世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「ポンテ」を目指す日本語教育支援

ローマ日本文化会館
大谷英樹

イタリア人が「ポンテ Ponte」という言葉を使うときは、運河にかかる美しい「橋」という意味の他に、もう1つの大切な意味があります。休暇を取る才覚に優れたイタリア人にとっては、イースター休暇などの飛び石連休があると、すぐに「ポンテ」をかけて、本来休みでない平日も休みにし、長期休暇にしてしまうのが慣習となっています。

日本語専門家(日本語教育アドバイザーとJF日本語講座<以下講座>運営を兼務)としての業務の中心はまさにこの「橋渡し(ポンテ)」にあります。アドバイザーとしては、日本語教師研修会などで日本語教師同士のつながりを深めること、講座運営担当としては、受講生が日本語学習体験を通して教室の中と外をつなげること、これらに重点を置いて活動しています。

文化日本語講座「旅行の日本語」

「旅行の日本語」授業風景の画像
「旅行の日本語」授業風景

講座の受講生以外にも、日本や日本文化に興味のあるイタリア人は多く、当館の庭園見学ツアーや各種イベントでも毎回大変な賑わいをみせています。日本政府観光局(JNTO)の2015年度調査では、日本を訪れるイタリア人観光客の数は約10万人で、ここ数年は前年比10%~20%の伸び率となっています。また、観光庁の「訪日外国人消費動向調査(平成28年年次報告書)」では、イタリア人観光客の特徴として「初めての来日が多い」という結果が出ています。今後もイタリア人訪日観光客の増加が大いに期待される中、2017年に入って待望のJNTOの海外事務所がローマ市内にオープンしました。

これまで講座では「文化日本語講座」として旅行シーズンとなる春や夏に「旅行の日本語」を実施し、日本各地の観光地や観光に便利な日本語表現の紹介などを行なってきました。今後はJNTOとも様々な形で連携・協力を図り、講座の受講生以外にも数多くいるであろう潜在的なイタリア人訪日観光客を対象に「ミニ日本語講座」的なものを催し、講座だけでなく広く外部とのつながりができるのではないかと考えています。 

世界の日本語学習者とつながる

イタリア初の「ジャパンボウル」の画像
イタリア初の「ジャパンボウル」

イタリア国内で特に中等教育の日本語学習者が多いロンバルディア州ミラノ市で、今年3月に初めて高校生を対象にしたクイズ大会「ジャパンボウル®」が開催されました。当大会は、ワシントンDC日米協会の主催で1992年からアメリカで行なわれています。報告者も大会用の問題作成や大会当日審査などに協力させて頂きました。欧州地域では他にもポーランド、イギリス、セルビアで初の「ジャパンボウル®」が開催されています。これらの大会の模様はFacebookなどにアップされ、日本語学習者同士の交流もさかんなようです。

この「ジャパンボウル®」では日本語だけはなく、日本の歴史・スポーツ・文化など様々なジャンルから出題されるため、学校の授業だけでなく、あらゆる方面から情報を集め準備する必要があります。そうした教室内外での学習活動を通して、教師も学習者も楽しみながら「つながり」の輪を拡げていって欲しいと心から願っています。

「つなぐ」日本語学習支援

講座の今後の新しい試みとしては、まず無料の「自律学習支援クラス」を設け、授業以外でも受講生が自律的に学び続けられるよう支援したいと考えています。このクラスでは、毎回学習者が自分で学習計画を立て、授業の終わりに自分の学習を振りかえり、自身の学習ペースや学習スタイルに気づいてもらうということを主眼としています。ですので、担当講師(専門家と指導助手)は教えるのではなく、学習をサポートする側になります。

このクラスを設置することで、これまで講座としてフォローが行き届かなかった部分、例えば「授業の予習・復習をしたい」「コースに通いたくても、時間帯が合わない」「自分のレベルに合ったコースがないので勉強を続けられない」といった受講生(予備軍)の様々な悩みを解決する1つの手段となりうるのではないかと考えています。

今後も、様々な試みを行ないながら日本語専門家として当地の日本語教育を支えて行きたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Istituto Giapponese di Cultura in Roma
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ700名程度が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci 74, Roma 00197 Italy
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
What We Do事業内容を知る