世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)海の向こうに見える日本目指して、自分に挑戦!

国際交流基金 ソウル日本文化センター(釜山)
中野友理

ソウルよりも日本を身近に感じる韓国の街 釜山

韓国の日本語学習者は約55万6千人(国際交流基金「2015年度海外日本語教育機関調査」より)、世界で3番目に日本語を学ぶ人が多い国です。ただ、この学習者数はあくまで「調査当時、教育機関で日本語を学んでいた人」の数。2016年12月公表の国際交流基金と電通の共同調査結果によると、メディアを使った独習などを含め、「日本語を何らかの方法で学習する人」の数は、なんと500万人以上と推定されています(1)。同調査によると「韓国人が3人集まれば約8割の確率で1人は少しでも日本語を話す」ことになるそうです。韓国を訪れたことのある方なら、このような調査結果にも頷く方が多いのではないでしょうか。

そんな韓国の中でも特に嶺南地域(韓国東南部の慶尚道と、釜山、大邱、蔚山の3広域市を合わせた地域)は、地理的にも日本に近く、古くから日本との交流が活発であった地域です。釜山の人々にとっては、高速鉄道で韓国の首都ソウルに向かうより、LCCや高速船を利用して日本に行く方が、場合によってはお手頃、お手軽であるぐらいです。日本語学習者が減少していると言われる韓国ですが、韓国、特に釜山に住む限りでは、旅行や趣味、あるいはビジネス目的で日本語を学ぶ人は依然として少なくないと感じます。

日本語なら負けない!嶺南地域の若者たち

嶺南地域の日本語学習者の多さを物語っているのが、日本語関連コンテストの多様さ、そしてレベルの高さです。釜山に派遣される日本語専門家の重要な業務の一つが、この各種コンテストの審査ですが、2017年に日本語専門家が審査に加わった大会といえば、

5月…某高校の日本語暗唱大会、某大学の日本語スピーチ大会
6月…嶺南地域高校生日本語弁論大会、全国大学生日本語プレゼンテーション大会、某高校のJ-POP大会
9月…嶺南地域大学生日本語演劇祭、大学生日本語ディベート大会(釜山大会)、大学生日本語ディベート大会(全国杯)
11月…全国大学生日本語弁論大会、某高校の日本語スピーチ大会

と、校内で行われるコンテストから全国規模のものまで様々です。この他に専門家が審査に加わっていないもので、「日本歌謡大会」や「高校生日本クイズ大会」なども毎年開催されています。

高校生日本語スピーチ大会の写真
高校生日本語スピーチ大会

審査というのはどれも頭を悩ませるものではありますが、その中でも特に審査員泣かせなのが大学生日本語ディベート大会です。

年に第6回を迎えたこの大会は、韓国人大学生が外国語である日本語で、ある論題について異なる立場に分かれて討論する競技ディベートとなっています。よいディベートをするには日本語能力だけでなく、情報分析力に批判的思考力、論理的説明力、迅速な問題解決力、さらにチームとして取り組むために協働力が必要となります。まさに現代社会で必要とされるスキルの全てが試される大会です。

私の場合、一日にディベート2試合の審判をしただけでその日はぐったりしてしまいますが、試合後に出場した大学生と懇談する時間はとても楽しみでもあります。大会当日まで仲間とどうやって準備してきたか、どんな思いで取り組んできたか、将来についてどう考えているかなど話題は尽きず、この大会に出場したこと自体が彼らにとって大きな意味を持つと実感できるのです。

交流会の写真
日本語ディベート大会の後は出場者との交流会

日本語専門家としての仕事は、各種日本語関連大会審査の他にも、教師研修の企画と実施、勉強会・ワークショップなどへの出講、各教育機関訪問、日本語授業の支援など様々です。これらの業務を通して私がやりがいを感じるのは、上記のように日本語を学んでいる人と直接出会い、日本語学習を通してどんな経験をして何を感じたかを聞く時です。その経験や想いが彼らの将来にどう関わっていくのかが垣間見えるような、そんな期待感を得るのが楽しみなのです。これからも嶺南地域のできるだけ多くの人々のために、彼らの未来に繋がるような経験や学びの場を、日本語を通じて創っていくことが私たちの仕事だと思っています。

(1)「台湾・香港・韓国の日本語学習者は推定800万人規模(国際交流基金・電通共同調査発表)」https://yasashii-nihongo-tourism.jp/2016/12/20/275

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1988年以来、在釜山日本国総領事館に日本語専門家が派遣されて嶺南地域の日本語教育を支援してきた。2005年8月より、派遣先はソウル日本文化センター、勤務地は釜山(釜山日本語教育室)という派遣形態に変更された。日本語専門家の担当業務は、当地域の中学・高等学校などの韓国人日本語教師を対象とした中等日本語教師職務研修、嶺南地域教育庁及び各中等日本語教師会への出講、学校からの依頼に応じて行う出張授業等である。
所在地 YMCA Bldg. 15F, 319 Jungang-daero, Dong-gu, Busan 48792, Korea
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名(嶺南地域担当)
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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