世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広げよう!日本語教育-日本語教育をより多くの人に届けるために

国際交流基金バンコク日本文化センター
大田祥江 小島佳子 西島阿弥子

バンコク日本文化センター(以下、センター)では、様々な日本語教育支援事業を行っています。これまでにも本コーナーでは、「日本語学習者への支援」「日本語教師への支援」として、キャンプ事業、教師研修事業、教材開発事業等をご紹介してきました。今回は、「日本語教育の理解者を増やし、日本語教育をより多くの人へ届けるための取り組み」を3つご紹介します。

1. 校長先生、教育省へのアプローチ!

みなさんは、中学生、高校生の時に、外国語として何語を勉強しましたか。ここタイでは、中等教育機関(日本の中学・高校に相当)の生徒143,872人が第二外国語として日本語を学んでおり、日本語クラスのある中等教育機関は515校あります。(国際交流基金2018年度日本語教育機関調査)

それでは、各学校が外国語科目として何の言語を選ぶかはどうやって決まるのでしょうか。それは、学校長の裁量で決まることが多いのです。そこで大切になるのが学校長や教育省へのアプローチです。

センターでは、日本語教育の定着や拡大、日本との交流に関する理解を促進することを目的にタイ教育関係者を日本へ招へいする事業を実施しています。2016年、2017年に続く3回目となる今回は、タイの教育行政官と、タイ中部・南部の中等教育機関より校長・副校長先生16名にご参加いただきました。2019年11月末に東京に1週間滞在し、文部科学省、東京都教育庁、都立日比谷高校、Tokyo Global Gateway、東京外国語大学、JTBグローバルマーケティング&トラベルを訪問し、外国語教育についての意見交換や交流を通じて、日本語教育の意義についての理解を深めました。

本事業開始時に、参加者へ簡単な日本語講座を行いました。そこでは挨拶に加え、「好きです」という日本語をお伝えしました。東京滞在中には、参加者から多くの「好きです」の声を聞くことができました。帰国後には、さっそく中学での日本語プログラムを開始したり、クラブ活動での日本語を実施し始めた学校もあります。これからも、日本や日本語教育への「好き」の声を増やし、日本語教育への理解者を増やせるような取り組みをしていきます。

2.「よしもと」とのコラボレーション!

タイ各地の中学高校にティーチングアシスタントとして派遣されている日本語パートナーズ(以下「NP」)。現地に日本人のNPがいるおかげで、2019年度は日系企業や各界のプロの方々とのコラボレーションが数多く生まれました。
そのひとつが、漫才でお馴染み「よしもとエンタテインメントタイランド」とのコラボレーションです。タイで暮らす「タイ住みます芸人」の方々がNPの研修で漫才を披露したり、さらにはNP派遣校を訪れて生徒向けに漫才ワークショップを開催したり、今までになかった取り組みが行われました。 

そして後日JAPAN EXPOで開催された「MANZAIコンテスト」には、3組のNP派遣校の生徒が挑戦! そのうち1組が見事に優勝を果たしました。タイ全土で活躍するNPの存在が、日本語教育への新たな理解と支援の輪を広げています。

“NP派遣校での漫才ワークショップの様子の写真
NP派遣校での漫才ワークショップの様子

MANZAIコンテストで優勝したNP派遣校の二人の写真
MANZAIコンテストで優勝したNP派遣校の二人

3. 日本で生活するための「生活の日本語」、始まりました!

基礎的日本語力を測る「国際交流基金日本語基礎テストJFT-Basic」が2019年4月から日本国外で始まりましたが、ご存知でしょうか。このテストは、主として就労のために来日する外国人が「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうか判定することを目的としており、すでに特定技能制度の対象国であるアジア6か国で実施されています[1]。このJFT-Basic普及、および、日本で生活・就労するために必要な日本語教育を支援するため、2019年12月に日本語専門家等がセンターに派遣され、事業がスタートしました

2020年3月末現在、バンコクの技能実習生等送り出し機関付属学校や職業系大学など約20校の学校を訪問し(一部、チェンマイ、ウドーンターニー)、タイにおける来日就労の可能性やそのための日本語教育支援を探っています。タイは他国と比べると日本で就職したい人が少なそうですが、日本で暮らしてみたいと考える学習者は多いため、そうした方々のためにも何ができるか模索する日々です。  

2020年3月末には、日本で生活し働く人のための日本語教材『いろどり 生活の日本語』(国際交流基金)がWeb公開され、今後はこの教材を使った日本語講座や教え方セミナーなどを開催する予定です。日本で暮らしてみたいと思い日本語を学んでいる方々や、その方々を支える先生方の想いを叶えるお手伝いができたらと思っています。

[1] 2020年11月からタイでも実施され、2020年11月現在、7か国で開始。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Bangkok
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
タイ人専任講師と共に、タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな日本語事業を実施している。教師支援事業では、中等教員向け各種研修、大学教員向けセミナー、日本語パートナーズ支援、一般日本語教育向けには『まるごとセミナー』を開講している。学習者支援では、日本語キャンプの開催やJF日本語教育スタンダード講座をはじめとする一般講座を開講している。また、教材開発にも力を入れており、中等教育向け日本語教材や日本語学習プラットフォーム「JF eラーニングみなと」のコンテンツを開発した。その他、カンボジアやラオスなど周辺国の日本語教育支援を担っている。2019年度には特定技能チームも発足した。
所在地 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand
Tel: 66(2)260-8560~64 Fax: 66(2)260-8565
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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