文法を楽しく

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このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

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表現意図 -意志-

 あなたが何人かの友達に「連休にどこかへ行くか」と尋ねたとします。友達からはいろいろな答えが返ってくるでしょう。(1) a~eは、「沖縄へ行く」ことを考えている人達の答えの例です。

  1. (1)
    A:
    今度の連休はどちらかお出かけですか。※1
    B:
    ええ、
    1. a.沖縄へ行きます。
    2. b.沖縄へ行こうと思っています。
    3. c.沖縄へ行きたいと思っています。
    4. d.沖縄へ行く予定です。
    5. e.沖縄へ行くつもりです。

「今度の連休はどちらへお出かけですか」という質問に答える人たちのイラスト

 a~eには、「~ます」「~(よ)うと思っている」「~たいと思っている」「~予定だ」「~つもりだ」などの文の形が用いられています。
 あなたからの質問に対して、なぜ、このように、いろいろ異なる答えが出てくるのでしょうか。話し手はあなたの質問をどうとらえ、それぞれ、どんな気持ちでそう答えているのでしょうか。
 このような、話し手がどうとらえ、どう表そうかとする思いや考えを、表現意図と呼びます。 (1)のa~eは、何らかの形で、話し手の「意志」※2という表現意図を表していると考えられます。
 「文法を楽しく!!」では、今回からしばらく、話し手の表現意図について考えたいと思います。表現意図には「意志」以外に、「願望」「義務」「可能性」「推量」「勧誘」「助言」「許可」「時」「条件」「原因・理由」「目的」「逆接」「例示」「限定」「付加」などがあります。

1.表現意図を左右する要因について

 私達はいろいろなことを考慮して、自分の意見や考えを表現しようとするのですが、次のような事柄が表現意図を左右すると考えられます。※3

  • ⅰ.個人的な気持ちや判断として示すか、客観的な事柄として示すか。
  • ⅱ.実現する可能性が高いかどうか。
  • ⅲ.はっきり伝えるか、曖昧に伝えるか。
  • ⅳ.話しことば的か、書きことば的か。
  • ⅴ.丁寧の度合いはどうか。
  • ⅵ.プラス評価が入るか、マイナス評価が入るか。

 ⅰは主観的にとらえるか客観的にとらえるかと言い換えることもできます。例えば、「沖縄へ行きたいと思う」と「沖縄へ行く予定だ」を比べてください。前者は、「行きたい」という話し手の気持ちが中心(主観的)ですが、一方、後者は、客観的な事柄である「予定」という言葉を用いて、自分の気持ちとは離れた(客観的)言い方で表現しています。
 ⅱはその表現を使うことによって、行為がどの程度実現するかという問題です。例えば、「座れ」のように命令形を使う場合と、最近よく使われている「座ってもらってもいいですか」のような表現では、「座れ」のほうが座るという行為をよりはっきり要求していると言えるので、実現する可能性は高くなります。
 ⅲは、たとえば「行けません」と「行けないかもしれません」では、前者のほうが明確に、そして、後者の方が曖昧に伝えていると考えられます。
 ⅳは、「行きますか」と聞かれて、「行かなきゃ」と会話的に答える場合と、「行かざるを得ない」のように書きことば的に答える場合などが考えられます。
 ⅴは、丁寧体の「行きます」と普通体の「行く」を比べた場合、前者の方がより丁寧だと言えます。この丁寧の度合いというものは、ⅲとも関係します。曖昧に表現することで丁寧さを表す場合もあるからです。「かもしれない」を付け加えたことで曖昧になると説明しましたが、それによってより丁寧に表現したとも考えることができます。
 ⅵは、例えば「行きたい」と「行かざるを得ない」を比べた時、前者は行くことを自分の願望としてプラスにとらえていると考えられますが、一方、後者は、話し手が行くことを消極的にとらえ、「行くよりほかない、仕方がない」という気持ちを含ませていると考えることができます。

 これらの、表現意図を左右すると思われるⅰ~ⅵは、一つの発話に対して、単独に現れる場合と、複数に重なって現れる場合があります。

2.表現意図「意志」について

 今回は、表現意図の第1回目として「意志」を取り上げます。
 私達が普段「意志」を表す場面は数多くありますが、ここでは会話(1)と2.2で挙げる会話(2)(3)について考えます。また、互いの文を比べやすくするために丁寧体で考えます。(普通体については各回の終わりに参考として挙げます。)また、「意志」を表す表現の形(表現文型)は、よく使用される5つ程度を挙げます。

2.1 会話(1)について

 会話(1)は連休にどこかへ行くかと尋ねられて、何人かの人がa~eのように答えた例です。または、一人の人でも時と場合によってa~eのどれかを答える可能性があると考えてもいいでしょう。
 aは「行きます」と言い切りの形をとることによって、はっきり(ⅲ)、「行くこと」を実現させる(ⅱ)表現をしています。丁寧の度合い(ⅴ)から言えば、マス形をとっているので丁寧ですが、言い切りが強過ぎると丁寧度が落ちる場合もあります。bの「行こうと思っています」、cの「行きたいと思っています」は話し手の「行こう」「行きたい」という気持ちが含まれていて、b、cとも個人的な気持ちの表現(ⅰ)になっています。ただし、cは願望を表す表現なので、行為につながっていくかという点では「行こう」より劣ります。「行きたいと思っています」の代わりに「行きたいです」も使用可能ですが、個人的な気持ちがより強く出ている表現です。「と思っている」を付け加えることで、より客観的に相手に自分の気持ちを伝えていると考えられます。また、b、cは「行こう」「行きたい」という率直な思いを伝えているので、プラス評価が含まれていると思われます(ⅵ)。
 dの「行く予定だ」は前に述べたように、客観的にとらえた言い方(ⅰ)で、予定としてすでに決まっているため、「行くこと」の実現性も高い(ⅱ)と思われます。eもはっきり伝えているようですが、「つもりだ」という表現が個人的で、どこまで実現性があるかわかりにくいため、曖昧な部分がある(ⅲ)と思われます。

2.2 会話(2)(3)について

 次に少し角度を変えて、「誘い」に対する話し手の「意志」表現を見てみましょう。
 AさんはBさんを「行かないか」と誘っています。それに対するBさんの答えがa~eです。a~eにはBさんの意志が表れているはずです。

  1. (2)
    A:
    いっしょに行きませんか。
    B:
    ええ、
    1. a.行きます。
    2. b.行きたいです。
    3. c.行ってもいいですよ。
    4. d.行けますよ。
    5. e.行きましょう。

「いっしょに行きませんか。」と誘われてそれに答える人のイラスト

 aは、言い切りの形「~ます」で、話し手の「意志」をはっきり表現しています。bは「~たいです」という形で「願望」を直接的に表しており、Bの気持ちがよく表れています。a、bとも、行くことを前向き、プラスにとらえています。cは、「意志」というより、行くことを容認する(受け入れる)言い方をしています。「~てもいい」は「その行為が容認されるものであることを表す表現」※4で、聞き手や相手に対して用いられた時に「許可」の意味合いが強くなり、自分自身に対して用いると「許可」の意味合いは薄くなります。

(許可)学生:
先生、質問してもいいですか。
先生:
ああ、質問してもいいですよ。どうぞ。
(容認)学生A:
あの先生の説明、分かりにくいね。
学生B:
そうだね。誰か質問してくれないかな。
学生C:
ああ、ぼくが質問してもいいですよ。

 dの「行けます」は可能形を用いています。自分が可能な状態にあることを伝えて、自分の「行く」「行きたい」という「意志」を示しています。直接的な「意志」表現と比べ少し曖昧な言い方になります。日本語ではこのように可能表現を通して「意志」を伝えることがよく見られます。
 eは「~ましょう」を用いて自分のほうからも行くことを表明しています。同意しながら自分から申し出ているのでプラスにとらえていると考えられます。
 会話(2)は誘いに対して自分の「意志」を表している例ですが、次の会話(3)のように、誘われた当初はあまり行く気はなかったが、あとで行く気になった場合も状況として存在します。そうした場合の「意志」表現について考えてみましょう。

  1. (3)
    A:
    いっしょに行きませんか。
    B:
    いやあ、ちょっと・・・。
    ああ、やっぱり
    1. a.行きます。
    2. b.行きましょう。
    3. c.行くことにします。
    4. d.行ってみます。
    5. e.行こうかな。

 aはもう一度考えたあと、行くことをプラスにとらえ直して、明確に「意志」を表明する形になっています。bも最初は消極的だったのを、もう一度考えたあと、前向きにとらえて、同意しながら自分から申し出ているという形をとっています。
 c「~ことにする」は、主体的にものごとを決定・決心することを表します。ここでは、Bがしばらく考えて、その後、自分で主体的にものごとを決定・決心したと考えられます。
 dはちょっと迷ったという気持ちが入っています。そのため、行ったほうがいいかどうかは分からないけれど、ともかく一度ためしに「行ってみる」ということになります。eはどうしようか迷いながら、しかし、行為の実現のほうに傾きかけている表現です。「かな」を用いることで、相手と自分に問いかけていると言ってよいでしょう。

会話(1)~(3)の普通体

  1. (1)
    A:
    今度の連休はどっかへ出かける?
    B:
    :うん、
    1. a.沖縄へ行く。
    2. b.沖縄へ行こうと思って(い)る。
    3. c.沖縄へ行きたいと思って(い)る。
    4. d.沖縄へ行く予定(だよ)。
    5. e.沖縄へ行くつもり(だよ)。
  2. (2)
    A:
    いっしょに行かない?
    B:
    うん、
    1. a.行く。
    2. b.行きたい。
    3. c.行ってもいいよ。
    4. d.行けるよ。
    5. e.行こう。
  3. (3)
    A:
    いっしょに行かない?
    B:
    うーん、ちょっと・・・。
    ああ、やっぱり 
    1. a.行く。
    2. b.行こう。
    3. c.行くことにする。
    4. d.行ってみる。
    5. e.行こうかな。
※1:
市川保子(2005)『初級日本語文法と教え方のポイント』スリーエーネットワークp77
※2:
「いし」には「意志」と「意思」があるが、ここでは「文法で、話し手のあることを実現させようとする意向を表す言い方」(大辞林)の使い方として「意志」を用いる。
※3:
表現意図を左右する要因は他にも考えられるかもしれないが、ここではⅰ~ⅵを掲げておく。
※4:
庵功雄(2000)『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワークp159

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

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