世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)自立化・現地化の促進 / ウクライナにおける日本年

タラス・シェフチェンコ記念キエフ国立大学
森田淳子

ウクライナにおける国際交流基金派遣教師の活動概要

現在、ウクライナへの国際交流基金(以下、基金)派遣教師は、日本語専門家(以下、専門家)2名と日本語指導助手(以下、指導助手)1名の合計3名です。私が所属するキエフ国立大学は専門家派遣が終了するので、その後は2名になります。当地の専門家・指導助手は派遣先機関での業務のほか、ウクライナ全体の学習者や教師を対象とした日本語教育関連事業に関するコーディネートやアドバイスなど全国的な支援が求められています。

「ウクライナ日本語弁論大会」初の地方開催、「ウクライナさくら日本語教師研修」開催

日本語教育関連事業について、昨年度は2つの大きな試みがありました。

まず、日本語学習者にとって大きなイベントである「ウクライナ日本語弁論大会」は、第21回目にして初めて首都キエフ以外で行われました。ウクライナ西部のリヴィウ国立大学が主催し、大きな挑戦でしたが、同大学の先生方や後援・協力団体の関係者の尽力により成功裏に終わりました。次回第22回大会は再びキエフで開催されますが、第23回大会に関心を示してくれている地方都市もあります。広大な国土のウクライナ各地で日本語を学んでくれている学習者、支えてくれる先生方がいます。将来的に、首都キエフと各地方都市で隔年開催できるよう発展してほしいと考えています。

「第21回ウクライナ日本語弁論大会」出場学生の画像
「第21回ウクライナ日本語弁論大会」出場学生

また、教師を対象とした新しい事業「ウクライナさくら日本語研修」がウクライナ日本語教師会主催で行われました。これまで、日本から講師を招聘し全国の教師会員が集う大規模な「ウクライナ日本語教育セミナー」を開催しており、第16回を迎えた昨年度は48人という多くの会員教師が参加しました。新しい教育方法を学び、情報収集や教師間ネットワークを構築する場として重要な事業です。一方で、会員教師たちは専門分野も教授経験も異なるため、全員同時に学ぶセミナーと並行して、それぞれが学びを深めたいと思う分野を選択受講できる研修の必要性を感じ新たに実施したのが「ウクライナさくら日本語研修」です。「国際交流基金教授法シリーズ」から事前アンケートで希望が多かった「話すことを教える」と「教え方を改善する」の2テーマを取り上げ、前年度の基金の「公募研修プログラム」参加教師が研修講師を務めました。日本での研修参加希望者は多いですが参加できる教師は限られているため貴重な学びを共有する場としても有意義で、研修参加教師も積極的に貢献してくれました。「公募研修プログラム」も今年度から「テーマ別研修」が開催されるので、ウクライナの教師たちが今後の応募を検討する際にも役立つのではないかと思います。研修の事後アンケートには「改善には限界がありません」という言葉も寄せられ、主催者側も教師たちの意欲を感じるいい機会となりました。次回の開催が実現されるよう期待しています。

「ウクライナさくら日本語教師研修」参加教師の画像
「ウクライナさくら日本語教師研修」参加教師

今後の展望

先述のとおり、キエフ国立大学への専門家派遣は終了します。これまでの専門家も日本語教育関連事業について、できるだけウクライナの先生方で運営できるよう支援してきましたが、より一層の自立化・現地化が求められています。一方、これまで専門家が派遣されていないキエフ以外の地方都市で、定期的な訪問・滞在を求める教育機関が存在します。また、ウクライナの日本語学習者・教師はこれまで高等教育機関が中心でしたが、初等・中等教育機関の関心や熱意も高まっています。成熟した機関・地域には自立化を促し、その他の機関・地域の支援に注力しながら全国的な日本語教育関連事業を後方支援する方向に、基金の専門家・指導助手が果たす役割も変化の時期を迎えたと考えています。

高まる日本への関心と両国関係への期待

ウクライナの日本語学習者・教師は非常に熱心ですが、残念ながら日本語能力を生かす仕事が多くないという現実もあります。両国間の人的交流や経済活動など多方面での関係が深まれば、日本語学習者の活躍の場も増えるのではないかと思います。

2017年、ウクライナと日本は外交関係樹立25周年を迎えました。さまざまな文化事業や交流事業を開催する「ウクライナにおける日本年」が実施され、これまで以上に日本への関心が高まっているのを感じます。私も、日本語を学習しているウクライナの方々に日本語とウクライナ語で日本について情報発信してもらう日本語学習者による『ウクライナにおける日本年(facebook)』を開設しました(日本年終了後「みんなのはた」として継続)。当サイト「世界の日本語教育の現場から」をご覧になっているのは日本語教育あるいはウクライナに関心をお持ちの方だと思いますので、みなさんにもぜひウクライナの日本語学習者のメッセージをご覧いただければ嬉しいです。ウクライナの方々に日本への関心を高めていただき、日本の方々にもウクライナへの関心を深めてもらい、将来「日本におけるウクライナ年」が実施されるよう願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Taras Shevchenko National University of Kyiv
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ウクライナの最高学府。日本語教育では、キエフ国立言語大学と共に代表的な日本語教育機関の1つ。在ウクライナ日本国大使館、日本語教師、通訳、日本企業の社員等、ウクライナ国内で日本語を使う職業に携わる者を多く生み出している。専門家は各学年の日本語授業の他、現地教師と共に学科の運営、シンポジウム開催等の助言を行う。また、ウクライナ日本語教師会が行う事業のアドバーザーやコーディネーターをはじめとした国内の日本語教育支援、キエフ国立言語大学派遣日本語指導助手への指導も業務である。
所在地 14 Bulvar Taras Shevchenko, 01601, Kyiv, Ukraine
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語学院 極東・東南アジア言語文学学科
日本語講座の概要
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