世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広がる学び

ケラニア大学
小松原奈保

1.ケラニア大学の活動

私の所属するケラニア大学では、スリランカのトップレベルの学生が日本語や日本文化を学んでいます。ここでは学生が中心となる日本語クラブの活動と教師が中心となる日本学研究センター(以下、RCJS)の活動を紹介します。

【日本語クラブの活動】

コロンボ日本人学校で、ケラニア大学日本語科の学生が、日本人中学生にうどんの作り方を教わりました。
日本人中学生にうどん作りを教わる

日本語科の学生たちは、自分たちで「日本語クラブ」を運営し、日本文化や日本語について学び合ったり、学んだことを発信する活動をしています。

毎年ケラニア大学が実施するスリランカの中学生を対象としたOレベルセミナーでは、午後の部の文化紹介を日本語クラブが担当しています。今年はセミナー参加者約600名に「天ぷらうどん」を振舞いました。このうどんは、会話の授業で訪問したコロンボ日本人学校で日本人中学生に作り方を教わったものです。この味、この楽しかった経験を自分たちの後輩にも伝えたい!という気持ちがうどんに込められています。スープで麺を食べる文化のないスリランカですが、中学生は初めて食べる天ぷらうどんを「おいしい」と言って食べていました。

また、本年度からは、NPO子供のための国際音楽交流協会(以下、AIMEC)と協力し、日本の小学校や中学校の子どもたちから譲り受けたリコーダーやピアニカをスリランカの学校に寄贈する活動も始めました。ヒズウェラ小学校で行った初めての寄贈式では、子どもたちから歌や踊りの大歓迎を受け、クラブの学生からは日本の歌や折り紙といった日本文化紹介もありました。日本から届いたピアニカは中古品ですが、新品にはない温かさが詰まっています。AIMECの会員の方たちによって1つ1つきれいに掃除されていて、使っていた日本の子どもたちの名前がそのまま書いてあります。物を大切に使う日本人の考え方も日本文化としてスリランカの子どもたちに届いたことでしょう。

大学や日本から得た自分の学びをスリランカの国内に広げる。そうすることによって、彼ら自身もさらに成長しています。

RCJSの活動】

ケラニア大学で活動しているのは学生だけではありません。先生たちもまた、大学内にとどまらずスリランカの日本語教育全体を支えています。RCJSはスリランカの中等学校の教科書や資料になる本の執筆、そしてその使い方に関するセミナーを精力的に実施しています。昨年度は『Intercultural communication PartⅠ』という中学生のための異文化理解テキストと、『日本文学Resource Book』という高校生用の文学テキストを執筆し、セミナーを実施しました。セミナーには、スリランカの中等学校の先生たちが集まり、本のコンセプトや使い方を熱心に勉強しました。これを学校に持ち帰り、毎日の授業に役立てます。今後も、漢字、聴解、会話などのテキスト制作の計画がありますが、これらを効果的に使ってもらえるように、出版に併せてセミナーを実施していきます。

こういった中等教育支援のほかに、大学自身もその発展に向けて動いています。今年はPost Graduate Diplomaコース設置に向けての準備が整いました。将来的には日本語学科としての独立や大学院の設置を目指して、着々と前進しています。

日本語の入口であり、スリランカの日本語学習者の大部分を占める中等教育を充実させることで学習者の量を増やし、その出口である高等教育に大学院を設置して質を高める。ケラニア大学は様々な側面からスリランカの日本語教育に貢献しています。

2.スリランカ日本語教師会の活動

スリランカには国内の日本語教師が集まり、学び合う場としてスリランカ日本語教師会(以下、教師会)があります。日本語専門家はこの教師会を通じてスリランカ全土の教師をサポートしています。教師会は2か月に1度の定例会のほかに、教師を対象とした日本語教育セミナーや、高校生を対象としたAレベルセミナーなどのイベントを開催しています。

2018年3月にもスリランカ国内の高校生約600人をコロンボに集め、Aレベルセミナーを開催しました。高校生たちは暑い講堂で、朝8時から5時までしっかり勉強しました。

このように、ケラニア大学や教師会から発信する学びがスリランカ全土に広がっています。

600名の高校生が参加したAレベルセミナーの様子の写真。高校生たちは、熱心に勉強していました。
熱心に勉強する高校生たち

※NPO子供のための国際音楽交流協会(AIMEC

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケラニア大学日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベル以上のカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。そのため、教育省の依頼で、中学、高校における日本語教育のシラバス・教科書作成などにも大学講師が参画しており、中等教育においても多大な影響力を持つ。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講、2016年には日本学研究センターが設立された。日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。
所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部 現代語学科 日本語科
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