2008年度上半期 調査研究プロジェクト
「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」フォローアップ調査

2008年度上半期 調査研究プロジェクト
「日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)」フォローアップ調査 概要
計画者 篠崎摂子
プロジェクト参加者 藤長かおる、簗島史恵、今井理恵
日程

スケジュール

2008年4月~6月
調査項目の検討、修了生の所在・連絡先確認
2008年7月~9月
調査票送付
2008年11月~12月
(12月31日提出締切→1月末に督促)
2009年1月~3月
補足調査、調査結果集計・分析

目的と概要

1) 目的

「日本語教師指導者養成プログラム(修士課程)」*修了生の現状を把握し,プログラムの評価および今後の事業展開を考える資料を収集する。

*海外のノンネイティブの現職日本語教師または日本語教授経験者を対象とした1年間の日本語教育の修士コース。将来、各国の日本語教育界において指導的立場に立つ人材の養成を目的としている。

2) 概要:

2007年度までの修了生全員に対して下記の内容についてアンケート調査を実施

  1. 本プログラムの修士学位の評価
  2. 所属機関・地位の変化
  3. 所属機関での業務
  4. 所属機関以外(地域・国レベル)での活動
  5. 研究活動
  6. ネットワーク活動
  7. 今後の希望

方法:メール添付で調査票を送付・回収(一部ファックス,郵送など)
回収状況(2009年3月31日現在):回収数33部(回収率54.1%)


成果の概要

4.1 本プログラムの修士学位の評価

  1. A.正式の修士学位として評価されている。:22人
  2. B.部分的に評価されている。:8人
  3. C.まったく評価されていない。:3人

⇒インド,ブラジル,旧ソ連地域で評価されない傾向がある。相手国の認定機関や教育部門への働きかけ,プログラムとしての証明書(1年間の修士課程であること、「特定課題研究」の位置づけ等)の発行は可能。
修士論文執筆の必要性が高いなら,期間の延長,修士論文執筆の可能性について

4.2 所属機関・地位の変化

  1. プログラム修了後の変化
    ある:18人,ない:14人,無回答:1人
  2. 所属機関・地位の変化と本プログラムの関係(記述)
    • 専任としての地位が上がった。
    • 専任になった / なる可能性がある。
    • 修士の学生を指導できる。
    • 大学で日本語教育が正式に認められた。
    • 仕事が増えた。
    • 修士での研究内容を評価されて,自国の教育部門で仕事をすることになった。
    • 修士プログラムがきっかけで,自国の基金事務所などで非常勤講師として勤務することができた。

⇒帰国後の所属機関・地位の変化(向上)には,プログラムの影響が認められる。プログラムは参加者のキャリアアップに貢献している。

4.3 所属機関での業務

(1)授業
  1. 担当する授業科目の変化
    ある:20人,ない:12人,無回答1人
  2. 変化と本プログラムの関係(記述)
    • 大学院の授業を担当するようになった。
    • 専門的な内容,レベルの高いクラスを担当するようになった。
    • 教授法の授業を担当するようになった。
    • 修士で研究した内容に関する授業を担当するようになった。

⇒プログラム参加により所属機関で担当する授業内容が変化し,より専門的な内容が担当できるようになった。

(2)授業以外の業務
  1. 担当する業務の変化
    ある:16人,ない:13人,無回答:4人
  2. 変化と本プログラムとの関連(記述)
    • 専任になったので,重要な業務を担当するようになった。
    • プログラム参加により,重要な業務を担当するようになった。
    • プログラムで学んだ内容を業務に取り入れている。
    • 担当する業務内容の範囲が広がった。

4.4 所属機関以外(地域・国レベル)での活動

(1) 参加(実施)する活動の変化
ある: 18人,ない: 14人 ,無回答:1人
(2) 変化と本プログラムの関係(記述)
  • プログラム参加で所属機関や地位が変わったため,活動の幅が広がった。
  • プログラム参加により,活動の幅が広がった。
  • プログラム参加により,活動に自信を持てるようになった。
  • プログラムで学んだ内容により,活動の幅が広がった。

⇒プログラム参加により,活動の種類と内容の広がりを持つことができた。

4.5 研究活動

(1) 本プログラムの研究成果について
1. 特定課題研究の成果報告・発表実績
ある:26 人,ない:5人,その他(予定あり):1人,無回答:1人
⇒プログラム参加中に,研究成果をどのように報告するのか確認しておくことが必要。JFの事務所やセンターがあるところには,修了生を活用してもらうようプログラム側からの働きかけも必要。
(2) 現在の研究活動
1. 本プログラム修了後の研究活動
している:19人,していない:13人,無回答:1人
2. 現在の研究テーマと「特定課題研究」テーマとの関連
関連がある:15人,関連がない:4人
⇒プログラムの「特別課題研究」のテーマや授業と現在の研究テーマとのつながりがみえる。 研究を中断している者もおり,仕事と研究をどう両立させるかが課題。
(3) 本プログラム修了後の研究成果
1. 雑誌・学会誌への掲載
2. 口頭発表 あり:10人,なし:23人
⇒継続研究の成果発表は、まだ多くない。国の状況によって発表の場の問題もあると思われる。日本での学会発表については,プログラム担当者からの働きかけや支援も必要。
(4) 学会や研究会への参加について
1. 本プログラム修了後の学会や研究会への参加
参加した(参加予定を含む):20人,参加していない:12人,無回答:1人
⇒学会・研究会参加は学会発表より多い。帰国後どんな学会・研究会に参加できるか(参加機会は国や地域によって差がある)を意識してもらうことが重要。
(5) その他
1. 博士課程への進学希望
すでに進学:3人,進学予定:4人,進学希望(時期未定):18人
特に考えていない:7人,無回答:1人
⇒博士号取得の希望は多く,本プログラム博士課程への進学希望が高い。修士修了の学生が一度帰国した後に本プログラム博士課程に入学するためには,支援の整備が必要ではないか。
2. 本プログラム参加前と修了後での研究に対する考え方の変化
ある:28人,ない:2人,無回答:3人
3. 変化の内容とプログラムとの関連:
変化 研究の重要性を認識し,研究への興味や自信が深まった:11人
関係
  • プログラムに参加し,初めて研究に出会った。
  • 言語教育を踏まえた多くの研究資料の分析や考察,批評などを通して,実践とその裏づけとなる理論の大切さと必要性を自覚した。
  • 研究成果から国の日本語教育の問題を見られるようになり,改善策が考えられるようになった。
変化 研究方法が理解できるようになった/理解が深まった:11人
関係
  • 授業でいろいろ研究方法について勉強した。・研究プロセスに対する理解が深まった。
変化 その他:3人(第2言語習得についての理解、協働作業の効果の時間、興味の変化)
関係
  • 授業でいろいろなことを学んだり、考えたりする機会があった。
⇒プログラム参加により研究の必要性を認識するようになり,研究方法への理解も深まったといえる。

4.6 修了後のネットワーク

(1) 本プログラム修了後のプログラム関係者とのネットワーク
1. ネットワークの対象と頻度
(Aよく連絡している。Bときどき連絡している。Cあまり連絡していない。D全然連絡していない。)

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対象 A B C D 無回答 主な内容
同級生 3 19 7 0 4 近況報告、仕事や授業、研究テーマ
先輩・後輩 3 9 8 8 3 研究や仕事の情報交換
指導講師 4 11 12 3 3 研究・進路相談
プログラム担当者 0 8 7 13 5 博士プログラムや進路についての相談
プログラム担当職員 0 5 8 13 7 博士や他のプログラムについての相談
その他(同僚) 1         作成中の教材についての相談
⇒プログラム修了後のネットワークの中心は同級生や指導講師が中心になっている。
(2) 本プログラム修了後の日本または自国の日本語教育関係者とのネットワーク
1. 記述式回答の結果を集計したもの。
ネットワークに参加して活動している:16人
例)国をこえた地域のネットワーク,現地の教師ネットワーク,機関や地域での研究会や勉強会,教師養成プログラム修了生とのネットワーク,各地での日本語教室開催, ML,メルマガ,プロジェクトや共同研究のネットワーク
正式のネットワークがなかったり機会が限られたりしているためセミナーなどの機会を利用している:5人
とくにどのネットワークにも参加していない:3人
日本語教育の仕事をしていない:1人
無回答:8人
2. 本プログラム参加前と修了後のネットワークの種類,範囲,活動内容などの変化
ある:15人,ない:15人,無回答:3人
3. 変化の内容とプログラムとの関係
変化 ネットワークが広がった:10人
関係
  • プログラムに参加してネットワークの重要性を実感した。
  • プログラム参加がきっかけとなって他の教師とのネットワークができた。
  • とくに関係がない。
  • その他:3人
  • 無回答:1人
変化 ネットワークで果たす役割が広がった:3人
関係
  • プログラム参加がきっかけとなり,現在の所属機関に入った。
  • 自信がついた。
  • プログラム担当者からの依頼による。
変化 ネットワークが衰退した:1人
関係
  • プログラムとは関係なし。国内情勢および所属機関の問題による。
⇒プログラム参加を通してネットワークを広げている者がいることから,プログラム参加がネットワーク形成に寄与したとことがわかる。

4.7 今後の希望

(1) 研究,業務,所属機関の異動などについての希望
あり: 24  特になし:2人  無回答:  7人
プログラム成果の教育現場への還元に関すること:10人
  • 所属機関のコースのカリキュラム改善,新しい授業の導入を行っている。
  • ネットワーク作りをする。
  • 教材開発を行う。
研究に関すること:9人
  • 日本語講座の学習者の実態調査を行なおうと考えている。
  • 修士課程で研究したテーマの継続研究。
  • 研究,所属機関以外との交流活動,学術活動等、学会に参加したい。
<悩み>
  • 理論的な参考資料などが不足しているので,研究支援のシステムがあればよい。
  • まわりに研究に携わる仲間が少なく,研究の雰囲気もあまりよくない。
博士課程進学・修了の希望:8人
  • 博士課程への進学を考えている。
  • 現在,博士課程に在籍。博士の研究と論文を終わらせたい。
  • 将来のことを考えると博士に進学しなければならないが,まだ十分なモチベーションがない。
  • 今の仕事をしながら,進学をするのは非常に大変だが,頑張ってみたい。
自国の日本語教育の発展に関すること:3人
  • 大学の日本語コースの地位のレベルアップ(専攻立ち上げなど),その他の国立機関への日本語教育の導入,大学外の一般人公開講座の発展拡大。
<悩み>
  • 大学に日本語学科を設立することは困難。一人でその問題を解決するのは難しい。
  • 教師では生活が困難。職業として需要がない。
地位の向上:1人
休職中だが機会があれば日本語教師の仕事を続けたい:1人
⇒修了生の教育現場での取り組みにはプログラムで学んだことの成果がうかがえる。また,修士号取得が博士課程進学のためのひとつのステップになっている。
(2) 情報提供・フォロー等本プログラムに対する希望
あり:14人,特になし:5人,無回答:14人
情報提供に関する希望:6人
  • プログラム修了生の主な動向(業務,研究,進路など)が知りたい。
  • 日本語教育に関する情報提供,国流基金の修士プログラム修了生の共同研究
  • プロジェクトなどの動向,勉強会,交流活動の運営,専門誌の創刊などについての日本のやり方に関する情報を提供してほしい。
  • プログラムの改善,条件の変化などについての情報。
情報交換の機会・ネットワーク構築に関する希望:3人
  • 本プログラムの修了生の交流を深め,各教育現場の問題点や教材開発等に関する情報交換ができるようなネットワーク構築 。
  • プログラムでお世話になった先生とのネットワークを保ちたい。
  • 同級生との連絡を促進するために,ブログを作成。
修士プログラム参加後の支援についての希望:3人
  • 日本語教育指導者養成プログラム論集が毎年ほしい。
  • 帰国しても,センターの図書館を利用できれば,研究にいいと思う。
  • 日本だけではなく,他の国で行われる学会や研究会に参加きるような機会や支援があればよい。
プログラム来日前の支援についての希望:1人
博士課程コースの工夫(遠隔教育やパートタイム)についての希望:1人
⇒業務遂行や研究継続のための情報提供の要望が目立つ。現状では,修了生間や指導講師間での個別のネットワークで対応しているが,修了生全体が相互にサポートし合えるような体制があることがさらに望ましい。