世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 4人体制、この一年

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
福島青史・中島永倫子・吉岡千里・野村ゆみ子

国際交流基金サンパウロ日本文化センター(以下FJSP)には、昨年度から派遣専門家が4人います。顔ぶれは変わらず、二年目を迎えています。昨年は業務内容について書きましたので、今年は、それぞれ、この一年で一番印象に残ったことについて書きたいと思います。

一人目:野村ゆみ子(ブラジル高等教育機関担当専門家)

ブラジルの5つの連邦大学の理工科系学生に向けて2016年4月から始まった日本語講座は「国境なき言語」日本語講座として現在も継続されています。この講座を指導するのは、各連邦大学で日本語を専攻する学生ですが、その学生チューターに対して、2017年1月に国際交流基金関西国際センターで2週間研修を行いました。研修の目的は、日本を体験することにより、日本事情や日本文化の理解を深めると同時に、講座を指導するにあたっての疑問点や問題点をお互いに共有することです。2週間にわたる研修では、広いブラジルではなかなか一堂に会することが困難な状況の中で、お互いの指導方法などの情報を共有することができ、大変有意義な研修となりました。日本文化の授業で、「行ったこともない日本についてどのように教えるか分からない、自信がない」と言っていた学生チューターも研修後の感想では、「教えることに自信が持てるようになった、文化のとらえ方が少し分かった」などと、研修の成果が実感できたようでした。

学生チューターはブラジルの各連邦大学で今後日本語教育を牽引していくことが期待されている学生たちですが、高等教育機関支援担当としては、彼らの成長に少しでも協力できることの喜びを感じながら日々過ごしています。

二人目:吉岡千里(南米アドバイザー)

2016年前半には、ペルー、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、コロンビア、ベネズエラ、チリ、エクアドル、ボリビア(訪問順)と9か国の訪問調査を行いました。現地で日本語教育に携わっている方と話をしたり、実際に授業を見学させてもらったりすることで、現状をリアルに知ることができました。現在、この調査で得た情報などをもとに、南米スペイン語圏の日本語教育実態に関する報告書を鋭意作成中です。

2016年後半には、「第2回南米スペイン語圏日本語教育連絡会議(RSJ)」がありました。南米9か国から一名ずつ参加し、自国の日本語教育現状について発表したり、各国が抱える課題を共有したりしました。会議の最後には、次回までに自分たちの国が力を入れて取り組む活動を「日本語教育関連イベント」、「教師研修・育成」、「情報交換・共有」から選び、これから一年の目標を決めました。第3回会議での活動報告が楽しみです。

今後、南米アドバイザーは、各国別の方針に基づいて活動予定ですが、それとともに、各国の先生方や機関・団体が、ネットワーク作りや各国の日本語教育環境向上のために、南米アドバイザーを上手に活用してくれると嬉しいです。

RSJ参加者とラ・ウニオン学校の生徒たち@ペルーの画像
RSJ参加者とラ・ウニオン学校の生徒たち@ペルー

三人目:中島永倫子(JF講座担当専門家)

ジャパンハウスへの引っ越し

サンパウロに新しくジャパンハウスがオープンし、JF『まるごと』日本語講座は、ジャパンハウス内のセミナールームで開講されることになりました。これまで日本や日本語への関心が必ずしも高くなかった人々からの注目度も高く、様々な問い合わせが入っています。

中級レベルの充実

中級1A-授業の様子の画像
中級1A-授業の様子

JF講座では、現地の日本語学校とレベルの棲み分けを図っており、2017年にはJF講座の半数以上のクラスが中級(B1)以上のレベルになりました。「自立した言語使用者」として、わからない日本語に直面しても自分で対応できる力がつくように、授業では以下の試みを実施しています。1)モニター力の強化:会話練習のロールプレイの際、会話を録音し、自分で聞いてよかった点や改善点などを話し合う。2)自律学習の促進:ポートフォリオで学習を自己管理するほか、各トピック学習後に他の学習者と話し合いながら自分の日本語学習をふりかえる時間を持つ。3)実践の場の提供:毎学期、ブラジルに住む日本人と交流するイベント(異文化交流会)に参加し、日本語での発表や交流をする。

学習者からは「今までの学習方法と全然違う」「日本語を使いながら学ぶことができる」との声が届いています。

四人目:福島青史(日本語上級専門家)

2016年度はFJSP主催の教師研修会2回、学習者支援イベント3回、ブラジル国内のアドバイザー出張10回、その他南米諸国へも3回出張しました。この間、たくさんの先生、日本語学習者、日本語使用者に会いましたが、ブラジル(南米)の多様性には驚かされました。学習者は幼児から老人まで、教授アプローチも文法積み上げ式、タスク中心、内容重視などいろいろです。教科書もいわゆる日本語教育の教科書もあれば、日本の国語教科書を使用する場所もあります。学習目的も「日本語が使える」「日本語を楽しむ」「日本文化が好き」という世界的に共通した動機の他に、「日系人だから」「日本文化の継承」といった動機も多いです。ブラジルの日本語教育は日系人子弟への教育がその始まりですが、歴史の運動の中で日系社会も変容し、ブラジルの歴史に統合されています。上記の日本語教育の多様性はブラジル社会における現在の日本語の断面であり、ブラジル社会に練りこまれた日本語の姿を反映していると思います。すでにブラジル社会の一部となって長い歴史を持つ文化資源、言語資源としての日本語をどのように未来に向けて展開していくか。これが今後のブラジルの日本語教育の鍵になると思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブラジルの日本語教育の質的向上と、学習者のすそ野拡大を図るべく、教師研修、カリキュラム・教材作成、学習奨励事業(スピーチコンテスト、中高生対象の日本語キャンプ、大学生対象の日本語研修)などを実施している。2012年度から日本語講座(JF講座)を開始し、現在は『まるごと 日本のことばと文化』の初中級、中級1、中級2までのレベルを開講している。2015年度には「南米アドバイザー」「ブラジル高等教育機関担当専門家」が派遣され、支援対象、支援地域を拡大した。
所在地 Av. Paulista 52, 3o. andar, CEP01310-900, Sao Paulo, SP
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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