世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)熱意は消えない。『今だからこそできること』を。

キルギス共和国日本人材開発センター
坂下太一

キルギス共和国日本人材開発センターの日本語講座

キルギス共和国は中央アジアに位置する、人口約650万人の内陸国です。日本語教育は1991年に開始され、公立の教育機関を中心に行われてきましたが、近年では日本への渡航を目的とした日本語学校や日本語コースも開講されるようになりました。

日本語専門家が派遣されているキルギス共和国日本人材開発センター(以下、日本センター)では、15歳以上を対象に日本語コースを開講しています。JF日本語教育スタンダード準拠の「まるごとコース」、「まるごとコース」を修了した方を対象とした「中上級コース」、日本企業への就職を目指した「企業コース」を常設し、その他にも日本語学習者の需要に応じて短期コースやイベントを企画しています。

特に日本センターの中核である「まるごとコース」には日本への留学、就業といった日本への渡航を目指している方だけではなく、日本文化に興味を持ち日本語を学習する学生、日本語学習そのものに魅力を感じて学習を続けている学生など、多様な目的を持つ学習者が日本語を勉強しています。

オンライン授業への移行

2020年3月、キルギスでも新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて非常事態宣言が発令されました。日本センターでは、すぐにオンライン授業のシステム整備に取り組み、5月には授業を再開しました。私が日本国内からリモートで業務を開始した9月には既に講師もオンライン授業の利点を理解し、自信を持って授業を行っていることが見て取れました。その後も学習者の評価方法や成績管理のシステムを整え、2021年2月にはオンラインでの修了式も初めて実施できました。わずかな休講期間で授業が再開できたこともあり、学習者の多くは学習意欲を失わず、現在でも熱意をもって日本語学習に取り組んでくれています。

オンライン授業でコースを修了した学生の写真
オンライン授業でコースを修了した学生

オンラインイベント「日本語プレゼン会」

2020年11月、日本センターの学生を中心として、初めてのオンラインイベント「日本語プレゼン会」が行われました。「日本語プレゼン会」は以前から人気のあった企画で、テーマに応じて学生がパワーポイントとともにプレゼン発表を行う場です。この場で日頃の学習成果を発揮することを望み、多くの積極的なキルギスの日本語学習者が参加しています。

私はこの会をプレゼン発表と日本人ゲストとの交流会の二部制にすることに決め、発表者以外でも学習成果を発揮できるイベントにしました。また、2021年2月にはアゼルバイジャンの日本語学習者と合同で日本語プレゼン会を行い、日本語学習者同士の交流の場も用意しました。オンラインだからこそ実現できたこのイベントには60名を超える申し込みがありました。

オンラインイベント日本語でプレゼン会の様子の写真
オンラインイベント「日本語でプレゼン会」

今後の課題

本来であれば、日本語専門家には日本センターだけではなく、キルギスの日本語教育全体をサポートすることが求められます。現在でも、日本語能力試験実施のサポート、日本語弁論大会の審査業務などの形では貢献していますが、やはり新型コロナウイルスの影響で実際の学校訪問や授業のサポート、首都ビシュケク以外の地域への出張などには制限があります。しかし、日本センターの業務と同様に、今できないことに悩み続けるより、前向きに今だからこそできることを模索し続けていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年国際協力機構(JICA)に移管された国際協力機構日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JF日本語教育スタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU, Building 7, Floor 2 720033 Kyrgyz Republic 109 Turusbekova Street, Bishkek.
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年
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