世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)”日本語パートナーズ”とフエの日本語教師

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(フエ)
近藤麻衣子

3年目のフエ、最後のフエ

私の3年間のフエ生活もいよいよ、終わろうとしています。この3年でフエにも経済発展の波が押し寄せ、素人目に見ても街の様子は大きく変化しました。ベトナムの有名モールがフエにこれまでなかったガラス張りの超高層ビルを建設しています。車を運転する女性もこの3年で非常に増えました。今まで全国展開をしているカフェが一軒もありませんでしたが、この1年で2店舗も開店し、台湾系のミルクティーのお店も次々にオープンしました。

一方で、3年目の最後の雨期にフエ名物の洪水に遭いました。まだ下水道が完備されていないフエでは大雨の影響で低い土地を中心に床上浸水の被害、郊外の村では死者行方不明者も多く、1999年来の大洪水でした。また、フエの中心を流れるフオン川が氾濫し、街中が水浸しに。その影響で学校も最大1週間のお休みになりました。現在も日本のODA予算でフエの下水道整備が続いています。

”日本語パートナーズ”と日本文化体験!

2015年度より”日本語パートナーズ”事業が開始され、2018年現在、フエ4名、ベトナム全土では29名の4期目の”日本語パートナーズ”が派遣されています。今年は”日本語パートナーズ”の全ての任地、教室での活動の様子を見たり、アドバイスをしたりすることができました。

今年は日越友好45周年です。各地で様々なイベントが開かれ、この45年間で日本とベトナムは素晴らしい友好関係を構築してきたと思います。在留邦人も年々増加する傾向にあり、日本国内でもアジアの観光地として注目を浴びるようになってきました。

しかし、教室で日本語を学ぶ生徒にとって、日本人と日本語を話す機会が限られている地域がほとんどです。”日本語パートナーズ”が週に1度でも教室に入ることは、生徒にとって、日本人と日本語を話す貴重な機会になり、多感な時期の生徒達への影響は大きいと感じました。

大雨で冠水したフエの街の写真
大雨で冠水したフエの街

教室の外に出ての押し相撲の写真
短期”日本語パートナーズ”3期
教室の外に出ての押し相撲 

一方で、2017年度から「短期」の”日本語パートナーズ”派遣も開始されました。短期”日本語パートナーズ”はグループでの参加で2週間活動します。1期はベトナム北部のハノイ市とハイフォン市、2期は中部のフエ省とダナン市、3期目には南部ビンズオン省とバリアブンタウ省に2グループの大学生が派遣され、これまでに4グループが派遣されました。これまでの短期”日本語パートナーズ”の皆さんは大学生グループでしたので、エネルギッシュな文化紹介が展開され、普段は日本語が得意ではない生徒達も日本人のお兄さんお姉さんに興味津々!とても楽しそうに参加しているのが印象的でした。

2週間の間に各地域の学校を複数校訪問し、文化紹介を行う、というスケジュール的に多忙の中でも、生徒との交流はもちろん、通訳ボランティアの大学生や街中のベトナム人との交流、食事などを通して、皆さん、五感の全てでベトナムを体験してくれたように思います。

教師の挑戦は続くよ、これからも

ベトナムでは私が派遣されてからも中等教育段階の日本語教育拡大に伴い、教師の人数も増加傾向にあります。一方で、支援側の人数は限られ、全ての教師に対して手厚いサポートをすることが難しくなってきました。そこで、ベトナム日本文化交流センターでは教師自身が主体的に教授力向上に取り組むシステムに変更しました。詳細はこちらをご覧いただければと思いますが、ここでは、フエから参加した教師の様子について、ご紹介したいと思います。

フエからは2017年夏に日本での研修に参加したベテラン教師2名が参加しました。「互いに励まし合い、意見を言い合える間柄だからこそ、頑張れた」と2人は言っていますが、まさにその通りだったと思います。前に出過ぎず、奥ゆかしい性格と一般的に言われるフエの人たちにとって、自ら新しいことに挑戦することに慣れておらず、その一歩を踏み出すには勇気が必要だったと思います。課題も多く、自らに課す負担も増えるこの挑戦をやり遂げた達成感、そして昨年から考えてきた「生徒中心」の授業運営をこの1年の取り組みを通して、実感できたのではないかと思います。

フエの中等教育をけん引してくれる先輩教師がこうして教授力向上を意識し、努力を続けてくれるおかげで、後輩教師達もそれに続こうとしてくれていると感じています。日本語教育でも21世紀型教育が言われて久しいですが、教師自身がまず21世紀型の教師にならなければなりません。ベトナム日本文化交流センターはこうした教師自身の学び続ける気持ちをさらに引き出せる支援をベトナム全土で展開していけたらと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「2008-2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」に日本政府も協力しており、当センターは初中等日本語教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等を行っている。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も展開しており、セミナー開催等行っている。
ハノイ、ホーチミンで一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講し、『まるごと』ベトナム語版出版準備も進めている。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:6名、指導助手:1名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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