日本語教育専門員の仕事

1.日本語教育専門員の業務内容

日本語研修

関西国際センター(以下、センター)では、長期・短期合わせて年間約25コースの日本語研修が実施されています。センターの日本語研修の特徴は、まず参加者が多国籍、多文化であること。また日本語レベルもゼロ初級者から上級者まで幅広いこと。そして世界のニーズを反映して、多様な目的を持った研修が行われていることです。例えば、世界で日本語を勉強している学習者たちが日本語を使って体験や交流をする研修や、発展途上国を中心とした30か国以上の若手外交官・公務員のための長期研修など、目的や対象によって研修の内容も方法もさまざまです。

日本語教育専門員は、こうした研修を目的に合わせてデザインし、授業や課外活動をアレンジし、教材を準備します。研修が始まると、授業を担当するとともに学習状況に応じてカリキュラムを調整し、交流会や学校訪問などの裏方となり、時には研修参加者の相談に乗ったり悩みを聞いたりもします。各研修を2名〜5名の専門員で担当し、チームで話し合いながらコースを作っていきます。

職場としてのセンターのおもしろさは、新しいことに挑戦できる環境にあることです。クラス活動や教授法、評価方法など、研修は時代や参加者に合わせて常に変化しています。専門日本語研修(外交官・公務員)の主教材を『みんなの日本語』から『まるごと日本のことばと文化』 に変更した際には、カリキュラムも副教材も評価も一新しました。こうした大きな改定作業も、チームの機動力を生かして効率よく進めることができます。また研修を通じて、世界の日本語学習者がどんな動機で、何を使って、どのように勉強しているのかを実感することができます。学習者目線の日本語教育を目指して、専門員たちの実践は日々続きます!

eラーニング・教材開発

センターでは、研修の成果を生かした教材制作、日本語学習のさまざまなニーズに応じたeラーニング開発を行っています。教材制作初企画となった『初級からの日本語スピーチ ―国・文化・社会についてまとまった話をするために―』 は、専門日本語研修(外交官・公務員)でスピーチを取り入れ、初級段階であっても知的な話題でまとまった話ができるように工夫したところ、学習者が達成感を感じ、口頭能力も向上するなど高い学習効果を感じたため、一般向けに教材化したものです。『日本語ドキドキ体験交流活動集』 は、海外で日本語を学ぶ学習者の短期訪日研修のコースデザインやノウハウを教材化したもので、実際の日本語使用場面に飛び出し、試行錯誤する中で日本語を伸ばし、異文化理解を深める「体験交流活動型日本語学習」を提案しました。センターが大切にしている各研修参加者のニーズへの対応、外部リソースの活用、自律学習支援などを具現化し、多くの日本語現場に還元できる教材制作は、やりがいを感じる仕事です。

eラーニング開発では、世界中の日本語学習者のニーズに対応したWebサイト、アプリなどの開発を行っています。例えば、「アニメ・マンガの日本語」 Webサイトの開発では、まずアニメ・マンガファンのニーズ調査を行い、世界で人気のあるアニメ・マンガを収集、分析して、アニメ・マンガに現れるキャラクターやジャンルの表現が学べるサイトを開発しました。Webサイト制作業者、漫画家、声優などと協力し、打ち合わせを重ねながら、アニメ・マンガの世界観を生かし、ゲームやクイズで楽しく学べるコンテンツを作成しました。公開後、「ファンの気持ちをわかってくれているサイト!」などの声が多く寄せられると、開発の苦労も吹き飛びました。

現在は、日本語学習プラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」 をオープンし、さまざまな日本語オンラインコースの開発、運用を行っています。eラーニング開発では、それぞれの対象ユーザー像、ニーズ、どんなところでどのように使われるのかをまずはつきつめて考えて、常にユーザー目線で開発するよう心がけています。地理的・時間的な制約などで日本語の教室に通えない学習者、自分のニーズやペースに合わせて学びたいといった世界中の人々に新たな学習の機会を届けることができるeラーニング開発は、日本語教育経験を生かしながら、新しい挑戦ができる魅力的な仕事です。

2.海外派遣

センターから海外への派遣制度もあります。これまで、ケルン、パリ、ソウル、ジャカルタ、バンコク、マニラ、クアラルンプール、サンパウロ、マドリード、ブダペスト、ハノイなど、海外拠点の日本語上級専門家として派遣されることが多かったのですが、現在では若手にも日本語専門家として派遣される道が開けています。

海外に赴任して感じることは、センターで経験をつんでいると、海外で要求されるさまざまな業務にも柔軟に対応できるということです。もちろん派遣そのものは、専門家自身の資質と経験とによって、JF本部で慎重に決定されるのですが、学習者研修中心のセンターでのコースのデザイン、交流会や学校訪問のアレンジ、そしてこれらをチームで話し合いながらコースを作っていくという経験は、海外での教師研修や各種イベントの準備や運営にも大いに役立ちます。やはり、日々、多国籍、多文化の研修参加者と接していることが、大きな強みとなっています。

センターから海外に派遣されると、現地ではさまざまな業務が待っています。特に海外拠点では、チームでの業務が多くなるので、これはセンターでの経験がすぐに役に立ちます。また、小学校から大学に至るまで、各種教育機関を訪問する機会が多いのですが、その際にはすでにセンターの学習者研修で用いたリソースが大いに力を発揮します。特にeラーニング関連では、センターが作成しているものについては適切な活用方法を伝えていくことができます。そして、何といっても、センターの研修修了者と現地で旧交を温めることができるのはありがたいことです。彼らは確実にステップアップし、場合によっては当該国の重要なポストに就いていることも少なくありません。まさに教師冥利です。

このように、センターでの経験を海外に活かし、その経験を持ち帰ることで、JFの日本語事業がより活性化されていく、そして、その一翼を担うことができるのは、センターの日本語教育専門員の大きな魅力の一つだと思います。

3.専門員の声

自分の幅を少しずつ広げて

私がセンターで働き始めたのは日本語教師4年目のことでした。最初は育休中の日本語教育専門員代替(嘱託)として、日本語研修を担当しました。初めてで戸惑うこともありましたが、研修リーダーのもとでセンターが培ってきた研修のノウハウを学びながら、世界各国から来た研修生たちと毎日楽しく授業をしました。

嘱託の任期が終わる頃、センターで任期付日本語教育専門員(当時はeラーニング開発業務専従)の募集が出ました。未経験の分野でしたが、ここでしかできない仕事に挑戦したいと思い、応募しました。任期付専門員としても、初めは日本語学習サイトの開発経験がある日本語教育専門員のもとでまるごと日本語オンラインコース サイト制作を担当し、教材開発のノウハウを学びました。その後、サイトでの自学自習にライブレッスンなどの教師サポートを組み合わせたオンラインコースの開発・運用を中心となって行うなど、徐々に主担当としても仕事をするようになりました。オンラインコースについて考える際、センターの研修での経験も非常に役に立ちました。日本語研修とeラーニング開発の業務内容は全く異なるものですが、経験をまた別の形で生かすことができるセンターの働き方の強みを感じました。

その後、任期や業務専従という枠にとらわれることなく働いていきたいと思い、任期なしの日本語教育専門員に応募しました。そこからは、これまでの経験が生かせるものはセンターで前例のない業務であっても主担当として仕事をしたり、JFの海外拠点でeラーニングのセミナーを行ったりするなど、センターの日本語教育専門員として外に出ていく機会も増えています。これからも日本語教師としてさまざまな経験を積み、少しずつステップアップしていきたいと考えています。

海外での経験を生かして

JFの仕事として日本語教育に関わったのは、JENESYS若手日本語教師派遣プログラムでタイの中等教育機関に派遣されたのが最初でした。その後国内の日本語学校を経て、日本語専門家としてマレーシアの大学に赴任し、日本留学を目指す学生向けコースを担当しました。

専門家として仕事をする中で、JFから派遣されている他の専門家や職員との多くの出会いがあり、専門家の任期が終わった後もJFの日本語教育事業に深く携わりたいと思うようになりました。センターでは、研修参加者を対象に異文化理解や課題遂行といった理念のもとに日本語を教えることができると知り、日本語教育専門員の募集に応募しました。

センターではこれまでの私の教師歴の中では出会うことのなかったさまざまな背景・目的を持った参加者に教える機会を得ることができ、多くのことを学んでいます。専門日本語研修(外交官・公務員)ではリーダーを務め、チームで協力して研修を行いました。教育の現場を見るだけでなく、職員と共に研修全体の運営に関わることによって視野が広がりましたし、責任ある仕事に大きなやりがいを感じました。海外で培った異文化を理解する力や、さまざまな状況に柔軟に対応する力は、センターの業務でも活かせていると感じます。

研修をよりよいものにするためにカリキュラムや授業を見直し新たな試みをしたり、新規で実施する研修を一から作り上げたり、eラーニング教材やオンラインコースの開発を手掛けたりと、センターでは日本語教育に関わるさまざまなことに挑戦する機会があります。

多岐にわたる業務の中で日々新しいことに取り組み、日本語教師としての成長に繋げたいと考えています。