世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)大学と教室外のイベントから見える学習者の多面性

モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
森林 謙

一般に日本語学習というと、どうしても教室という限られた空間で過ごすことが多く、互いの印象も教室内でのやりとりから見えることのみになりがちです。しかし、教室外でのイベントなどがあると、運営上の活動を通して普段とは違った表情や未知だった部分が互いに見えたりと、固定的になりがちな見方や関係性に発見や驚きがもたらされることがあります。

そして、学習者一人ひとりの多面性、クラス内の多様性についてあらためて気付かされ、より豊かな関係性や教室の在り方につながったりすることがあります。

今回は、そのような機会となり得る、日本文化祭と修了式についてご紹介いたします。

1.モスクワ国立大学における日本文化祭

まず、学生の一日についてですが、多くの学生が1時限の午前9時から夕方までを大学で過ごし、帰宅後、少し休んでから課題に取り組み、午前0時や午前1時に就寝というパターンのようです。サークルや部活動、アルバイトなどもなく、土曜日も通学し、教室内でも淡々と勉学に励んでいる、という印象です。

しかし、そのような学生たちへの印象をガラッと変える機会が4月下旬の金曜日夜に行われる日本文化祭です。普段の教室内での様子からもまったく想像できない光景が繰り広げられます。

モスクワ国立大学の日本文化際の写真
モスクワ国立大学の日本文化祭

2018年4月に行われたのは、光源氏が現代にタイムスリップし、結果として自身の生活を悔い改めるようになるといった内容の劇で、「僧侶」「元外人」「大黒天」というキャラクターが絡みながら話が進みます。セリフはすべて日本語ですが、他専攻の学生や教員も理解できるようにロシア語が映し出されるようになっています。

話の展開、見せ方、歌、ダンス、衣装、メイクなどなど普段の教室内での様子からもまったく想像できない光景が繰り広げられ、学生に対するこちらのイメージを更新してくれます。光源氏がタイムスリップ後、平安時代以降の歴史上の出来事をコミカルに端的にリズムよく見せたり、現代日本の時事的なネタも盛り込まれたりと、モスクワ大学の学生らしい工夫も感じられます。

相当な準備が必要であることは明らかなのですが、帰宅後も課題に追われる日々の中、いつどのように日本学科の上級生と下級生が役割を分担しながら密かに準備をしてきたのか、不思議でならないのですが、単なる勉強漬けの毎日ではなさそうだという点でほっとさせられます。

今後も自由な発想で弾けた姿をどのように見せてくれるのか、楽しみです。

2.モスクワのJF日本語講座における修了式

モスクワのJF日本語講座では、年に2回、春と秋のコースが開講され、修了式も毎年2回ずつ行われています。昨年6月の2017年春学期修了式までは、外国文献図書館のホールで行ってきましたが、2017年秋学期修了式(2018年1月)からはJF日本語講座用の教室を提供していただいている、モスクワ市立教育大学の大ホールで行っています。国際交流基金は、世界各地の拠点等で日本語講座を展開していますが、モスクワのように修了式を実施しているところもあればそうでないところもあるようです。

受講生は、日本や日本語に興味を持つモスクワ在住の方々ですが、大学生、社会人、ロシア以外の国籍など年齢も背景もみなさん多様です。このような多様性は、一般対象の講座の特徴でもあり魅力の一つでもありますが、それをあらためて実感させられるのが修了式です。

JF日本語講座の修了式の写真
JF日本語講座の修了式

修了式では、皆勤賞の発表や修了証書の授与、訪日研修参加報告などの後、各クラスの有志によるパフォーマンスが行われるのですが、これが普段の教室では想像もできないような個性と才能を垣間見る貴重な機会になります。

修了式の時期が近づくと、受講生たちから担当者宛に、修了式の日程の確認やパフォーマンスを希望する問い合わせが増え始めます。

どのようなパフォーマンスがあるかというと・・・

  • コンテンポラリーダンス
  • バイオリンやピアノなどによるクラシック演奏
  • ファッションショー
  • コスプレ
  • J-POP、歌、ギター演奏
  • 日本舞踊

また、2017秋学期修了式(2018年1月実施)では、司会業をしている受講生が担当し、プロの話し方や進行ぶりを見せてくれました。

修了式には、受講生の家族や友人、ビジターセッションで知り合った日本人も参加するなど、日本語学習を通じての交流やネットワークづくりにも役立っているようです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学
Institute of Asian and African Studies, Moscow State University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
本学は、ロシアを代表するモスクワ国立大学内のアジア・アフリカ地域を対象とした研究・教育機関であり、言語教育の共通シラバス策定も担っている。日本・日本語研究では、文学、日本語教科書の執筆、通訳等、第一線で活躍している教授陣によって教育・指導が行われている。
専門家は本学での日本語クラスの担当とともに、モスクワ日本文化センターの日本語講座の管理運営に携わり、在ロシア日本国大使館の文化イベントにおける日本語ワークショップ等、関連行事への協力も行う。
所在地 Mokhovaya St., 11, Moscow, 125009 Russia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
モスクワ国立大学アジア・アフリカ諸国大学日本語学科
学生は日本語学科に所属するとともに、言語・文学、経済、政治、歴史、それぞれの専攻学科に所属する。
日本語講座の概要

沿革

コース種別

現地教授スタッフ

学生の履修状況

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