世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)東北部と全国規模の業務を通して
バンコク日本文化センター(タイ東北部中等教育機関)
遠藤かおり
タイの日本語学習者は約17万人、そのうち約6割に当たる約11万5千人が中等教育機関で学んでいる生徒たちです(国際交流基金2015年度日本語教育機関調査)。前回調査と比べて、特に中等教育機関における学習者が著しく増加しました。この背景には2010年に始まった「World Class Standard School」と言う第二外国語拡充施策、2013年から2016年までの「タイ中等教育公務員日本語教員養成研修(通称:OBEC研修)」プロジェクトによる教師の増加、そして2014年に始まった「日本語パートナーズ」事業が考えられます。
1.学校訪問
私の主な業務は、ナコンラーチャシーマー県にある配属先のスラナリー・ウィッタヤー校を拠点に、東北部全体の中等教育機関における日本語教育を支援することです。その一つに学校訪問があります。東北部の日本語科目を開講している学校を訪問し、授業見学をしたあとでフィードバックをし、それぞれの環境に合ったよりよい授業を考えます。また、先生方と情報共有や情報交換をしたり、どのような情報が必要とされているのかを把握したりするのも学校訪問の目的の一つです。ときには外国語部の主任の先生や校長先生とお話をして、学校側の日本語科目への理解や協力を仰いだりもします。
私の訪問を温かく迎えてくださる先生方や生徒のみなさんからは、いつもパワーをいただいています。東北部は広大であり、中等教育機関では年間を通してイベントが多く催されることから、1年間に何度も訪問することはできません。ですが、今年度も時間が許す限り一つでも多くの学校を訪問し、先生方と一緒によりよい授業を考えて行きたいと思います。
2.まんざいワークショップ
北部派遣の下村専門家と共同で企画立案をし、「笑おう!学ぼう!楽しもう!まんざいワークショップ」を実施しました。これは、西オーストラリア州で中等教育機関を中心に行われている「まんざいワークショップ」の取り組みをキー・リソースとしたもので、タイの中等教育機関でも同様のワークショップを展開していきたいと考えました。目的は、通常の授業以外で日本と日本語に触れる機会を持ってもらうこと、日々の日本語学習の成果を披露する場を提供することです。
どの会場も大盛り上がり!
全国にある「JFにほんごネットワーク(通称:さくらネットワーク)」メンバー校5校のうち、2016年度は3校(東北部・下北部・中央部)で実施することができました。メンバー校だけではなく周辺校にも参加を呼びかけ、100名以上の生徒や先生が集まった会場もありました。ワークショップではまんざいを紹介するだけではなく、参加者にはペアで実際にまんざいを考えてもらいました。最後には、全員がみんなの前でまんざいを発表しました。
どの会場もとても盛り上がり、たくさんの笑い声を聞くことができました。
ありきたりな日本文化紹介イベントではなく、ことばを使う体験型の活動をデザインしたことで、生徒からは感想として「教室の授業より楽しかった」「日本語の練習の機会になる」、また通常の授業との違いとして「リラックスして活動できた」「今まで勉強したことを使うことができた」と言った声がアンケートに寄せられました。先生方からは「授業をする際の参考になった」「またこのような活動を行ってほしい」との評価をいただきました。2017年度は残る2校(北部・南部)でも実施したいと考えています。
3.教師キャンプ・日本語インテンシブキャンプ
今年度も4月に日本語教師キャンプ、5月に全国の生徒を対象とした日本語インテンシブキャンプが4泊5日の日程で開催されました。いずれのキャンプも「プロジェクト型学習」の手法がとられ、今年のテーマは「私の食事よくなぁ~れ!~体にいい食事バランスを考えよう~」でした。キャンプを通して自分自身の食生活を振り返り、日本語で体にいい食事バランスとはどのようなものかを考え、最後にキャンプで得た知識を基に、体にいい食事バランスを周りの人に伝えるアイディアをグループで発表しました。
今年で3回目となる教師キャンプにはOBEC研修3期生を中心に、1、2期生の合計54名が参加しました。これからのタイの日本語教育を担っていく若さ溢れる先生方からはこちらがパワーをもらう場面も多くありました。
日本語インテンシブキャンプには全国の高校2・3年生110名が参加しました。最初は緊張の面持ちだった生徒たちですが、日を追うごとに段々と距離が縮まり、チームワークが生まれ、最終日は涙のお別れとなりました。
私は昨年度と同様に約半年のキャンプ準備期間中、講師のタイ人の先生方のサポートに当たりました。キャンプが終わるまで試行錯誤の連続でしたが、先生方と濃密な時間を過ごしたことによってまた一つタイの日本語教育の新しい側面を知ることができ、タイ人の明るさ、前向きさ、おもしろさにも触れることができました。
日本語インテンシブキャンプの講師4名
東北部と全国規模の業務を通して先生方や生徒のみなさんからもらったパワーをエネルギーに変えて、東北部とタイ全体の日本語教育がより充実していくよう、引き続き支援や協力をして行きたいと思います。
派遣先機関名称 | バンコク日本文化センター (タイ東北部中等教育機関) |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
The Japan Foundation, Bangkok | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
日本語専門家業務の拠点であるスラナリー・ウィッタヤー校は、東北部で伝統のある進学校で、6年制の女子中等学校である。日本語クラスは1997年に選択科目として開講し、現在は専攻科目と選択科目が開講されている。専門家は、タイ人教師と協力して日本語クラスを運営し、日本語教育全般における支援を行っている。加えて、タイ東北部全体の中等教育機関への支援(学校訪問、情報収集・提供、教師研修、ネットワーク構築、イベントへの協力)を行っている。また、全国規模の中等教育機関関連イベントへの支援・協力も業務の一つである。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
所在地 | 248 Mittraphap Rd., A. Muang, Nakhon Ratchasima 30000 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:1名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
外国語部 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
|