世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)勢いが止まらない!スペインの日本語教育―今後必要な日本語学習支援とは―

マドリード日本文化センター
鈴木広夏

西欧諸国の中では日本語教育の開始が遅かったスペインですが、近年のインターネットの普及により日本文化への興味関心が高まり、日本語教育機関数、教師数、学習者数が急速に伸びています。2018年日本語教育機関調査では、学習者数がイタリアを抜いて西欧第4位となりました。マドリード日本文化センター(以下、JFMD)ではさまざまな日本語事業を実施していますが、今回はそのような勢いを示す学習者の学びをサポートする「日本語学習支援」に焦点を当ててご紹介します。

(1) 国際交流基金日本語教育スタンダード(以下、JFS)講座

JFMDの日本語講座は開所の翌年、『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)の試用版を使ったパイロット講座として2011年に始まりました。以来、JFMDと設立年を同じ2010年とするスペイン日本語教師会(以下、APJE)の先生方との協同で『まるごと文法解説書』や漢字練習帳の作成、まるごとWebサイトからダウンロードできる副教材のスペイン語版の作成など、『まるごと』の普及に努めるとともに、学習者が効果的に学べるよう注力してきました。開講コース数は需要に合わせて年々増え続け、2019年度は連携校であるカサ・アシア・マドリードとカサ・アシア・バルセロナを合わせて、年間でおおよそ60のコースを開講し、400名近くの一般学習者が日本語を学んでいます。受講の理由は「日本文化が好き/日本文化に興味があるから」がもっとも多く、次に「日本へ旅行に行きたいから」が多いのが特徴です。

(2) 中等教育段階の学習者支援

スペインの日本語学習者について考える際、忘れてはならないのが中等教育段階における学習者(以下、中高生)です。日本語はまだ公教育へ導入されていませんが、学校教育以外の機関や個人教授で日本語を学ぶ中高生は多く、ニーズは高まっています。JFMDではそのような日本語を学びたいと希望する中高生を対象に「中高生の日本語」を年に2回開講しています。「自分のことがある程度話せるようになる」というCan-doをコース目標とし、オンラインリソースや文化体験活動を取り入れながら楽しく日本語の基礎を学ぶことができます。しかし、現段階では残念ながら、このコースを修了した後、継続して学べるコースがありません。今後の課題は入門コースを修了した中高生たちが継続して学べる場を提供することです。

「中高生の日本語」クラスの様子の写真
「中高生の日本語」クラスの様子

(3) 中上級以上の学習者支援

日本語学習数の増加ととともに、中級修了後も学習継続の希望者が増えてきました。スペインでは中級までのコースは見つけやすいものの、それ以上のコースはなかなか探すのが大変です。JFMDでは、『まるごと中級2』を修了した学習者が継続して学べるコースとして「中上級B1・B2コース」を開講しています。また、学部レベルで日本語教育を行っている大学等の高等教育機関はあっても、大学院ではまだありません。これには日本語を専攻しても、卒業・修了後の就職が容易ではないといった背景があります。今後、公教育の場においても日本語教員など日本語を専門とするポストが増えることを願うばかりです。そういった職を目指すために日本語を習得することができる課程の設立支援、そこで教鞭を取るノンネイティブ教師の育成に今後JFMDの関与が期待されるのではないでしょうか。

(4) 地方学習者への支援

学習者、機関数ともに圧倒的に多いのはマドリード州とカタルーニャ州ですが、アンダルシア州やバレンシア州などの地方での日本語学習への関心の高まりも注目に値します。JFMDでは地方在住の学習者により多くの学習機会を提供できるよう、日本語学習プラットフォーム「JF にほんご eラーニング みなと」(以下、みなと)の展開に力を入れています。現在はA1-1とA1-2レベルの『まるごと教師サポート付きコース』のほか、オリジナルコースである『サバイバル・ジャパニーズ(旅行編)』の自習コースと教師サポート付きコースも運用しており、毎回多くの学習者が登録します。また年に6回、日本語学習者と日本語母語話者がゲームをしたり、テーマについて日本語で会話したりしながら交流を深める会話クラブ「¡Vamos a Nihonguear!」(以下、ニホンゲアール)を実施しています。マドリード以外の学習者にもぜひ日本語母語話者やほかの学習者と交流してほしいという願いから、特別回としてマドリード以外でもニホンゲアールを開催してきました。2019年度はマラガ、バルセロナのほか、日葡修好160周年を記念してポルトガル(リスボン)でも開催し、各地の参加者からは「今後も継続して開催してほしい」という声が多く寄せられています。今後もニホンゲアールがそれぞれの地域で自立的に実施できるよう、JFMDが継続的に支援を続ける必要を感じています。

バルセロナで特別開催したニホンゲアールの様子の写真
バルセロナで特別開催したニホンゲアールの様子

新型コロナウイルス感染拡大の影響による2020年3月の非常事態宣言を受け、JFMDの日本語学習支援も急速なオンライン化が求められています。現在、オンラインの強みを活かした新しい形態での日本語事業の導入・促進を行っており、今後、より幅広い学習者層に向けて日本語学習支援が行き届くよう日本語班一丸となって努めてまいります。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点として2010年4月の開所以降、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の分野でスペイン・ポルトガルを中心に各種事業を行っている。JFMDと同年に設立されたスペイン日本語教師会とは緊密に連携し日本語事業を協同展開している。また、2019年にはポルトガル日本語教師会も設立され、今後自立化に向けた支援やスペイン・ポルトガル間のネットワーク化促進が期待される。主な日本語事業として、教師研修会の開催、日本語学習奨励活動の実施、欧州日本語教育ネットワーク強化、日本語講座の運営(対面およびオンライン)などがある。
所在地 2a planta del Palacio Cañete, Calle Mayor, 69, 28013 Madrid
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年
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