世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援(2020)

ジャカルタ日本文化センター
森田衛、長田佳奈子、大田美紀、岩崎透、平田佑和、佐藤公美、今井智絵、古閑紘子

ジャカルタ日本文化センター(以下、JFJA)では、日本語教師支援、JF にほんごeラーニング「みなと」講座、経済連携協定(以下、EPA)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育(訪日前研修)、特定技能に関わる教師支援、日本語パートナーズ(以下、NP)事業を行っています。

特定技能:新事業がスタート(担当:森田)

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「特定技能」教師向け研修(バンドン)

日本では、さまざまな分野で労働力が不足している現状を踏まえ、技能実習生に加え2019年4月に在留資格「特定技能1号」がスタートするなど新たな外国人材の受け入れや共生社会の実現に向けた取り組みが行われています。国際交流基金(以下、JF)では、これまでにも、EPAに基づく看護師・介護福祉士候補者に対する訪日前研修(以下、EPA訪日前研修)を実施してきましたが、「特定技能1号」の資格を得ようとする方をはじめ、外国の人が日本で生活や仕事をする際に必要となる基礎的な日本語力を育成・評価するために、新たに日本語コースブック『いろどり』やJF日本語基礎テスト(JFT-Basic)を開発しました。

新教材やテストを普及させるため、JFJAでは現地スタッフや生活日本語コーディネーターとともに、インドネシア各地で主に送り出し機関(以下、LPK)と呼ばれる日本語学校の教師向けに研修やテスト説明会を実施しています。LPKで教える教師の中には、かつて技能実習生として日本に長期滞在した経験をお持ちの方もいて、日本の職場の習慣やマナーについてよく知っています。反面、日本語教授法を専門的に習った経験はなく、日本語の教え方に苦労しているという話をよく耳にします。そこで、私たちが実施する2日間の研修では、参加者全員が教師役と生徒役になって模擬授業を2回経験し、その場でフィードバックを受けてもらいます。教材を使って行う具体的で細かなテクニックは、説明を聞くだけでは理解しにくい部分がありますが、自らの体験や参加者同士の話し合いを通じて少しずつ教授法を会得していきます。参加者の満足度は高く、これまでに368名が研修を修了し、その後もSNSの中にグループを作って活発に情報交換をしています。

EPA:新型コロナウイルスに負けないで、自律学習を続けています!(担当:長田、大田、岩崎、平田)

第13期開講式 これからがんばるぞ!の写真
第13期開講式 これからがんばるぞ!

EPA訪日前研修では、日本語の授業以外に毎日1時間「自律学習」のコマがあります。目標は「自己学習の習慣を身につけること」と「自分の学習を計画し、振り返る姿勢を養うこと」です。この時間、候補者は基本的に一人で勉強しますが、わからないところを講師に聞くこともできます。短期間で効率よく日本語が習得できるように学習計画を立て、その通りにできたか自己評価や振り返りをしたり、ポートフォリオを作ったりもします。クラスメイトと学習方法について情報交換したり、講師と面談したりすることもあります。講師は候補者が自習する様子を見守り、必要に応じてサポートしていきます。

2019年11月に始まった第13期の研修は、新型コロナウイルスの影響で3月中旬から授業が中断し、約320名の候補者は自宅で自習することになりました。どうなるか心配でしたが、「家では自律学習が難しい」と嘆きつつも、一人一人が自力で問題を解決しながら学習に取り組んでいる様子が聞こえてきて、頼もしく感じました。これからも多様な学習方法を身につけ、国家試験合格に向け邁進してほしいです。みんな、がんばれ!

NP活動支援:NPプログラムで広がる交流(担当:古閑)

インドネシアのNPプログラムは2017年から派遣地域が13州に広がり、毎年150名ほどのNPが派遣されていますが、派遣地域以外からもNPを求める声がよく聞かれます。そこで、2019年は新たな試みとして、NP未派遣地への短期訪問プログラムを実施しました。訪問先は①南カリマンタン州のバンジャルマシンと②アチェ州のバンダ・アチェで、どちらにも2020年度派遣のNPの中から3名1組が訪問し、3日間のプログラムを通して現地の日本語教師・生徒と交流しました。遠方からの参加も多く、バスや車で10時間近くかけて来てくれた教師・生徒もいました!

より有意義なプログラムとなるよう、参加教師には初日に専門家とNPによるプロジェクト型の授業を学習者として体験してもらい、翌日には同じ授業を教師として参加生徒に実践するというチャレンジを設定しました。一方、生徒たちにも最終日にNPを市内観光に案内するという大きなミッションがあったので、準備も含めてドキドキの連続だったと思います。そんな中、NPが心を込めて準備した日本文化体験の時間では、教師も生徒も終始リラックスした様子で、①ではお正月をテーマに、②では茶道とおもてなしをテーマに、みんなで文化体験を楽しみました。

初の試みということで、課題も残りましたが、参加した教師、生徒、NPにとって、心に深く残る思い出になっていたらいいなと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア派遣の日本語上級専門家・日本語専門家、生活日本語コーディネーター、インドネシアの各機関・団体と連携をとりながら、日本語教育支援を行っている。中等教育では各地域や全国レベルの教師会と、高等教育では主にインドネシア日本語教育学会とその各地域の支部と連携し、勉強会やセミナーなどに協力している。加えて、民間の日本語教育機関対象のセミナーやコンサルティング、一般成人向けのJFスタンダードに準拠した「JFにほんごeラーニング みなと」、日本語パートナーズ支援、EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施している。
所在地 Summitmas Ⅱ Lt. 1-2, Jl. Jenderal Sudirman, Kav. 61-62 Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:3名、専門家:5名、生活日本語コーディネーター3名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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