日本語専門家 派遣先情報・レポート
パリ日本文化会館

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金パリ日本文化会館
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年の設立以来、フランスにおける日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年に日本語教育事業が本格的にスタートした。教師支援事業として、定期的な教師研修会や気軽に教師同士が語り合える情報交換の場の提供「日本語教師かたろん」などを開催する一方、受講生が自由に日本語を使える場としての「あつまろん」を含むJF日本語教育スタンダード準拠日本語講座の運営、日本語を学ぶ中高生オンライン日本語フェスティバル「Festipon」や出前多読サロンの実施などの学習者の直接支援事業も実施している。
所在地
101 bis, quai Jacques Chirac 75015 Paris, France
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家1名、専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年
2005年

人間らしいつながりを求めて

パリ日本文化会館
藤崎泰典、三浦多佳史

2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受けた一年でした。昨年に続き、第3波、第4波、第5波と大きい感染の波が押し寄せ、防疫対策として屋内外でマスクの着用が義務化され、人数制限やテレワークはもちろんのこと、パリ日本文化会館(以下、会館)のような文化施設には、入場の際に接種証明書(ワクチンパス)の提示も適用されました。日本語の授業を行うには厳しい状況でしたが、講座担当専門家として、受講生の学びを止めないこと、学びの機会を与え続けることを第一に考えながら、日本語講座の運営業務を続けました。

前年度のレポートで報告したように、会館の日本語講座は全てオンライン化されました。2021年の秋学期は、オンライン授業としては三回目の実施になりました。三学期目ともなると、講師も受講生も慣れてきて、授業がスムーズに行えるようになりました。例えば、通信ソフト(Zoom)の共有機能を使えば、教材を見やすく提示できますし、受講生の反応を確かめたい時は、リアクション機能???を利用すれば、簡単に受講生の反応を確認できます。板書がしたければ、チャット機能やアノテーション機能を駆使すれば、簡単に必要な情報を共有・提示できます。また、オンライン授業ならではの利点もあります。例えば、日本や日本文化に関する質問があっても、オンライン授業なら、写真や動画といった視覚情報を含めた情報をすぐその場で調べて提供できます。

このように授業は技術的には問題なく教えられるようになりました。しかし、授業が終わり、コンピューターの電源を切った瞬間、ふと虚しさに襲われる時があります。会館で授業が実施されていた時は、授業の前後で立ち話をしたり、もっと話を続けたいときは、食事でもしたりしながら、教師も受講生も気軽に交流を深めることが可能でした。ところが、急なオンライン化により、孤立環境に置かれ、孤独な思いをしている受講生が少なくないことが分かってきました。そこで、2021年の秋学期は、受講生が人間らしいつながりを持ち、学習効果も高められるように、2つの取り組みを始めました。

(1)「お散歩しゃべろん」

ひとつ目に取り組んだのが「お散歩しゃべろん」です。新型コロナウイルス感染症の拡大前は会館内で実施されていた「しゃべろん」(2015年度レポートを参照)ですが、屋内で実施するのはまだ感染拡大の危険があったため、屋外でなにかできないかと考えました。そこで、思いついたのがパリ市内の観光エリアを巡りながら交流をするという企画です。感染状況に配慮しながら、2021年の9月にモンマルトル、11月にはカルティエラタンを散策することにしました。「お散歩」の当日になり、オンラインでは会っていたけれど、実際に会うのは初めてという人が多いことに気付きました。「わあ、○○さん、とても背が高いですねえ」など、有名人に出会ったかのような反応が起き、みんなの笑いを誘いました。「お散歩」が始まると、参加者は、これまで実際に使う機会の少なかった日本語を駆使しながら、日本人参加者にその土地の見どころを熱心に説明していました。そして、屋外ならではの解放感もあり、思い思いに会話に花を咲かせていました。

イベント当日の資料の写真
当日のしおり

参加する前は、皆が人に会って話すことに不安を感じていましたが、会ってみると、対面で交流することにも徐々に慣れ、最後には心が十分に満たされて、全員が満足な時間を過ごすことができました。

イベント参加者の集合写真
「お散歩しゃべろん」参加者たちと

(2)「あつまろん」

ふたつ目に取り組んだのが、受講生のための多目的スペース「あつまろん」です。前述の「お散歩しゃべろん」に加え、もっと定期的に受講生が集まれるスペースがあると、日本語の運用能力の向上、学習意欲の維持に役立つのではと思いました。そこで、毎週水曜日の夕方、オンライン上に受講生が集まれるスペースを設けることにしました。実施にあたり、3つのスペースを準備しました。1つ目は日本語学習に関する相談をするスペース、2つ目は日本語を勉強するスペース、3つ目は日本語でおしゃべりをするスペースです。最も人気があったのは3つ目のおしゃべりをするスペースで、途中から、初級レベルの参加者が増えたので、「やさしい日本語」という部屋を作って、初級レベルの受講生でも楽しくおしゃべりできるようにしました。最終的に延べ100名程度の参加があり、受講生の担当教師からも「『あつまろん』に参加するようになってから、受講生が明るくなり、授業にも積極的に参加するようになった」等々、嬉しい報告を聞き、実施の手ごたえを感じることができました。

2022年2月末現在、フランス全土で猛威を振るった新型コロナウイルスは、まだ予断を許さない状況ではありますが、行動規制の緩和は段階的に進み始めており、新型コロナウイルスと共に歩んでいくフランス社会の姿勢が見えています。この2年間は厳しいものでしたが、オンライン教育など、今までになかった新しいことにも取り組んで、学びが多かったことも確かです。今後、この期間に学んだことを活かしながら、より満足度の高い講座の運営を行っていきたいと思います。

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