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理事長からのごあいさつ

国際交流基金理事長 梅本和義の写真

2020年10月に国際交流基金(JF)の理事長に就任して1年が経ちました。

JFはこれまで、文化芸術、日本語教育、日本研究・知的交流の三つの事業を軸として、世界各国で国際文化交流事業を総合的に展開し、世界との絆をはぐくんでまいりました。しかしながら、2020年初頭より世界各地に広がった新型コロナウイルス感染症の影響により、国を越えた人の移動や多人数の集まりを伴う大半の事業の実施を中止・延期せざるを得ないという設立以来最大の試練に直面いたしました。

こうした状況の下、引き続き日本文化の魅力を世界に届け、各国の人々との交流を絶やさないためにはどうすべきか模索を重ねる中で、日本の優れた舞台公演作品を多言語字幕付きでオンライン配信するプロジェクト「STAGE BEYOND BORDERS –Selection of Japanese Performances–」や日本の作家と多様な言語の翻訳者の座談会をライブ配信する等、オンラインを活用した事業を積極的に展開するとともに、状況が許す国では、感染症対策に万全を期して美術作品の巡回展や日本映画上映会等を実際に実施いたしました。

また、日本語教育の分野では、外国人が日本で生活する際に必要な基礎的な日本語コミュニケーション力を身につけるためのウェブ教材『いろどり 生活の日本語』の内容の充実や、日本語学習オンラインプラットフォーム『JFにほんご eラーニング みなと』の活用を推進いたしました。特に『いろどり』は全ての教材及び音声データをウェブサイトに公開し、無料でダウンロードできる形式としたことで、在宅での日本語学習需要にも幅広く応えることができました。さらに、2019年4月に新しく創設された在留資格「特定技能」を得るために必要な日本語能力水準を測るテストとして活用されている「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」を、モンゴル、インドネシア、カンボジア、タイ、フィリピン、ミャンマー、ネパールで着実に実施するとともに、2021年3月からは日本国内でも開始いたしました。

このほか、コロナ禍で米国各地の日米協会等日本との交流の担い手として活動する非営利団体の多くが経済的な影響を大きく受けたことを踏まえて緊急支援プロジェクトを立ち上げたり、次世代日本研究者育成を目的に2018年度より実施してきた協働研究ワークショップ参加者へのオンラインによるフォローアップ事業を展開したりする等、長期的な視点に立ちながら、今、何が求められているかを見極め、時宜にかなった事業実施に努めました。

現在、世界各国では、ワクチン接種の広がりとともに、さまざまな制約を緩和する兆しも見え始める一方で、いまだ感染者の拡大に見舞われる国々も多く存在しており、なお予断を許さない状況が続いています。こうした各国の状況を慎重に見極めながら、可能なところから人と人との対面での交流やアーティストを現地に派遣しての舞台公演等、何ものにも代えがたいリアルな事業の再開を進めていきたいと考えています。

コロナ禍という特殊な状況の中で、オンラインコミュニケーションは新たな日常風景として、世界に急速に浸透し、国境や物理的な距離を一度に消滅させたかの感があります。これまで手の届きにくかった国・地域の人々にも参加いただける大きなメリットがあることが実証されたオンライン事業への取り組みを一層拡充しながらも、そのような中でも変わらない人と人の交流を大切にし、リアルとオンラインの適切なバランスや組み合わせを通じて、コロナ禍後の新しい形の交流実現に努めてまいります。

JFは、創設50周年の節目を迎える2022年に向けてさらなる飛躍を果たせるよう、今後とも創造的な取り組みを続けてまいりたいと思います。皆様のご理解・ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2021年11月
独立行政法人国際交流基金 理事長 梅本 和義