世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教師会の活性化に向けて

極東連邦大学
下郡健志

私は「日本から一番近いヨーロッパ」として近年多くの日本人観光客が訪れるウラジオストクにある極東連邦大学に派遣されています。ここは毎年秋に行われる「東方経済フォーラム」の会場としても使われますので、ニュースでご覧になった方も多いのではないでしょうか。国際交流基金は2018年11月から10年ぶりに日本語専門家を派遣しており、大学での授業のほか、ロシアの東半分地域における日本語教育支援を行っています。

日本語専門家の重要な役割の一つに教師間ネットワークの構築があります。研究でも教育でも1人で頑張るだけでは、自分が受けた教育を超えて多様な研究や教育を行うのはとても難しいことです。ですが様々な研究者や教師が集まって情報共有すれば、より多くのアイディアが生まれるかもしれません。特に経験の浅い若い研究者や教師の方々にとっては大切なものでしょう。日々の業務がある中で、それとは別にこうしたネットワークを運営したり参加したりするのはとても面倒なことですが、私たちはできるだけ多くの教師が参加できるよう運営をサポートしたいと考えています。

ロシアには「ロシアCIS日本語教師会」というモスクワを中心とした大きな組織がありますが、極東はモスクワとは距離も遠く時差もあります。ウラジオストクやハバロフスクにも地域の日本語教師会が存在していたのですが、残念ながら現在は活動が停止しています。

ウラジオストクでは日露青年交流センターに日本から派遣されている日本語教師が中心となって、2017年に「ウラジオストク日本語教師サークル」が作られました。その教師は2019年6月をもって離任となりましたが、その後は私が運営を受け継ぎ、2019年11月に引継ぎ後、第一回の会合を開きました。極東連邦大学の先生方を始め、シュコーラ(日本の小中高に相当する学校)で日本語を教える教師が多く参加してくださいました。そして参加者の全会一致で「ウラジオストク日本語教師会」へと名称が変更されました。会長に就任していただいたプストボイト極東連邦大学東洋大学地域国際研究スクール学長(学部長に相当)からは、ウラジオストクのみならず、そこから数時間の距離に位置するウスリースクやナホトカの日本語教師を含んだ「沿海州日本語教師会」へ発展する可能性を提案していただきました。

ウラジオストク日本語教師会の集い(2019年11月23日)の写真
ウラジオストク日本語教師会の集い(2019年11月23日)

ハバロフスク

ハバロフスクでも2000年代の初頭にロシア人教師が中心となって教師会が作られました。同教師会は現地日本人教師会と統合して2010年代初頭までは活動していたようですが、残念ながら最近は教師が「バラバラの状態」(太平洋国立大学東洋言語歴史学部学部長シャラモワ先生談)だったようです。そこでウラジオストク日本語教師会についてのフェイスブックの記事をご覧になったハバロフスクのロシア人教師のご提案で、2020年2月に小さな日本語教師セミナーを開催しました。セミナーには大学、シュコーラ、日本センター、そして民間語学学校で活躍する多くの先生方や、将来教師を志望する学生が参加してくださいました。また、シャラモワ先生のご提案により、ハバロフスクでも正式に「ハバロフスク日本語教師会」の立ち上げが宣言されました。こちらでは公的な教師会にするために必要な準備が進められています。

ハバロフスク教師セミナー(2020年2月29日)の写真
ハバロフスク教師セミナー(2020年2月29日)

コロナ禍の状況と今後の展望

教師セミナーでも学習者向けイベントでも、一回だけ開催するのは難しいことではありませんし、それに多くの人に参加してもらえます。ですが、大切なのはそのイベントを継続して開催し、多くの方の信頼を得て、そして多くの教師が参加するだけでなく自身の取り組みを発表できるような場にすることです。ですので、二回目、三回目は一回目より魅力的なイベントにしていかなければなりません。ところが3月半ばを過ぎると新型コロナウィルスの状況が悪化し、3月末から授業は全てオンラインになり、弁論大会などのほとんど全てのイベントが中止もしくは延期となりました。私も含めて先生方は初めての経験の中で戸惑いも多く、教師会のイベントどころではありませんでした。

この状況は現在(2020年7月)も変わりません。ロシア人が毎年心から楽しみにしている夏休みの旅行も今年は諦めなければならないでしょう。秋の東方経済フォーラムはすでに中止が決定されました。ですが良いこともあります。多くの教師がオンラインの技術を学びました。そもそもロシアは広い国ですので、以前からオンラインの重要性が指摘されてきました。またこれまでも対面式のセミナーに遠くからオンラインで参加できることがありました。ですが必ずしも主催者側も参加者側もうまくできていたとは言えないかもしれません。仮に9月以降、対面形式が可能となってもオンラインで参加する先生方が増えるのではないかと期待しています。

教師会はまだ始まったばかりですが、これからもっともっと活気のあるネットワークになるように、ロシア人の先生方と協力して頑張りたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Far Eastern Federal University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
極東連邦大学は、1899年に設立の東洋学院の流れをくむ極東国立大学を母体としていくつかの大学を統合して2011年に設立された連邦大学である。現在は9のスクール(学部)、函館を含む8つの分校を持つ。キャンパスは2012年に開催されたAPEC会場に移転し、その後も毎年行われる東方経済フォーラムの会場としても使用され、「環太平洋国家ロシア」の象徴である。国際交流基金は2002年から2009年まで専門家を派遣していたが、2018年、ほぼ10年ぶりに専門家派遣を再開した。専門家は派遣先機関での日本語教育のほか、カムチャツカからイルクーツクまでの極東・東シベリア・極東地方全体の日本語教育の支援活動を行う。
所在地 10 Ajax Bay, Russky Island, Vladivostok, Russia
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学インスティテュート地域国際研究スクール日本学専攻
日本語講座の概要
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