世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ベトナム南部の日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
中尾菜穂・池田亜季子

広がる日本語教育

ベトナム南部の中等教育機関における日本語教育は、今年の9月で14年目を迎えます。2004 年9月に82名で始まった日本語学習ですが、2017年1月現在の初等・中等日本語学習者数は、ホーチミン市・ビンズオン省・バリアブンタウ省で、あわせて約6,000名になりました。また、この約6,000名の中の80名は、ベトナム南部で初めての初等教育機関の学習者です。

2016年9月、ホーチミン市私立ベトナムオーストラリアインターナショナルスクール小学校の3年生のうち、4クラスにおいて、第二外国語としての日本語学習が始まりました。この子どもたちはベトナム語だけでなく、英語と、そして日本語を勉強しています。・・・とはいってもまだまだ3年生。みんな楽しいことが大好きで、いつも元気いっぱいです。先生はそんな子どもたちに、時にはゲームや歌をまじえながら、丁寧にひらがなや挨拶を教えていきます。

大きな声で「おばさん!」「おばあさん!」の画像
大きな声で「おばさん!」「おばあさん!」

実はこの先生たちは、これまで10年近く中学校で日本語を教えてきたベテラン教師です。国際交流基金の教師研修を受けながら、努力を重ね、経験を積んできた先生たちが、今、新しく始まった小学校の日本語教育を牽引する、頼もしい存在となっているのです。

さらに、2016年9月から新しく高校で教え始めた先生の中には、中学校から日本語を勉強してきた人もいます。また、中学校から日本語を勉強してきて、大学の日本語教師になった人もいます。2004年から始まった中学・高校の日本語教育で日本語と出会った学習者が、今や日本語教師となって、また母校に戻って来ているのです。これは、この仕事をしている私たちにとっても大変嬉しく、まさに教師冥利に尽きることといえます。

このような「ベトナム人の、ベトナム人による、ベトナム人のための日本語教育」をお手伝いしていくことが、私たちの仕事です。そのためのよりよい研修やイベント支援の在り方について、これからもベトナム人の先生たちと一緒に考えていきたいと思います。

JF日本語講座

ホーチミンをはじめとする南部ベトナムでは、JF日本語教育スタンダードおよび『まるごと』に対する関心が高まりつつあります。そのような状況において、ホーチミンで開講されているJF日本語講座には、大学や日本語学校、中等教育機関などからの注目も集まっています。ホーチミンで開講されているJF日本語講座は、2017年6月より3コース全てがBレベル(中級レベル)になります。『まるごと』で学んだことを基にして、各自がテーマを決め、スピーチをすることも行っています。スピーチの原稿は、各自が納得するまで推敲を重ねています。そうすることにより、『まるごと』で学んだトピックの内容をより深く理解するだけでなく、各自の得意なところ、不得意なところに自分で気づき、自律学習へと繋がっています。また、学習者同士で評価を行い、お互いのパフォーマンスが刺激になっています。

ホーチミンでJF日本語講座が開講されて5年目ですが、ホーチミンのまるごと学習者は、修了証取得という目標に向かってがんばっています。ホーチミンのまるごと学習者が、『まるごと』のリーダーとして南部ベトナム日本語学習者にもいい影響を与えてくれることを期待しています。

文化体験講座

2016年度は、生活文化、浴衣・盆踊り、茶道、表現(演劇)、お正月とバラエティに富んだ文化体験講座を開催することができました。生活文化や表現(演劇)は、これまでに開催されたことがない新しい講座でした。
生活文化では、活動の一つとして絵手紙の作成を行いました。普段、SNSなどでコミュニケーションを取ることが多い参加者から「ことば」と「こころ」の接点を学ぶことができたと大好評でした。

表現(演劇)では、表現することによって、「ことばの大切さ」や「思いを伝える」という日本語学習の本質も参加者に理解してもらえました。

昨年度、ご紹介した「まるごとダンサーズ」も文化体験講座では、活躍してくれました。
文化体験講座が日本語学習者の言語活動のきっかけや支えになってくれれば、ありがたいと感じています。

「まるごとダンサーズ!」の画像
「まるごとダンサーズ!」

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「2008-2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」に日本政府も協力しており、当センターは初中等日本語教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等を行っている。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開しており、現職教師対象の講座も開講している。
ハノイ、ホーチミンで一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:6名、指導助手:1名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
What We Do事業内容を知る