世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広大なカナダをインターネットでつなぐ

アルバータ州教育省
村上吉文

1.週刊ニュースレター

こちらに来てからかなり早い段階で取り組み始めたのが週刊ニュースレターの発行です。毎週出すのでネタが尽きないように、週ごとに違うテーマで書いています。

毎月第一週は日本語教育や言語習得などに関する新刊のご案内で、書評などを参考に、主に紙で出版されている本をご紹介しています。第二週は日本で売れている電子書籍のご紹介で、専門書ではなくコミックなども含めた総合ランキングです。多読の教材にしたり日本の一般的な流行などを知ってもらうことを目的にしています。第三週はTwitterなどで話題になったページのご紹介です。これは第一週と同じように日本語教育や第二言語習得などに関するコンテンツを選んでいます。最近では日本語の先生がたのブログなどもこの週にご紹介することにしています。そして第四週は最新の学術論文のご紹介です。これもやはり日本語教育や第二言語習得などの専門的な分野を選んでご紹介しています。配信対象の中心はアルバータ州の日本語教育関係者ですが、コンテンツはメールで受信する以外にWebページとして閲覧することもできるので、Facebookグループ「カナダで日本語を教える人たち」や、その他の日本語教育関係のコミュニティでも共有することがあります。

このニュースレターを毎週送ることにより、アルバータ州の先生方に僕の名前を覚えてもらい、現場で何か問題があったときはすぐに連絡して支援ができるようになりました。

昨年末からはMailChimpというツールを使って配信しておりまして、過去のニュースレターはこちらで一覧を見ることができます。メールでの受信をご希望の方はこのバックナンバーのリストの「Join Our Mailing List」をクリックして連絡先などをご入力ください。

2.オンライン日本語教育ワークショップ

ニュースレターが軌道に乗り始めてから取り組んだのが、オンライン日本語教育ワークショップです。これは個人的に「よりどりみどりプロジェクト」というコードネームで呼んでいますが、茶道ができたり相撲に詳しかったりといった日本語教師の多様性を活かして、学習者に対しても多様な選択肢を提供できるようにしたいという考えに基づいています。まず、茶道の練習や相撲の応援などをする人が具体的にどんな行動をするのかをリストにしてもらい、そうした行動をするためにはどのような日本語が必要なのか、そしてその日本語を教えるにはどうすればいいのかを一緒に考え、それをコースにする一連のワークショップです。このコースを作るためのワークショップは全てオンラインで行っています。課題の提出やお知らせなどはGoogleクラスルームという学習管理システム(LMS) を使い、リアルタイムでの話し合いはZoomというテレビ会議システムを使っています。リアルタイムでの話し合いの前には、YouTubeで僕からの説明の動画を見てもらいます。(このように動画などで予習後にディスカッションなどの応用的な活動を行う授業形式は「反転授業」と呼ばれています)

3.オンライン講演会

そして今年度のはじめから取り組んでいるのがオンライン講演会です。カナダの日本語の先生の中で、おもしろそうな活動をされている方にオンラインでお話を伺っています。視聴者も小さいグループに分かれて話し合いをしたり、全体の質疑応答に参加できたりすることができます。この原稿を書いている時点ではまだ二回しか行っていませんか、夏休みなどを除いて毎月実施していきたいと思っています。カナダの日本語教育事情についてご存じない方にも現場のさまざまな取り組みがわかるリソースになってくれるかもしれません。

オンライン講演会の参加者たちの写真
オンライン講演会

4.そしてオンラインEdCamp

これからの構想としては、現時点ではまだ実施していないのですが、オンラインEdCampをやってみたいと思っています。EdCampというのは主催者側がコンテンツを用意しない教師研修のようなもので、参加したそれぞれの先生がご自分の抱えている問題について他の参加者からのアイデアや助言を求めたりすることができます。普段は会場を貸し切って行うことが多いのですが、最近の技術的な発展により、オンラインでも実施することが可能になってきました。これについては来年のこの欄で肯定的な報告ができればいいのですが、まだまだやってみないと分からないことが多く、さまざまな可能性を検討してみる必要があります。

カナダは世界で二番目に広大な国なのでやはり対面だけで支援をすることは難しく、こうしたオンラインでのサポートが必要になってきます。ご存じの通りこれまではオンラインでのサポートは莫大な金額と煩雑な手間が必要だったのですが、ここ数年で大分状況が変わってきました。僕の任期の間にどこまで前進できるかは自分自身への挑戦でもありますが、同時に新しい時代の到来を楽しみにしています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Alberta Education
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
州内の初等中等教育を管轄する政府機関。国際教育サービス課に所属し、交流プログラムや日本語教育への支援(学習指導要領、指導手引書、到達度評価文書等の開発、教材情報の提供、日本文化及び日本語教育振興行事の企画運営)を行う。カナダ全域のアドバイザーを兼任し、国際交流基金トロント日本文化センターとの連携のもとに、全国レベルでの日本語教育振興、教師研修、ネットワーク形成支援等を担当する。
所在地 Main Floor, 10044-108 Street NW, Edmonton, Alberta, Canada T5J 5E6
国際交流基金からの派遣者数 日本語上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年
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