- キャリアパス
- 平成2年採用、文学部卒
大学卒業後、旅行会社勤務を経て国際交流基金へ就職。人物交流、映像交流、日本語教育、日本研究・知的交流、企業のCSR活動との連携推進など様々な事業を経験。平成11年から平成15年はシドニー日本文化センターにて、子どもの大学入学後、平成24年から現在まではバンコク日本文化センター
にて勤務。
大学を卒業して一旦、旅行会社に就職しましたが、その後、中途採用試験を受けて国際交流基金へ入りました。当時のアセアン文化センターでこれまで見たことのなかったアジアの現代映画を見たことで国際交流基金の存在を知り、ここでの仕事に憧れたのがきっかけです。
人物交流、映像交流、日本語教育、日本研究・知的交流、企業のCSR活動との連携推進(*1)など、様々な分野を担当してきました。また、平成11年から平成15年にかけてはオーストラリアのシドニー日本文化センターで、平成24年から現在まではタイのバンコク日本文化センター
で勤務しています。
国際交流基金に入る前は留学や長期海外滞在の経験はなく、オーストラリアもタイも、もともと縁があったわけではありませんが、オーストラリアは子連れで赴任してもサバイバルできそうと考えたこと、タイは東南アジアでも屈指の親日国ということから、赴任を希望したところ幸運にも希望が通りました。日本を含む3か国での生活・仕事を通じて、それぞれの国と適度な距離感を保ちながら、より客観的に見ることができるようになったと思います。
また、十数年前のオーストラリアでも既に日本のポップカルチャーや日本食が人気でしたが、現在のタイはそれをはるかに上回る勢いで日本のプレセンスが大きく、日本人とタイ人の心理的な距離の近さを実感します。バンコクで仕事をしていると、日・タイの交流に身を捧げて40数年という方にも度々出会います。日・タイの交流の歴史は約600年前に遡ると言われていますが、長い歴史に裏付けされた信頼関係と絆の深さを日々の仕事を通じて肌で感じています。そして、自分もその末端につながることができ、とても光栄に思っています。
バンコク日本文化センターでは、日本研究・知的交流事業、そして芸術文化事業を担当しています。今年度上半期は、「防災教育普及事業 レッドベアサバイバルキャンプ in Thailand」(*2)、「アジア学生パッケージデザイン交流事業」(*3)、「小熊英二氏(慶応大学教授)日本研究・知的交流巡回セミナー」などを企画・実施しました。年度の後半はいつも、来年度事業の策定や各種報告書の作成、事業評価などの事務仕事に追われます。
私は平成20年から平成22年にかけて、事業開発戦略室という部署で企業との連携を模索してきました。同室ではまず、海外11か国における日系企業の社会貢献活動に関する調査を行い実情把握に努めていました。途中で私が加わってからは具体的な企業との連携事業として、国際ふろしきデザインコンテストなどを通じた国際交流基金グッズの開発と販売、その後日韓学生パッケージデザイン交流プロジェクトの立ち上げなどに関わりました。
日韓学生パッケージデザイン交流プロジェクトは、元々株式会社ロッテが共同運営資金を出していただけるということで始まった企業との初の大型コラボ事業でした。第3回目を迎える平成26年からは日本・韓国の2か国に新たにインドネシア、タイの2か国が加わり、成長著しい東南アジアにも拡がっています。
私は現在タイでのコンペに関わっていますが、今年はまずタイでのコンペを成功させ、来年以降はタイの非営利団体や企業を巻き込んで事業を拡大していけたらと思っているところです。
また、防災教育事業「レッドベアサバイバルキャンプ in Thailand」は運営資金の約半分を日本とタイの企業からの協賛金で実施しました。
国際社会における課題解決に向けた取り組みに対して、従来の政府機関や財団、NGOなどの非営利団体だけでなく、グローバルに活動を展開する企業や近年注目を集めている社会企業家・イノベーターなど様々なプレーヤーと共同作業を行っていくことで、より効果的かつ持続的な事業を展開していくことが可能になると思います。
タイでは平成23年の大洪水をきっかけに、人々の間に防災への関心が高まりました。この機会をとらえ、バンコク日本文化センターでは平成24年に日本の防災・減災に向けた様々な創造的な取り組みを紹介する「地震ITSUMOプロジェクト」を実施しましたが、これをきっかけに日・タイの防災関係者のネットワークが築かれました。レッドベアサバイバルキャンプは災害時においても子供たちがたくましく生き 抜く知恵や力を楽しみながら身につける避難生活体験プログラムですが、こうしたネットワークを通じて日本を訪れたタイの非営利組織Design for Disastersの代表者が日本でこのプログラムに出会い、是非タイに紹介したいとして、当センターに打診があり実現に至ったものです。なお、JICAの防災プロジェクトは、技術面でのサポートに重点が置かれていると思いますが、国際交流基金は「防災」プラス「デザイン・アーツ」という視点で、新たな価値観を創出し、防災をライフスタイルとしてタイに根付かせたいと思っています。
アジア学生パッケージデザイン交流は、1.パッケージデザインコンテストの実施、2.コンテスト受賞者向けの企業研修プログラムの実施、3.有識者による講演やデザインフォーラムの開催、4.コンテストの受賞者・各国の若手デザイナー・事業関係者とのネットワーク構築支援など4つの柱からなる複合プロジェクトです。日本にはコンテストの受賞者のみならず各国の若手デザイナーや審査員も招へいしますので、日本での研修プログラムやフォーラムを通じて彼らがお互いから学び合い、交流を継続し、アジアのパッケージデザインの発展に貢献できる人材が巣立ってくれればと思います。
なお、タイでは日本のパッケージデザインに対する評価がとても高いです。そうした日本の強みをツールにアジアの人的交流を活性化させるのは基金が貢献できる分野ではないでしょうか。
私は入社早々に結婚・出産を経験し、当時できたばかりの育児休業制度を使って10か月間休業しました。当時は周囲に同じような境遇の仲間が少なく、また充分に仕事経験を積まないまま子持ちになり、復帰後は本当に家事・育児と仕事の両立ができるのかとても不安でしたが、幸い家族とまわりの上司・同僚に支えられなんとか働き続けてこられました。今は子供も大きくなり、2度目の海外赴任のチャンスを頂くなど、ようやく仕事に力を注げる醍醐味を味わっているところです。乗り越えるコツは、あきらめず、こつこつ・淡々と、あとはいずれ時間が解決してくれると楽観的に思うことでしょうか。国際交流基金は女性の活用にずっと前から取り組んできた組織なので、私はそれに救われました。
また、海外の現場ではオフィスの中でも外でも日本の常識が通じません。仕事を通じて日々異文化交流、摩擦が起こります。オーストラリアでは人間関係がとてもフラットで、例えばオフィス内で会議を行うと皆が臆せず積極的に自分の意見を表明していましたが、タイでは伝統的に長幼の序という暗黙の了解があり、若いスタッフは会議等で、なかなか意見を言ってくれません。年長であるこちら側の意見が通りやすいというメリットもありますが、そればかりでは一人よがりになってしまいますし、いい仕事をするためには多様な意見を取り込むことが必要です。そこで若いスタッフの意見を引き出すために、会議以外のインフォーマルな場でさりげなく意見を聞くなどの工夫をしています。こうしたことはどちらがいいということではなく、様々なコミュニケーションスタイルがあるということだと思います。色々なことがあっても「やっぱりタイが好きだ、面白いなあ。」と思えるのが今の私の支えです。
事業終了後に、専門家や参加者・聴衆の方から、「とても楽しかった」、「ためになった」、「また来ます」などの肯定的なコメントを頂いたときが一番うれしいです。
特に、「レッドベアサバイバルキャンプ in Thailand」では、「この事業を地方でもやってみたい」など、外部の方から新しい提案を頂くなどして、この事業が育ってゆき、タイに日本の影響を受けた何かが根付いてゆく予感を感じることができました。
実際、本年6月にバンコク日本文化センター主導でタイ初のワークショップを実施した後、タイに根を下ろす日系企業、NGO、王室タスクフォースユニットなど様々な団体から実施のオファーがあり、8月から9月にかけては、チェンライなど、地方での実施を国際交流基金がサポートしました。将来的にはタイの災害の実情に即した事業をなるべくタイの方々が主導して開発できるよう、国際交流基金が効果的に支援するにはどうしたらよいか考えているところです。