日本語専門家 派遣先情報・レポート
ベトナム日本文化交流センター(中部)

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ダナン)
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け及び業務内容
関係機関と連携し、ベトナムの日本語教育発展に携わる。初等・中等教育ではカリキュラム・教科書作成、教師研修や巡回指導等を行い、日本語パートナーズ事業日本語教師育成特別強化事業も展開。一般向けには教材『まるごと』使用講座を開講し、同教材の現地出版、普及を推進。また日本での就労希望者等を主な対象に、新教材『いろどり』を用いた日本語教育基盤整備、教師に対する研修、助成等支援を実施。
ダナン派遣専門家は特に、ベトナム中部の中等・高等教育機関に向けた巡回指導・各種研修、勉強会に加え、地域を超えた研修や全国規模の事業も企画、実施。中部地域における日本関連イベント協力等も行う。
所在地
Phong 608-609 so nha 130 duong Dong Da, Quan Hai Chau,Da Nang, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2016年

コロナ禍のベトナム中部・中等教育支援

ベトナム日本文化交流センター(ダナン)
関山 聡之

ベトナムの地方都市ダナンに派遣されている日本語専門家は、拠点であるベトナム日本文化交流センター(ハノイ)を中心とした全国規模の日本語教育事業の企画・実施への関与に加え、ベトナム中部(ダナン・フエ)における中等・高等教育機関に向けた巡回指導、各種研修、勉強会など、地域に根ざした事業を企画・実施するという特色があります。コロナ禍と呼ばれて早2年。この間の中等教育支援に関する取り組みについてまとめます。

ベトナム中部における中等教育支援の特徴

ベトナムの中等教育段階における日本語教育は、ベトナム教育訓練省が2018年に発表した『中等教育における日本語教育 - 中学校、高等学校の第二外国語の日本語カリキュラム』(以下、カリキュラム)に沿って運営されています。日本の学校教育でいうところの「学習指導要領」にあたります。

カリキュラムには「生徒が自信を持って効果的に日本語を使用できるように生徒に日本語能力を備えること。生徒のコミュニケーション能力及び学習能力を向上させること。ベトナムの工業化・近代化・国際統合時代における人材養成に応えることを目標とする」とあります。さらに具体的な記述がなされており、ベトナム日本文化交流センターでは、特に以下の部分について着目し、支援方針を立てています。

  1. 1.生徒を学習の中心とし、生徒にとって身近なテーマや場面において聞く、話す、読む、書くといった日本語のコミュニケーション活動に参加できるように配慮すること。
  2. 2.生徒が、テーマに関連する生徒自身のバックグラウンドや知識や経験を生かすことができる機会を設けること。
  3. 3.タスク・学習活動は量的な観点からも、思考能力が必要となる場面でも、簡単な程度から複雑な程度まで順番で配列し、練習を通して、聞く、話す、読む、書くといった言語技能が身につくようにすること。

ベトナム中部の専門家は、この方針の下に実施される全国規模の支援に加え、ダナンとフエの先生方から寄せられる要望や、顕在化した課題への対応もしています。先生方に共通する課題や汎用的な知識・情報を伝えるための研修や教材発信等をするとともに、語彙・文法の解説、試験作成・採点や学習評価等、個々の先生の悩みや課題についての相談も受けています。

コロナ禍で見えた進歩と課題

2019年末に端を発した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界中に広がっていきました。ベトナム中部では、早い段階から新型コロナウイルス感染防止に向けた厳格な水際対策が講じられました。中等教育の現場では、当たり前のように生徒が登校してきて、教師が教室で授業をすることができなくなりました。

授業の形式はオンライン授業になりました。先生方からは「パワーポイントに音声や動画を入れたい」「生徒が飽きないような教材がほしい」「Google Formsでのテストの作り方を知りたい」などと様々な要望が寄せられました。その中から多くの先生が望んでいるものや緊急性が高いと判断したものについて、できる範囲内で対応しました。

2021年、コロナ禍は収まるどころか止められない状況となりました。移動や活動の制限が強化される中、オンライン授業は引き続き実施されました。毎日の授業準備にパワーポイント等のスライドを組み込み続けたことによって、授業の構成や流れに均一性が出てきました。「カリキュラム」の着目点3の「タスクや学習活動を適切に配列する」といった形式面については、意識化できている先生が増えたと思います。

一方で「カリキュラム」の着目点1と2については、まだまだ追究していかなければならないことが多いと感じています。見学させていただいた授業の新出文型導入は、生徒自身のバックグラウンドや知識や経験を表す機会もなければ、どんな場面で、誰が誰に対して、どんな言葉や表現を使うのか、なぜその表現を使うのかがわからないのがほとんどでした。内容面への意識化が今後の課題として残されました。

目標に向けた更なる取り組み

内容面の意識化に向けて、「カリキュラム」の着目点1と2に合った仕組みを作ろうと思いました。生徒が自分のバックグラウンドや知識や経験を生かし、身近な場面で聞いたり話したりするための教材として「文型導入ビデオ」を制作しました。動きがある紙芝居のようなものに目標文型を含んだ会話音声を挿入した動画教材で、「字幕なし」と「字幕付き」を続けて視聴しても1分程度です。 授業の流れに嵌り、従来の文型導入に費やした時間内に収まるように配慮し、既存の文型導入からの置換が可能になるようにしました。

この「文型導入ビデオ」を使った仕組みは、生徒自身が知っていることや経験などについて話すことから始まります。教師は生徒に動画の内容に合った問いかけをして、個人的なことをたくさん言わせます。たとえば、動画の内容が「学校の友達に自分が飼っている犬の写真をスマートフォンの画面で見せて、友達の家にもペットがいるか聞く」という話ならば、「ペットを飼っているか」「ペットの写真を友達に見せたり、SNSに投稿したりしたことがあるか」「そうするのはどうしてか」といったことを聞きます。

日本語学習者向けの動画教材の写真
スマートフォンで自分のペットの写真を友達に見せる

次に、動画(字幕なし)を視聴します。続いて、動画の内容について質問をします。場所や登場人物の関係、時系列でストーリーについて答えさせます。そして、もう一度動画(字幕付き)を視聴して、目標文型が含まれた文について問います。ここでは「〇〇さんの家にペットがいるか聞くときに日本語で何といいましたか」と聞きます。生徒が「〇〇さんの家にペットがいますか」と日本語で言えればいいわけです。

日本語学習者向けに作成された動画教材の写真
友達の家にもペットがいるか聞く

その後は、いつものように教科書に載っている説明やタスクへと進みます。生徒の頭の中には、動画を見る前に話したことや、動画の内容が残っているはずです。特に、このようなスマートフォンで撮った写真について話すということは、誰にとっても身近なことです。生徒もベトナムにいながら日本語を使ってくれるのではないでしょうか。

この授業の仕組みが、生徒が身近なテーマや場面において日本語のコミュニケーション活動に積極的に参加できるようになることにつながればいいと思っています。

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