トロント日本文化センター 清水 優子の写真

“海外の最前線で事務所を運営するという大きなチャレンジ”

キャリアパス
日本語国際センター制作事業課(3年)→総務部総務課(2年)→ケルン日本文化会館(7年)→トリエンナーレ準備室(横浜トリエンナーレ2008事務局)(2年)→理事長補佐(総務部総務課、1年)→文化事業部企画調整チーム(4か月)→育児休業(2.5年)→日米センター(4年)→トロント日本文化センター(2017年4月から)

Q1.国際交流基金への就職を志した理由は?

学生時代は、幼少の頃から海外生活が長かった自分にとって、日本を知り、発見する旅のようなものでした。各地を巡り歩き、伝統文化に触れることで、日本の文化を海外に紹介することに興味を持ちました。また、日本での生活で、異質なものを受け入れようとしない傾向を感じていたこともあって大学では国際理解教育を専攻したのですが、教育現場のみならず、広く文化を通じて相互理解を図れるような仕事がしたいと思うようになりました。それが実現できる場として、国際交流基金を志望しました。

レセプションで挨拶している様子の写真
在カルガリー日本国総領事館が、カナダ日本語教育振興会(CAJLE)年次総会のために開催したレセプションで挨拶(2017年8月)

Q2.現在はどんな仕事をしていますか?

JOIプログラムの募集説明会の写真
JOIプログラムの募集説明会で応募要項についての説明(2015年11月)

二度目の海外勤務になりますが、今回は所長というポジションで事務所の全責任を負う立場になり、公に出る場が増えたことが、前回ドイツで最若手の派遣職員として勤務したときと大きく違う点です。個々の事業の企画と実施よりは、管理面を含めて、総合的な事務所運営が主な仕事となります。トロント日本文化センターでは、ギャラリーとイベントホールで定期的に展覧会や映画上映、講演会等を行っているほか、日本語講座と図書館の運営などを行っています。プロジェクト会議で各事業分野の担当者と計画を共有し、各分野の有機的なつながりをもってより効果的な事業を行えるよう調整を行います。その結果、多くの来場者を得てよい反応が得られたときはやりがいを感じますが、一方で、例えば展覧会の内容についての思いがけないクレームがきてその対応に追われることもあります。責任者として、いかにリスクを回避しながら、ときには大胆で思い切った決断ができるかを問われている気がしています。

また平日夜や週末には、センター事業にて、あるいは文化施設や美術館等で行われる催しに招待いただいた席で、オープニングや乾杯の挨拶をする機会もよくあります。これまでは人前で話す経験があまりなかったのですが、赴任前に受けさせてもらった英語でのプレゼンスキルの研修を思い出しながら、場数を踏むことで少し慣れてきたところです。

Q3.トロント日本文化センターで働く面白さ・むずかしさとは?

着任間もない頃、基金が助成しているバンクーバーの展覧会に出席する機会があり、東のトロントから西のバンクーバーまで飛行機で5時間掛かる移動で、世界第2位を誇るカナダの広さを実感しました。カナダ国内だけでも最大4時間半の時差があります。カナダ唯一の拠点としてトロントでできることは限りがありますので、トロントを含む5か所にある在外公館や各地の文化施設や大学、教育機関などとの連携が不可欠となります。分野に限らず、遠隔地とのネットワークを作りながら情報を集め、海外事務所としての方向性を考えて打ち出していくことが面白さであると同時に、最大のチャレンジだと感じています。例えばカナダ各地に点在する2万人の日本語学習者や日本語教師、大学等の教育機関を基金がいかにサポートできるかを考え、方針を立てることは重要かつ難しい問題です。現状をよく把握し専門家の意見を聞きつつ、本部の方針に照らしながら慎重に進めていきたいと思っています。

七夕イベントの様子の写真
トロント日本文化センター図書館 七夕イベントの様子(2017年7月)

Q4.これまでのキャリアで、忘れられない仕事は?

20年余りの基金勤務を振り返ると、強く印象に残っているのは文化芸術分野の催し物が多いです。ケルン日本文化会館在勤中に映画監督や作家を招いて行ったドイツ巡回講演や、文化会館で実施した日本とドイツのアーティストによる対話展や公講演会といったものから、現代アートの国際展といった大型事業に至るまで、大小様々な催しに関わる機会がありました。なかでも2008年まで基金が主催機関の1つとして事務局を担っていた「横浜トリエンナーレ」は、キュレータとアーティスト、自治体や美術館、広報事務所など大勢の多様な関係者の方々と一緒に作り上げたものでした。各国の在京大使館や文化施設の協力を得て実施したナショナル・デーなどの関連イベントを含めて、スタッフや関係者と極めて密度の濃い時間を共有できた充実感は今も心に残っています。

もう一つは、日米センターで担当していたJOIプログラムという、米国の中西部および南部に日本人コーディネーターを2年間派遣して、学校や図書館等地域コミュニティーでアウトリーチ活動をするプログラムです。自分が選考や研修に携わったコーディネーターたちの活動を通じて、日本に触れたことのない米国人を含めて、多くの子供たちからお年寄りまで日本文化を広めることができたこと、また魅力的で個性のあるコーディネーターの皆さんとの関わりが貴重な思い出です。

Q5.今後のビジョンは?

カナダ、特にトロントは多くの民族がモザイクのようにひしめく多文化共生社会です。ここで文化交流活動を行う上では、日本の存在をアピールしつつ他のナショナリティの団体や人々と共に事業を行っていくことが大切だと考えています。「日加修好90周年」にあたる今年と来年は特に、多くの人の心に残る事業を当地の関係機関と一緒に実施し、文化事業を通じて盛り上げて行くことで、その後の両国の関係の継続的な発展につなげることができればと願っています。

自身の今後のキャリアとしては、今いただいている、海外の最前線で事務所を運営するという大きなチャレンジの機会と経験を活かして、カナダのあとにもう一度か二度、別の国と地域で働きたいと考えています。プライベートな話になりますが、私は今小学生の息子と夫を伴ってカナダに来ています。このようなケースは珍しくなくなってきましたが、まださまざまな縛りや制約から躊躇する女性や家族も多いと聞きます。今の自分のような働き方が増えることで、海外を含めた長期キャリアの選択肢を視野に入れる女性が増え、周りの理解や環境が整いやすくなれば、と願っています。

就活生の皆さんへ 一言メッセージ

私は国際交流の仕事を目指すことを決めてから、基金を含む一部の非営利団体しか受験しませんでしたが、今振り返ると、就活の時期に別の業種や企業・団体を含めて情報収集しておけば、結果的にどんな仕事に就くことになっても、もっと視野が広がったのではないかと思います。また、この分野で働くうえで大事なのは、幅広い好奇心と、多くの文化事業を見て体験することだと感じています。基金の場合、語学の研修は就職してからでも受けられますので、私はむしろ、感受性の豊かな若いときに「本物」に触れる体験や、それらについて語れるための引き出しを多く作っておくことをお勧めしたいです。