世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「熱いぜ、モンゴル!」:地方教員向け教授法研修会2020

モンゴル・日本人材開発センター
三本智哉

2019年度の取り組み

2019年度、派遣先のモンゴル・日本人材開発センター(以下、センター)日本語課では春期・夏期・秋期の日本語コースを順調に行うことができました(合計受講生数は598名)。大きな取り組みとしては、「子ども向けの日本語コース」と「上級レベル試験向けのコース」を新設したことが挙げられます。また受託事業として2018年度に引き続き「技能実習生(介護)」候補者向けの日本語コースの他、特定技能ビザにも関係するJFT-Basic(国際交流基金日本語基礎テスト)のモンゴル国内における広報、日本語教師支援及び調査活動も新しく受託しました。専門家はセンター日本語課やモンゴル日本語教師会などと協力して様々な活動を行ってきましたが、ここでは、モンゴルの日本語教育全体に対する支援の一環として2020年1月に行った「モンゴル地方教員教授法研修会」について取り上げます。

地方教員向け教授法研修会2020

熱気あふれるクラス内、外はマイナス30度の写真
熱気あふれるクラス内、外はマイナス30度 

モンゴルの初中等日本語教育機関では『にほんご できるモン』(モンゴル日本語教師会作成、以下『できるモン』)という教科書が広く使われつつあります。この教科書はJF日本語教育スタンダード(国際交流基金が開発した日本語教育の考え方の枠組み)も参考にして作成された教材です。しかし、地方の日本語教員は首都ウランバートル市内の教員のように勉強会や研修会に参加するチャンスが無いため、この教科書の理念がどのようなものでどう教えればいいのかを学ぶ機会はほとんどありませんでした。また、モンゴルの広い国土に点在する形で教えているため教員同士のつながりも希薄で、授業について気軽に相談する相手もなかなかいないようでした。そのような状況から、冬の学期休みに地方教員を対象とした3日間の教授法研修会を企画しました。

初日のオリエンテーションでは、まず普段の授業で感じている悩みや課題をまとめ、その解決のための時間であると研修会を位置づけました。次に、『できるモン』と同様にJF日本語教育スタンダードの考え方に基づいて作成された『まるごと 日本のことばと文化』(国際交流基金作成)を使った授業をセンターの職員が行い、教員には学習者の立場から参加してもらいました。あえて少しだけ違う教科書を使ったことで、その後のふり返りでは『できるモン』の授業の流れや各セクションの目的・大切なポイントの理解が促進され、普段の自分の授業との違いから多くの気づきや学びが生まれたようでした。

2日目は、児童・生徒が苦手であるとする「読解」について「目的別の読みのストラテジー」と「多読」という2つのアプローチを紹介しました。ストラテジーの話は「実践的で直ぐに役立ちそうだ」と言ってましたが、多読に対しても非常に反応が良く、「自分の学校にも多読本コーナーを作りたい!」「子どもの学校にも広げる」「自分でも多読本を作りたい!」といった熱いコメントをもらいました。

3日目は、『できるモン』の模擬授業を初日に決めたペアで行い、残りの参加者がコメントする日にしました。これまでもシンポジウムなどで顔を合わせることはあったようですが、個人ではなくペアで模擬授業を行うとしたことで授業後やホテルで何時間も対話を重ねて親交を深めていったようです。またSNSグループも作成し、研修の資料と当日の写真をシェアしていました。これらのこともあり修了時には「一緒に勉強できて楽しかった」「地方教員同士のネットワークが出来てうれしい」という声が上がっていました。

その後とこれから

完成した5冊のオリジナル多読本の写真
完成した5冊のオリジナル多読本

残念ながら、研修後すぐの2020年1月末から新型コロナウイルスの影響のためにモンゴル全土の学校が閉鎖され、研修で学んだことを教室で実践できないまま夏休みに入ってしまいました。しかし、今後も地方教員ネットワークの強化支援を行い、ウランバートルの教員とも連携し、モンゴルにおける初中等日本語教育全体の活性化に繋げていきたいと考えています。

(追記:SNSグループで連絡を取りながら2020年6月にそれぞれの町を紹介する多読本が完成しました。教員の地元愛が詰まった冊子でどの町もとても魅力的です。WEBでの公開も行いますが、製本版がそれぞれの学校の多読本コーナーに並び、日本語を学ぶ児童生徒が目を輝かせて読んでいる。そんな日が1日も早く来ることを心から願っています。

What We Do事業内容を知る