世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)カザフスタンの日本語学習者のために

カザフスタン日本人材開発センター・ヌルスルタン分室
齊藤智子

1 ヌルスルタン分室の主要な業務

カザフスタン日本人材開発センター(以下KJC)は、南部の旧首都アルマティに本部を置き、現首都ヌルスルタンではKAZGUU(カザフ人文法科大学)内にオフィス、教室を借り「ヌルスルタン分室」を運営している。また、ヌルスルタンでは、国際アカデミック図書館にも教室を二つ借り土曜日に授業を実施している。

要な業務である『まるごと 日本のことばと文化』(以下『まるごと』)講座は年二回春、秋コースがあるが、学習レベルが上がるにつれ減っていく学習者を継続させること、社会人の学習者が取り組みやすいように相談しながら進めることなどが今後の課題である。

2 日本語学習者のための教材作成の動き

「ひらがなアソシエーション」

2019年7月にアルマティで行われた日本語教師対象のワークショップにおいて、「ひらがなアソシエーション」のアイディアを出し合い、それを元にKJCアルマティ本部のアクトティ先生(Murzagulov Aktoty)と非常勤講師のディナラ先生(Abeuov Dinara)がイラストを完成させてくれた。ひらがな一つ一つにロシア語をあてはめ、絵を見て文字を覚えやすくする工夫がされている。これは、2020年6月に始まる「オンライン文字コース」に使われる予定である。KJCfacebaook及びInstagramをご覧ください。

「オンライン授業用の教材」

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、カザフスタンにおいても、2020年3月から教育機関が封鎖され、対面の授業ができなくなったため、オンライン授業の準備を進めた。KJCアルマティ本部とヌルスルタン分室の常勤講師が協力し、パワーポイントに『まるごと』のページと音声を貼り付け、解答をアニメーションでつけた教材を作成した。受講生との連絡用にWhatsAppというSNSでクラスごとのグループを作り、授業はzoomを使用した。夏の文字コース、インテンシブコース、秋のコースもこの教材を使い実施する予定である。

今後の課題は、『まるごと』講座のサポートコースとして「漢字コース」「文法コース」のオンライン授業用の教材を作成することである。

3 日本文化を知ってもらうためのイベント参加・協力など

2019年

6月  国際オリンピックデーに、例年、カザフスタン・オリンピック委員会(NOC)と「Astana Fitness Park」(ヌルスルタン市役所のプロジェクト)の共催によるオリンピックムーブメント促進宣伝行事が行われている。ヌルスルタン分室は、日本大使館文化広報班の協力の下、浴衣の試着体験、書道のブースを担当した。浴衣は大人気だった。

7月 ”Hanabi Fest by AniMarket” にブースを出展し、ヌルスルタン分室の受講生11名がボランティアとして、囲碁、書道、折り紙、ミニ日本語講座、アルゴリズム体操をした。会場はコスプレをした若い男女で埋まっていた。

Hanabi Fest by AniMarketにて受講生の着物姿の写真
Hanabi Fest by AniMarketにて受講生の着物姿

9月 市内のモールで、書道のワークショップを開催。厚めのカラーペーパーで枠を作り、半紙の四分の一の大きさの作品を入れ、飾れるように工夫した。

モールでの書道ワークショップの写真
モールでの書道ワークショップ

10月 各国大使の配偶者有志グループである「Ambassadors Spouses Astana(ASA)」が日本の着物のチャリティーオークションをするイベントにおいて、浴衣の着付けと「カザフスタン人の名前を漢字でカードに書く」という二つのブースを設け、協力した。

10月 中等教育機関である「18番学校」の中に設置されている芸術学校から依頼され、折り紙教室を実施した。千羽鶴をカラーペーパーで作った。

2020年

3月 カラガンダ市に所在するナザルバエフ・インテレクチュアル・スクール(以下NIS)、「ボラシャク」カレッジを訪問し、「日本を知るクイズ」、折り紙、千代紙人形作成をした。それぞれ40名の参加者があった。

4 日本語教育に関する活動

2019年

9月 ヌルスルタン市に所在するNISの日本語講座に『まるごと』の貸出を行った。

10月 留学生フェア 広島大学、筑波大学、日本学生支援機構(JASSO)の三機関が説明と質問受付のブースを設け、ヌルスルタン分室のディナラ先生がプレゼンテーションを支援した。150名の参加があった。

12月1日 日本語能力試験(以下JLPT)実施 KAZGUU(カザフ人文法科大学)を会場に65名の受験者が集まり、無事終了した。   

5 教師養成

2019年

7月8日・9日に、アルマティにおいて「第7回『まるごと』セミナー」を開催した。学習者参加型の授業展開の提案をテーマにした。26名の参加があった。

10月 日本語教師4名が参加し、JLPTN2レベルの教材を用い、読解を中心に解き方、説明の仕方を体験しながら実施した。

12月~2020年1月
ヌルスルタン分室の新しく採用した非常勤講師2名を対象に『まるごと』の基本理念、JF日本語教育スタンダード、教材の使い方、授業参観、模擬授業などを行った。

今後の課題

オンライン授業を効果的に実施するための教師の勉強会が必要である。実際にどのような問題があり、どのような工夫をすればいいのかシェアしながら改善していきたい。

また、新型コロナウィルス感染拡大の影響により人が集まるイベントができない状況下、日本文化に触れてもらう機会をどのように作っていけばいいのかKJC全体で取り組んでいきたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kazakhstan-Japan Center for Human Development, Nur-Sultan
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際協力機構(JICA)とカザフスタン政府との協定により設立された機関で、日本語コース、相互理解の事業を行っている。2011年10月から、日本語コースはJF講座となり、2012年の2月から、アルマティ本室でJF日本語教育スタンダード準拠の日本語教育が始まる。同年9月からは首都ヌルスルタンのアスタナ分室(2019年3月20日よりヌルスルタン分室)でもJF講座が始まる。日本語専門家は、JF講座をはじめカザフスタンの日本語教育支援を行う。『まるごと 日本のことばと文化』講座の授業を担当するとともに、日本語教師支援、日本語学習支援、学習者増のためのイベント開催などを主な目的とした活動をしている。
所在地 8, Korgalzhyn ave., Nursultan, Rep. of Kazakhstan
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2020年
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