日本語専門家 派遣先情報・レポート
ロンドン日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ロンドン日本文化センター
The Japan Foundation, London
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ロンドン日本文化センターは、英国における教育関係者のネットワーク、相互交流の促進を図りつつ、日英諸機関と連携して日本語教育振興を目的とする多様な事業を企画・実施している。主要事業としては、英国日本語教育学会との共催セミナーの企画・開発、中等教育段階および高等教育段階の学習者奨励のための主催事業、共催事業の実施などがある。このほか、教育機関への支援として、日本語教育プロジェクトへの助成、専門家によるコンサルティングやワークショップも行っている。
所在地
101-111 Kensington High Street, London, W8 5SA, U.K.
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1997年

環境の変化をとらえて創る学びの「場」―2021年度の英国の場合―

ロンドン日本文化センター
大舩ちさと

2020年に始まった新型コロナウィルス感染症拡大は世界中の教育現場を直撃し、これまでの対面で五感を通して学びあう環境から、ICTツールを駆使してオンライン上で学ぶ環境への大きなシフトチェンジを求められました。このような状況下、ロンドン日本文化センターでも2020年度からは今まで以上にICTを活用し、様々な活動を行ってきました。今回のレポートでは、2021年度の活動のうち、ICTの活用に焦点を当てて報告します。

教師のためのICT活用講座

この講座は2020年度に初めて開講し、2021年度にも新たな受講者を迎え開講したものです。この講座で目指したのは、ICTの「静的スキル」、すなわちICT機器の操作スキルを獲得するのではなく、「動的スキル」、すなわちICTを使って何をするかを自律的に考えられるスキル(山田・伊藤2021:158)を教師が習得することでした。そして、「学ぶためにつながる。つながりから学ぶ」ことを目指しました。講座は反転授業形式で、オフィシャルに集まる同期型セッションは開講式と修了式の2回のみ。3か月の講座期間中は講師から出される課題動画を視聴し、SlackGoogle classroomなどを用いて受講生間で協力しあい、語り合いながら、課題を達成していきました。また、任意参加の同期型セッション「オンラインサロン」を開催し、講座の課題達成のお悩み相談や日頃の実践の様子について語りあいました。

このような「場」を、外部から迎えた講師、そして受講者とつながりながら共に創ることが日本語教育アドバイザーが担った役割です。2021年度の講座には5か国から14名の教師が集まりましたが、この講座が終わっても時々集まろう、2020年度の講座受講生の人ともつながろうといった声が上がっています。私もこの「学びの共同体」の一員として、これからも共に学んでいきたいと思っています。

新規事業:小中高生のためのビデオ制作コンテスト「JaViChamp(じゃびちゃん)」

ICTリテラシーが必要なのは教師だけではありません。これからの時代を生きていく若き学習者たちは、急速に変化を続ける社会の中、多様なツールを使いながら、多様な人と対話し、周囲の人に、世界の人にメッセージを伝えていく力が求められるといえます。さらに、言語だけでなく、ビジュアルを用いて視覚的に表現する力も求められています。そこで、当センターでは新たに小中高生を対象としたビデオ制作コンテスト「Japanese Video Championship for Young Learners UK(通称JaViChamp/じゃびちゃん)」を開催することにしました。

このコンテストの企画の段階で重視したのは、英国で日本語を学ぶ小中高生であればだれでも参加できる形を採ることでした。そこで、このコンテストは日本語力を競うのではなく、表現力を競うものと位置づけ、外国語として学ぶ学習者も継承語として学ぶ学習者も応募可能としました。また個人応募もグループ応募も可能とすることで、学校で学ぶ学習者も学校外で学ぶ学習者も、また話すことが得意な学習者もそうでない学習者も参加できるようにデザインしました。

このコンテストは2022年5月上旬に応募を締め切り、7月に結果発表を行う予定です。広報を開始してから、ホームスクーリングで学んでいるけれども参加できるかといった問い合わせがあったり、人前で話すことの苦手な生徒も自分の得意な面を活かして参加できてよいといった反響が現場の先生から届いたりしています。また必ずしも顔をビデオに出さなくてもいいということに安堵している生徒がいて、この自由度がありがたいといった声もありました。こういった声を耳にすると、条件を設けることでこれまでいかに学びの機会を奪ってきたのかを考えさせられます。新規事業のJaViChampにどのような学習者が参加してくれるのか、どんな作品が集まるのか、当センターの日本語教育部門全員で楽しみにしています。

イベント告知ポスターの写真
JaViChampポスター

環境の変化をとらえ「場」を創る

日本語教育を取り巻く環境は刻々と変化しています。日本語教育アドバイザーは、この地で日本語教育に携わってきた人の声に耳を傾け、これまでの経緯と成果から学ぶと同時に、環境の変化をとらえ、日本語教育に携わる人と関わり合いながら、これからの日本語教育のあり方を模索していくことが大きな使命だと私は考えています。ポストパンデミックという大きな転換期迎える今、パンデミック前に戻るのではなく、さらなる発展の形を多くの人の声に耳を傾けながら、共に考えていきたいと思います。


(引用文献)
山田智久・伊藤秀明編(2021)『オンライン授業を考える―日本語教師のためのICTリテラシー―』くろしお出版

What We Do事業内容を知る