世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)世界をつなぐ、時間をつなぐ日本語教育

カザフスタン日本人材開発センター
瀬川 綾子

突然の大統領の交代(2019年3月半ば、ナザルバエフ初代大統領からトカエフ大統領に交代)から1年が過ぎましたが、生活には特に大きな変化はなく穏やかな日常が続いてきました。しかし、新型コロナウィルスの影響は避けられず、ここ、カザフスタン・アルマティでも2020年3月末より約2か月のロックダウンが行われました。

ロックダウン下で、シュコーラ(小中高一貫のカザフスタンの学校。11年制をとる)や大学も次々とオンライン授業に切り替わりました。当初は多少の混乱はありましたが、慣れるまでにさほど時間はかかりませんでした。これも柔軟な国民性の現れかもしれません。

カザフスタン日本人材開発センター(以下KJC)では2月より2020年春コースがスタートしました。しかし、3月中旬よりKJCが入るナルホーズ大学が新型コロナウィルスの影響で閉鎖。準備期間を経て4月第1週よりオンライン授業に切り替わりました。

以下新型コロナウィルス発生前の活動について、ご紹介いたします。

笈川幸司先生をお招きしてのクラス活動と教師セミナー

2019年4月30日と5月1日、中国でご活躍の笈川先生をお迎えして中級クラスでの活動と、教師向けのセミナーを開催いたしました。笈川先生は「日本語講演マラソン」という活動で世界を回っておられ、今回キルギス、ウズベキスタン、カザフスタンを巡回中に、KJCをご訪問くださいました。日本のテレビ番組で紹介されたり、『世界で尊敬されている100人の日本人』に選ばれたりしているので、ご存じの方も多いかもしれません。中級クラスでは、話すための「型」に沿って印象に残る自己紹介を体験しました。話す内容にジェスチャーを交え表現します。日本語らしいイントネーションは体を動かしながら口だけではなく感覚で覚えていきます。普段恥ずかしがってあまり口を開かない受講生も、全身を使った活動に生き生きとした笑顔で参加している姿が印象的でした。自分自身の今後の授業にも大きなヒントを頂きました。

笈川先生の話を熱心に聞く受講生たちの写真
笈川先生の話を熱心に聞く受講生たち

ビジターセッションでの嬉しい再会

KJCJF講座では、中間テストが終わったタイミングでビジターセッションを行っています。これは、在留邦人の皆様をゲストとしてお迎えし、テーマに沿ったグループでのプレゼンテーションの後、日本人と日ごろの学習の成果を試す楽しいイベントです。2019年秋コースで嬉しい再会がありました。今回お迎えしたゲストの中に、以前カザフスタンにお住まいだった方がいました。一度帰国され再度カザフスタン赴任となり、このビジターセッションが引き続き行われていることを知り、奥様とご参加くださいました。参加してくださったクラスを担当していた先生は、KJC元受講生で、この奥様が以前参加してくださったビジターセッションに、受講生として参加していたのです。6年ほどの時間が経過していたにも関わらず会った瞬間にお互いがすぐにわかり、思い出話がつきませんでした。ビジターセッションは、受講生だけではなくゲストにとっても強い印象に残るイベントであると感じました。この瞬間に立ち会えたことは、専門家としての活動の中でも最も大きな喜びの一つだと思います。

中等教育機関での文化体験

カザフスタンに着任以来、中等教育での日本語の科目化を目標の一つに掲げ活動をして参りました。その成果の一つとして、ナザルバエフ・インテレクチュアル・スクール(以下NIS)で、2018年9月より正規の科目となったことが挙げられます。NISは初代大統領の名を冠する中高一貫の学校で、カザフスタン全土に20校あります。その中でアルマティと首都ヌルスルタンの2校で日本語が正規の科目(選択科目)として授業が行われています。報告者は学期中に数回、文化紹介のためにNISを訪問しています。2019年前期には、巻き寿司を一緒に作りました。調理場がない教室での実施ということで、寿司飯と卵焼きは事前に準備して行きましたが、具材を切る作業はグループに分かれてみんなで行いました。お米をつぶさずふんわりしっかり巻く、という作業は難しかったらしく、お餅になってしまいそうなくらいの圧力を加えながら巻いているグループもありましたが、生徒たちは初めて自分の手で作った日本食を楽しくおいしく試食しました。

その他、書道やかるた、年賀状など様々な日本文化を紹介しています。日本語を選択し学ぶ子供たちは、そのほとんどがマンガやアニメーションで日本に興味を持ったと話してくれます。マンガやアニメーションを入り口として、さらに奥の深い日本文化に触れ、将来日本とカザフスタンのかけ橋になるような日本語人材が育ってくれればと思います。

初めての巻きずし作り の写真
初めての巻きずし作り

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kazakhstan-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際協力機構(JICA)とカザフスタン政府との協定により設立された機関で、日本語コース、ビジネスコース、相互理解の事業を行っている。2011年10月から、日本語コースはJF講座となり、2012年の2月から、アルマティでJF日本語教育スタンダード準拠の日本語教育が始まる。同年9月からは首都のヌルスルタン分室でもJF講座が始まる。日本語専門家は、JF講座をはじめカザフスタンの日本語教育支援を行う。桜祭りや七夕祭りなどのイベントや、大使館、日本商工会と共催で行っている日本文化デーは、年々来場者数も増加し、日本文化の普及に大きな影響を与えている。また、茶道や書道などの文化体験コースも開講している。
所在地 55 Jandosov str. Almaty Rep. of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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