世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)小学校~高校での日本語教育

ノボシビルスク国立大学
奥村朋恵

全長9,000kmのシベリア鉄道のほぼ真ん中に位置し、日本からの直行便がないノボシビルスクで、年少者に対する学校での日本語教育が最近注目されるようになってきました。そのため今回は、小学校から高校までの初中等日本語教育を中心に日本語専門家(以下、専門家)の業務についてご紹介したいと思います。

もともとノボシビルスクの初中等日本語教育の多くは、英語や歴史などの他教科を教える教員が日本語も教えるという環境で行われてきました。しかし、英語やフランス語などの第一外国語ではない、第二外国語で非正規科目である日本語に割かれる学習時間が十分であるはずがありません。その結果、学習者数も不安定で、ひとつの学校で日本語教育が何十年も継続されることは非常に稀です。このようにロシア人教師の熱意によって存在するとも言えるノボシビルスクの初中等日本語教育ですが、ここ最近、ノボシビルスクの学校現場で日本との直接的な交流機会がぽつりぽつりと生まれています。専門家はその交流機会の多くに日本語教育のアドバイザーとして関わり、複数の機関の日本語教師交流を促進する役割を担い、日露共同事業の際は現地調整役を務めることが求められています。

4番ギムナジウムでの日本語研究授業の様子の画像
4番ギムナジウムでの日本語研究授業の様子

2016年9月には国際文化フォーラム主催の「第2回日露交流プログラム~高校のロシア語教師と学習者のロシア派遣~」事業が行われ、ノボシビルスクの専門家はシベリア・北海道文化センター、ノボシビルスク国立工科大学付属リセーとともに企画段階から現地での事業実施協力を行いました。ロシア語を学ぶ日本人高校生はロシア人の家庭にホームステイしながらノボシビルスク国立工科大学付属リセーの授業に参加し、日本からのロシア語教師はノボシビルスクの日本語教師との交流会に参加しました。

学生たちが作った平仮名・片仮名のロシア語連想カードの画像
学生たちが作った平仮名・片仮名のロシア語連想カード

2017年3月には130番リセーと4番ギムナジウムにおいて初中等日本語教育研究授業を企画・実施しました。この研究授業にはノボシビルスク市とクラスノヤルスク市で日本語を教える日本語教師が参加し、他校の日本語授業をお互いに見学し合う初めての機会となりました。授業を担当していただいたロシア人教師は大学で日本を専門に研究し日本語や英語を何年も教えた経験豊かな先生方ですが、ロシアには国指定の日本語教科書がない上にカリキュラム作成を含む授業運営全てがロシア人教師に任されます。授業見学後の話し合いでは、大人向けや媒介語による日本語教材ではなくロシア人年少者のための日本語教材の必要性や、平仮名・片仮名の文字指導の困難さについても議論されました。この話し合いから後日、ノボシビルスク国立工科大付属リセーの生徒とノボシビルスク国立大学の学生がロシア語と覚える平仮名・片仮名連想カードを作成し、次の後輩のための手作り教材案として提供してくれました。

また、派遣先であるノボシビルスク国立大学では横井幸子氏(大阪大学)に「日本の言語教育における多言語・多文化共生のあり方~現実と今後の展望~」の題で講義を依頼しました。講義内容は日本の初中等教育における外国語教育についても多分に触れられており、日本研究を専攻する学生には日本事情から更に一歩進んで、ロシアの年少者教育における言語教育や外国語教育を人格や人間形成の一環として捉えることについて考えてもらいたいと企画しました。

この3年で日本語授業が第二外国語の正規授業になった学校はノボシビルスク市内で4校に増えたものの、依然として教材不足など大きな課題はあります。ノボシビルスクの初中等日本語教育が今後どのように成長していくのかはまだ分かりません。しかし、ノボシビルスクでの日本語教育だけでなく、日本でロシア語を学ぶ生徒や教師とも連携できるような日露の教師間、生徒間の交流機会を今後も生み出していきたいと考えています。子供の頃から外国語を学べる環境が身近にあることからくる国際理解や言語教育、学校教育についてノボシビルスクの日本語教師と意見交換を行い、ロシア人教師たちの熱意と試行錯誤が詰まった日本語教育現場を巡回しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Novosibirsk State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ノボシビルスク国立大学の日本語講座は、西シベリア地域の日本文化研究・日本語教育において中心的役割を果たしている。多くの卒業生が日本語教師、翻訳・通訳家、東洋学研究者として活躍している。専門家は、人文学部東洋学科での日本語授業の他、イベント運営協力、留学相談、また現地教師への教材や授業についてのコンサルティングなどの業務を行う。
所在地 Pirogova str.1, Novosibirsk, 630090, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部東洋学科(以下、東洋学科)、人文学部歴史と類型学学科(以下、外国語学科)、日本研究センター(以下、日本センター)
日本語講座の概要
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