世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)教師はつらいよ -先生と専門家の真実一路-

ベトナム日本文化交流センター(ダナン)
関山聡之

ベトナムのダナンにある執務室を拠点に、ベトナムの中部地域(ダナン・フエ)を中心に活動をしています。当地の日本語教育支援の対象は、高等教育機関(主に大学)、中等教育機関(中学校・高校)、その他の教育機関(主に民間の日本語教育機関)です。中でも、中等教育機関への支援の比重が大きくなっているので、中学校の日本語教育の現場の様子と、奮闘する先生に対する専門家の仕事について紹介しようと思います。

元気な生徒と奮闘する教師

先生の質問に生徒たちの手が挙がります
先生の質問に生徒たちの手が挙がります

中学校は校門を入るとコの字型に校舎が建っています。中には校庭があります。休み時間になると、バドミントン、バスケットボール、サッカーなど子供たちが元気に駆け回っています。授業を見せていただくときは、ボールやシャトルが飛び交う中をかいくぐって教室に向かうこともあります。教室には、机といすが一体になった2人掛けの長机がぎっしり並んでいます。多いところでは、50人弱の生徒が学んでいます。

授業開始を知らせる太鼓がドドンと鳴ると、先生が教室に入ってきます。日直から日本語で「起立」「礼」の掛け声がかかります。懐かしい雰囲気です。先生が生徒に質問を投げかけると、多くの生徒の手が挙がります。なかなか積極的です。あまり発言しようとしない子供だった私にとっては新鮮です。先生に聞けば、生徒の発言も成績に反映させているそうです。

授業はたんたんと進みますが、グループ対抗クイズやインタビューして情報を集めるような活動になると、にぎやかになります。私が座っている席の周りの声もかき消されるくらいです。真面目にまとめようとする子、場を盛り上げようとする子、斜に構えてあまりやる気を見せない子、となりを頼り切っている子など、いろいろな子供たちが見られます。先生の指示とは違うことをやっている子供たちもいます。だれが何をやっているか確認するのは困難です。

先生にも都合があるため、次の練習に移ろうと大声で指示しても、盛り上がっている子供たちは止まりません。見ている分には微笑ましい光景なのですが、先生は大変です。全ての生徒の様子を把握したい、予定された内容を消化したいという気持ちとは裏腹に、この大人数への対応と限りある時間の管理が悩みのタネです。なかなか思い通りの授業はできないようです。

授業はドドンに始まりドドンに終わります
授業はドドンに始まりドドンに終わります

先生の「ヘルプ」に応えたい

ベトナム中部の中等教育機関の先生は、すべて女性です。小さいお子さんがいる先生も少なくありません。昼間は学校で、うちに帰れば家事や子育てに追われる日々です。授業準備にかけられる時間は相当限られていることでしょう。

この地域の中等教育の現場では、教室内では「限りある時間の使い方」「大人数クラスの教室運営」に課題があると感じています。指示、練習や活動の説明、プリントなどの配付作業や生徒の動きなどにかかる時間の無駄をなくすにはどうすればいいのか。生徒同士の活動が円滑に進められる段階になったかをどうやって判断するか。活動中はどんなことを注意して観察すればいいのか。活動後にその成果をどのように確認して何について評価すればいいのか。教室外では「授業準備にかける時間が少ない」ことに課題があると思います。何年も同じような授業準備をしなくてもいいようにするためには、どんな材料が必要なのか。というように、当地の専門家として、先生たちの負担を軽減するには何が必要か、利益につながるのは何かと考えながら、研修などの支援をしています。

先般のコロナ禍では、先生たちも私も道なき道を走りました。この地域の中学校、高校でも2月からの3カ月間が休校となり、1学期の半分にあたる授業をオンラインで消化しました。ZOOMなどによる対面式を維持した授業を導入した学校もあれば、動画を作成して配信するという学校もありました。いずれも、普段の教室での授業以上に“見せ方”が大切になると思ったので、授業で使えるパワーポイントの技術的な解説をした動画を配信しました。その後、大人数クラスで教えている先生からZOOMでの授業をどうすればいいのかという相談が殺到したため、「教師から生徒へのインプット」と「教師と生徒間のやりとり」といった比較的負担にならないレベルの解説動画を配信しました。すると今度は、小テストを作りたいけどどうしたらいいのかという問い合わせがあり、Google Formsでテストづくりと成績管理ができるように解説した動画を配信しました。この時期は、先生たちの不安を解消することで頭がいっぱいで、とにかく早め早めの対応を心掛けました。

先生たちも私も、今までに経験したことがないことに挑戦しました。先生たちは、授業準備やテスト制作において、従来と異なる方法で試行錯誤する日々だったと思います。さきに述べたいくつかの課題に対しても、きっと今後につながるヒントがあったと思います。私は当地の専門家として、このような先生たちの経験を活かしながら、先生たちの負担の軽減と利益を最優先に支援を続けていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
ベトナム政府が推進する「国家外国語プロジェクト」のもとで、初等・中等教育の日本語教育の整備・発展に関する日越政府間の協力が合意されており、当センターは初等・中等教育のカリキュラム・教科書作成、教師研修等に協力している。
また、専門家派遣地を中心に中等日本語教師向け研修、巡回指導等を実施するとともに、新規日本語教師希望者、民間や高等も含む現職教師を対象とした新規日本語教師育成特別強化事業を展開し、ベトナムの日本語教育のさらなる発展のための重要課題である日本語教師の数の増加、質の向上に取り組んでいる。
加えて、国際交流基金アジアセンターが実施している「日本語パートナーズ」派遣事業によって、全国の日本語教育を導入している初等・中等学校の大半において、様々な世代の日本人がベトナム人教師のアシスタントとして活動し、生徒に直接に日本人と話す機会、日本文化に触れる機会を作っている。
ハノイ、ホーチミンでは、一般人対象のJF日本語教育スタンダード(JFS)準拠教材の『まるごと』を使用した日本語講座を開講し、JFSの考え方や『まるごと』のベトナムでの活用、導入の促進を図りつつ、各レベルのベトナム語版を順次出版している。 
また、2019年4月より開始された特定技能制度にも対応して、日本での就労希望者等を主な対象とした、日本で生活をするために必要な日本語(生活日本語)の普及事業を実施しており、関係する大学、短大、送出機関、職業訓練校等における日本語教育基盤整備およびその教師に対して説明会、勉強会、研修等による支援を行っている。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:8名、指導助手:1名、生活日本語コーディネーター2名(うちホーチミン市:専門家2名、ダナン市:専門家1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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