はソウル日本文化センター、勤務地は釜山(釜山日本語教育室)という派遣形態に変更された。日本語専門家の担当業務は、当地域の中学・高等学校などの韓国人日本語教師を対象とした中等日本語教師職務研修、嶺南地域教育庁及び各中等日本語教師会への出講、学校からの依頼に応じて行う出張授業等である。
所在地 YMCA Bldg. 15F, 319 Jungang-daero, Dong-gu, Busan 48792, Korea
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名(嶺南地域担当)
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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