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つながって、はなそう!『まるごと』の展開

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

2021年11月
国際交流基金日本語国際センター

 『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)は、JF日本語教育スタンダード(以下、JFS)の枠組みに基づいて制作した日本語コースブックです。JFS準拠の学び方・教え方・評価について国際交流基金の専任講師が議論を重ねながらコースブックとして具体化し、国際交流基金の海外拠点などで実施される日本語講座(JF講座)での試用を経て、2013年から2017年にかけて「入門(A1)」から「中級2(B1)」の全9冊を刊行しました。
 本ニュースでは、その後進む海外版・電子版の出版状況や公式ポータルページ「まるごとサイト」を通じたサポート教材と教師用リソースの拡充、海外・日本国内での『まるごと』利用の広がりなど、『まるごと』の最新情報をお届けします。

『まるごと』シリーズの画像:2013年「入門(A1)」刊行、2014年「初級1(A2)」「初級2(A2)」刊行、2015年「初中級」刊行、2016年「中級1(B1)」刊行、2017年「中級2(B1)」刊行

海外版・電子版の出版状況

 『まるごと』は、日本語-英語版が三修社から出版されており日本国内だけでなく海外でも入手可能ですが、海外でより広く使っていただけるよう海外版の現地出版も行っています。2021年11月現在、海外での『まるごと』の出版状況は表1のとおりです。海外版は、指示文などの英語表記が現地の言語に翻訳されています。また、周辺の国や地域でも入手できる場合があります注1。
 各国の出版社の問い合わせ先や購入先については、「まるごとサイト」をご覧ください。

表1 『まるごと』現地出版の状況(2021年11月現在)
  翻訳言語 入門 初級1 初級2 初中級 中級1 中級2
韓国 韓国語        
中国 中国語 予定 予定 予定 予定 予定
インドネシア インドネシア語
タイ タイ語  
フィリピン -          
ベトナム ベトナム語 予定
マレーシア -        
ミャンマー ミャンマー語          
インド -    
ペルー スペイン語          
エジプト アラビア語 予定          

 また、2020年10月には『まるごと』全9冊の電子書籍の販売を開始しました。この電子版は、三修社が出版している『まるごと』に基づいて制作されていますので、日本語-英語版の電子書籍になります。電子版は、Amazon KindleまたはGoogle Playブックスで購入することができますが、国によって電子版自体が購入できなかったり購入先の条件が異なったりしますので、ご注意ください。

  • 電子版が買えない国(Amazon KindleGoogle Playブックス共に):アルジェリア/イラク/リビア/モロッコ/パレスチナ/チュニジア/イエメン
  • 現地のAmazonでは取り扱われていないがAmazon.comから購入できる国:韓国/オーストラリア/ニュージーランド/ブラジル/インド/メキシコ
  • Google Playブックスのみ購入できる国:エジプト/UAE/バーレーン/ヨルダン/クウェート/オマーン/カタール/サウジアラビア
  • Kindleストアバナー画像 クリックするとKindleストアサイトにリンクします。
  • GooglePlayストアバナー画像 クリックするとGooglePlayストアサイトにリンクします。

サポート教材と教師用リソースの拡充

 「まるごとサイト」では、『まるごと』の音声ファイルのほか、「Can-doチェック」「ごいインデックス」などのサポート教材や教師用リソースを自由にダウンロードすることができます注2。これらのリソースは、JF講座を実施している海外拠点などが継続して翻訳を進めていますので、今後も作成次第「まるごとサイト」で公開していく予定です。

表2 教材ダウンロード>サポート教材の多言語化状況
(2021年11月現在)
『まるごと』 サポート教材 言語数
入門 ごいちょう 13
Can-doチェック 15
ごいインデックス 8
初級1 Can-doチェック 13
ごいインデックス 10
初級2 Can-doチェック 13
ごいインデックス 10
初中級 Can-doチェック 13
ごいインデックス 10
中級1 語彙表 10
スクリプト、テキストの翻訳 5
学習記録シート 9
中級2 語彙表 9
スクリプト、テキストの翻訳 3
学習記録シート 8

※翻訳言語の詳細は、『まるごと』サポート教材(多言語版)一覧【PDF:79をご覧ください

 『まるごと』のリソースは、国際交流基金の海外拠点サイトでもオリジナルで制作したものを提供しています。例えば、ケルン日本文化会館では、ドイツの先生方にとって使いやすい形に編集しなおした自己評価表や、現地でニーズの高い漢字練習帳などを制作して「『まるごと』ドイツ語教材ダウンロード」のページで提供しています。トロント日本文化センターでは、『まるごと』B1レベルを使用するときに利用可能なデジタルリソースや動画リンクなどの資料集を「まるごと教材プロジェクト:おたすけ資料集」として公開しています。これは、カナダ各地で教える有志の先生方によるプロジェクトの成果物で、2020年8月の第1回プロジェクトでは「中級1(B1)」、2021年6~8月の第2回プロジェクトでは「中級2(B1)」の資料集が作成され公開されました。そのほか、世界中の教師のための素材提供型サイト「みんなの教材サイト」でも、『まるごと』を使って授業をする教師のためのPadletリンク集「まるごと便利帳リンク集」が一般ユーザーによって投稿されています注3

「まるごと教材プロジェクト:おたすけ資料集」サイト画像

トロント日本文化センター 「まるごと教材プロジェクト:おたすけ資料集」

「みんなの教材サイト」一般ユーザーからの投稿ページと「まるごと便利帳リンク集」ページ画像

みんなの教材サイト 一般ユーザーからの投稿「まるごと便利帳リンク集」

『まるごと』の広がり

 『まるごと』は、国際交流基金の海外拠点および日本人材開発センターに開設されている世界各地のJF講座で広く使われています。JF講座は、JFSに基づく日本語教育の普及と定着を目的に2011年度から順次講座開設が始まりましたが、2020年度には世界28カ所で13,041人が学んでいて、10年間の受講者数はのべ161,925人にのぼっています。

世界28か所のJF講座開設地を記したマップ画像(2020年10月現在):西欧(ローマ、ケルン、マドリード、パリ) 東欧(ブダペスト、アルマティ、モスクワ、ヌルスルタン、キエフ、ビシュケク、タシケント) 中東・アフリカ(カイロ) 南アジア(ニューデリー) 東アジア(ソウル、ウランバートル) 東南アジア(ジャカルタ、ハノイ、バンコク、ホーチミン、マニラ、ビエンチャン、クアラルンプール、プノンペン) 大洋州(シドニー) 北米(トロント、ロサンゼルス) 中南米(メキシコシティ、サンパウロ)

 元々は海外で趣味や教養のために日本語を学ぶ一般成人学習者を対象として開発した『まるごと』ですが、日本国内外の高等教育や中等教育でも使用されるようになってきました。日本国内では、桜美林大学で短期留学生対象の日本語科目の教材として『まるごと』が導入されたり、東洋大学では「入門(A1)」から「中級2(B1)」を主教材として使用するカリキュラムに刷新されたりしています。また、地域のボランティア日本語教室で『まるごと』を使っているという事例も多く聞かれるようになってきました。海外においても、中等教育や高等教育だけでなく、民間の日本語学校や、就労のための来日を希望する学習者のための人材送り出し機関などで『まるごと』を使うところも増えつつあります。
 「入門(A1)」の刊行から8年が経ち、海外では『まるごと』の理念や実際の教え方などを紹介する「まるごとセミナー」が海外派遣日本語専門家によって現在も活発に行われていますが、『まるごと』を出発点として教師同士の学びや交流の場を設ける動きも見られます。前述のケルン日本文化会館では、「まるごとオンラインサロン」を昨年と今年の2回実施しましたが、ドイツ国内に限らず毎回50名以上の申し込みがあり、それぞれの現場での工夫を共有したり『まるごと』の先輩ユーザーが初めて使う人にアドバイスしたりするような場になっています。ベトナム日本文化交流センターでは、2020年9月に「『まるごと』先生Ơi!(「Ơi」は呼びかけに使われるベトナム語)」というオンラインパイロットコースを立ち上げ、「初中級(A2/B1)」を使って受講生自身が日本語を学ぶのと同時にJFSに基づいた教え方を学び、最後には受講生自身が教師となってオンライン模擬授業をするといった実践的なコースを運営しています。このコースには、すでに大学や日本語学校で教えている教師以外にも教師志望の日本語専攻の学生、日本語教師に復帰したい教師経験者など、非常に多様な背景を持つ参加者が集い、学び合いの場を持っています。
 日本語国際センター教材開発チームは、今後も、日本語-英語版の販路や現地出版の拡大、利便性向上のための各種リソースの拡充に努め、『まるごと』でつながる世界中の学習者と教師を支援していきたいと思います。

『まるごと』応援イラスト 「つながって はなそう!」『まるごと 日本のことばと文化』(c) The Japan Foudation

※このイラストの元になった『まるごと』応援イラストは、「Against Covid19 日本語の教科書キャラクターからのメッセージ」(筑波大学 日本語・日本事情遠隔教育拠点)に賛同して作成しました。オンラインでのバーチャル背景などにぜひご活用ください。

注:

  1. 1.マレーシア、インド、エジプトで出版されている海外版は、それぞれ以下の国・地域でも流通しています。
    • マレーシア(Teraga Biru):シンガポール、ブルネイ
    • インド(GOYAL Publishers):ネパール、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、モルディブ
    • エジプト(Dar Al-Maaref):アラブ首長国連邦、アルジェリア、イエメン、イラク、イラン、オマーン、カタール、クウェート、コモロ連合、サウジアラビア、シリア、ジブチ、スーダン、ソマリア、チュニジア、トルコ、バーレーン、パレスチナ、モーリタニア、モロッコ、リビア、レバノン、ヨルダン
  2. 2.著作権保護の観点から、音声ファイルのダウンロードにはユーザー登録が必要です。音声ファイル以外の素材については、ユーザー登録なしで自由にダウンロードしていただけます。
  3. 3.「みんなの教材サイト」はユーザー登録制のウェブサイトですので、閲覧にはユーザー登録が必要です。

『まるごと』に関する参考情報:

  1. 1.日本語教育通信 日本語教育ニュース
  2. 2.国際交流基金 JF日本語講座
  3. 3.令和3(2021)年度 世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)

(羽吹幸/日本語国際センター専任講師)

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