世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)オンラインや映像を活用した日本語教育

ニューデリー日本文化センター(南インド担当)
蟻末 淳

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(以下、JFND)の南インド担当専門家は2019年度まで指導助手と共に、タミル・ナドゥ州のチェンナイに駐在していました。担当地域は、同州に加え、テランガーナ州、アンドラ・プラデーシュ州、カルナータカ州、ケララ州、ポンディシェリ連邦直轄地域です。また、南アジアの周辺国支援も業務に含まれます。

1 南インドの日本語教育

南インドの学習者数は約13,000人で、インド全体の学習者38,000人の約1/3を占めます。特にチェンナイを含むタミル・ナドゥ州は日本語教育が盛んな地域で、約10,000人の学習者を数え、インドの州別学習者でも第一位の規模です。エンジニアや理工系大学の学生が仕事のために日本語を勉強するケースが多いです。また、お隣のカルナータカ州の州都ベンガルールは、インドのシリコンバレーと言われるほどITエンジニアが多い地域です。インド中から集まった現役ITエンジニアには日本語話者も多く、また企業研修での日本語学習も盛んです。そのため、数値に出る以上に日本語熱が盛んで、ポップカルチャーを含む日本文化が愛されています。インド随一の日本フェスティバル、Japan Habbaが毎年たくさんの入場者を集めるのも納得です。

南インドでは、日本関連企業での就業に必要だと言われる日本語能力試験N3のための勉強に加え、コミュニケーション力も年々重視されてきており、コミュニケーション重視の日本語教科書『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使っている機関がインドの中でも圧倒的に多いことからもそれがわかります。

2 南インドの教師育成コース

2019年度には、南インドのチェンナイ、バンガロールで30時間の教師育成コースを行いました。日本語をまだ教えていない人から、日本語教育のブラッシュアップをしたい先生まで、40名以上が参加。自分たちでCan-do(「〜ができるようになる」という具体的目標)で授業の目標を立て、スキットを作り、実践的な授業を構成する練習をしました。グリーンバックを使った簡易スタジオで、チームでスキットを撮影。背景を合成して、本格的な教材を作りました。JLPT合格が目標になることも多い中、コミュニカティブな教材を自分で作り、教え方を考えることは勉強になったと思います。

南インドでは、その他、12時間の現職教師対象のワークショップや数々のミニワークショップ、セミナーなどを行っています。

教師育成コースでの映像教材作りの様子
教師育成コースでの映像教材作り

3 日本語ビジネスピッチコンテスト

2020年6月20日に、インドで初めてとなる日本語ビジネスピッチコンテストを行いました。ピッチとは、ビジネスアイデアなどの短いプレゼンテーションのことです。全インドからの30人以上の応募者から、第一次選考で12人が選ばれ、オンラインでビジネスアイデアを発表しました。奇抜なアイデアを実物で紹介したり、数字で市場規模やデータの根拠を示したり、実現のための具体的なロードマップを示すなど、興味深いピッチを次々と見せる発表者。しかし、その後には、ビジネスに詳しい審査員からの鋭い質問に答えなければいけません。日本語を現場でどう活かすか、日本語学習の一つのゴールが見えるコンテストになりました。コンテストの模様は下にあるリンクで見られます。ぜひ、誰が優勝したかを予想しながら、見てください!

オンラインで行われた日本語ビジネスピッチコンテストの参加者の一部と審査員、運営の様子の写真
オンラインで行われた日本語ビジネスピッチコンテストの参加者の一部と審査員、運営の様子

4 南アジア日本語教育国際シンポジウム JLESA’19-20

2019年11月に、第二回南アジア日本語教育国際シンポジウムJLESA’19-20が南インド・ハイデラバードの英語外国語大学(以下、EFLU)で行われました。今回は、インド以外にも、南アジアからネパール、ブータン、バングラデシュ、スリランカ、モルディブの日本語教育機関の代表者が会場に来場し、各国日本語教育事情などを発表。パキスタンからはビデオ発表及びZoomでの参加がありました。更には、ロシアや日本からの参加もあり、前回同様約100名の参加者を数え、各国の実践に根ざした日本語教育についての研究発表や、将来の南アジアの日本語教育の方向性のディスカッションなど、充実した2日間になりました。
また、新型コロナウイルスの影響で、南アジアの教育機関の多くの授業がオンライン化した中で、2020年4月〜6月にかけて、EFLUの教師とJFND(南インド)が協力してJLESA特別オンラインフォーラムが5回行われ、南アジアを中心に世界中からのべ300名以上が参加、オンライン授業を改善するために話し合いました。

5 セミナーやイベントでのオンラインの活用

2019年12月には、前年に引き続き、第二回南アジア日本語ショートフィルムコンテストをオンラインで実施しました。今回の優勝は、民族衣装で楽しくティンプーを紹介してくれた、ブータンの中学生でした。下のリンクから、優勝作も含め、全26作を見ることができます。南アジアの様々な国の映像をお楽しみください!

2020年3月には新型コロナウイルスの影響で対面でのセミナー等ができなくなったため、これまでのノウハウを生かして、オンラインでのミニワークショップを開始しました。内容は、日本語を使う機会のためのオンラインチャットスペースや、『まるごと』の授業見学やディスカッションなど日本語教授法に関わるもの、そして、オンラインで授業をするためのワークショップなど様々。ちょうど日本の教育機関でもオンライン授業が始まる時期だったこともあり、日本からの参加者も多く、結果的には、南アジアの先生方と日本を始めとした他地域の先生方との協働の学びの機会にもなりました。また、南アジアの日本語教育や日本語の先生について、日本を含む世界中の方に少しでも知ってもらうこともできました。

これまでのオンラインでのミニワークショップなどの一部は下のリンクにありますので、ぜひ見ていただければ幸いです。

今後も、南インドからインド全体、南アジア、世界に向けて、日本語教育を発信して行きます。

をご覧ください!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センターより南インドのチェンナイに派遣され、インド南部5州と1連邦直轄地域を中心に日本語教育の質の向上と拡大を図る。具体的には、1) 現地人教師・教育機関支援、ネットワーク形成 2) 機関訪問等による情報収集、調査、分析 3) 南アジアの近隣諸国も含めたセミナーや勉強会など、各種支援活動の実施
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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