海外日本語教師の養成・研修

日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)15期生
(研修期間:平成27(2015)年~平成28(2016)年)
「修了・帰国から半年経って思うこと」

政策研究大学院大学と連携で実施している修士課程を2016年9月に修了したベトナム、マレーシア、ミャンマー、クロアチアからの4名の日本語教師からの報告です。
このプログラムでは、参加者はそれぞれの日本語教育の現場の事情を踏まえた研究テーマを自ら設定して、その研究成果報告を提出します。1年間という限られた期間の中で、講義や研究に必要な個別指導等を受け、一時帰国して自国の教育機関で実習を行い、自国で収集したデータを分析し、その研究成果を「特定課題研究」としてまとめるものです。
帰国後、自分の職場で改めてその研究テーマについて考え、発展させることもあります。修士修了後半年たった2017年春に、4名が研究テーマに関して、取り組んだことや、取り組もうと思っていることや今の考えについて書きました。

日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)15期生の集合写真
(左から ウインさん カメさん アリファさん ヴィさん)

ヴィさん(トラン グエン バオ ヴィ/TRAN NGUYEN BAO VY/ベトナム/ホーチミン人文社会科学大学日本学部)

【特定課題研究報告】
テーマ:ベトナム人中級学習者の説明文の読解上の問題点-ホーチミン人文社会科学大学日本学部2年生と3年生を例にして-
【PDF:980KB】PDF別サイトへ移動します

ヴィさんの写真 私は、学生が日本語の説明文を読んでいるときの困難点を明らかにしたくて、来日しました。1年間でいろいろな学習活動と研究活動を通して研究したいことを確信できて、特定研究課題報告を完成させました。この研究の考察結果はまだ明らかになっていない点が残っていますが、自分にとって非常に有意義な研究でした。帰国したら、研究課題をより深く再考しようと思いました。具体的には、まだ解決できていない課題に取り組もうと思いました。 前回の調査結果ではアンケート調査と発話調査という2つの手法を用いて、これまで明らかではなかった学習者の読解上の問題点について具体的な内容を把握することができました。しかし、アンケート調査で質問項目として扱ったが、発話調査では観察されなかった問題点、また学年の差が生じる原因とそれらが理解にどの程度影響を与えるかという問題も残されています。そして、研究から得た読解指導のための示唆を活かした読解授業のデザインの課題についてもまだ触れていませんでした。 今は、この3つの課題のうち、深い興味を持っている学年の差の点を探ってみようと思っています。前回のデータを考察した際、2年生の読み活動における発話調査のデータのほうに問題が多く発生したことに気が付きました。また、2年生の読んでいるときの未知語や未知表現の推測のし方、情報の分析、解読のし方、難解点の解き方などは3年生と比べて、多少の相違点があると観察できました。しかし、その2年生が今回3年生になってどう変わるか、前の3年生と同じような読み方を行うようになるか、または去年の読み方と変わらずに同様の誤解を繰り返すかについては非常に興味深いです。これは学生の個人差(性格、自習方法、動機付けなどの相違)か、学年の学習環境の相違(テキスト、教師の教え方、授業活動など)か、習熟度の相違かのどれによって発生したものかを判断するための1つの根拠になるだろうと思っています。さらに、段階別の読解指導の示唆にもなると考えられます。現在、研究に協力してくれた2年生(今の3年生)を対象にしてもう一度調査を行い、前回のデータと比較する計画を立てています。研究手法としては、前回3年生(今の4年生)を対象にして実施した読み物を使って、前回と同様の調査(読み活動における発話調査)を行う予定です。まだ、準備段階にありますが、個人的に今回の研究の結果を非常に楽しみにしています。


アリファさん(ヌル アリファ ビンティ マッド ユヌス/NUR ALIFAH BINTI MD YUNUS/マレーシア/マレーシア・ジャパン高等教育プログラム)

【特定課題研究報告】
テーマ:音符に焦点を当てた漢字学習ストラテジー指導-日本留学予備教育での非漢字系学習者を対象として-
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2015年度日本語教育指導者養成プログラム(修士課程)を修了後、所属機関であるマレーシア・ジャパン高等教育プログラム(MJHEP)に戻りました。日本へ行く前と同様に、私は1年生の担当と漢字の授業で扱う教材作成の担当を任されています。 修士課程では、音符に着目した漢字学習ストラテジー指導について特定課題研究報告に取り組みましたが、調査から得られた示唆をすぐに現場で実践することはできませんでした。しかし、一緒に1年生を担当している教員達の理解を得て、今まで使ってきた授業シラバスを少し変えることができました。 帰国直後は2016年度の後期が始まるところでした。そこで、2016年度の1年生に対して「漢字力診断テスト」を行うと、やはり同音の漢字(形声文字)の知識に関する問題の正答率が前の年と同じように低かったです。漢字学習ストラテジー調査は行いませんでしたが、これまでの学生と同じシステムで漢字教育を受けているので、もしストラテジー調査をしたら、おそらく漢字を部首や音符などの要素を使ってグルーピングするストラテジーをあまり使わないという同じような結果が得られるでしょう。 今までのシラバスでは、後期に行われる日本語の授業の中から40コマ(1コマ55分)を使って約600漢字の意味、書き方、音訓読み、語彙を導入しますが、今回は33コマ(約550漢字)までに減らしてシラバスを変えてみました。そして、残りの7コマでは、「漢字EXTRA」という授業をやりました。今まで通りのやり方を扱う授業を5コマ行った後、漢字EXTRAを1回入れました。漢字EXTRAの内容は(1)長短音・濁音、(2)送り仮名、(3)音符、(4)部首、(5)反対語・自他動詞、(6)漢語・和語、(7)漢字ネットワークです。音符にだけ焦点を当てない理由は学生に漢字を色々な面から見てもらいたいからです。また、1年生の学生は2年に上がると、パソコンを使って理工系の実験レポートを書くことになっているため、長短音・濁音をしっかり区別しないと、書きたいことがうまく書けない恐れがあります。そして、レポートなので、漢語と和語の使い分けも身につけなければ、上手に書けないかもしれません。 正式な反省会やアンケート調査はしませんでしたが、漢字EXTRAの授業に入った教員達からポジティブなフィードバックをもらいました。漢字EXTRAはほとんどゲームを取り入れて授業を行ったため、普段の漢字授業と違って学生は積極的に授業に参加してくれたという声が挙がりました。さらに、漢字EXTRAの内容や進め方が教員にとって新鮮なものもありましたので、自分も勉強になったと言う教員もいます。また、学生も普段の授業でなかなか見られないわくわく感を漢字EXTRAになったら、見せてくれました。難しい内容もありましたが、ゲームの感覚でやっていたので、学生が一生懸命取り組む姿も見られました。 このように、ずっとやってきたことはすぐに変えることができませんが、お互いの理解を得て、少しずつ漢字教育の在り方を変えることは不可能ではありません。これからも、一緒に働いている教員達と協力しながら、機関の漢字教育のみならず、日本語教育全体をどのように改善できるか検討していきたいと思います。


ウィンさん(ウィンウィンタン/WIN WIN THAN/ミャンマー/マンダレー外国語大学)

【特定課題研究報告】
テーマ:マンダレー外国語大学におけるアウトプット活動の有効性を探る授業の試み-学習者の受身文に関する中間言語体系はどう変化したか-
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ウィンさんの写真 私が帰国した時、こちらの大学では2016年の2学期の期末試験が終わって、2か月間の休みに入ったころでした。2016年の12月2日からの新学期に私が担当したクラスは、学部4年生のコース、修士予備コース、学習者を対象とする修士コース、教師を対象とする修士コース、日本語専門コース、夜間コースです。学部4年生クラスでは、自分で体験しながら身につけた論文の書き方を教えることになりました。それ以外のコースでも日本で修士コースの1年間で学んだことを活かしています。 私の日本での研究テーマは、「マンダレー外国語大学におけるアウトプット活動の有効性を探る授業の試み―学習者の受身文に関する中間言語体系はどう変化したか―」でした。マンダレー外国語大学の日本語科の3年生の学習者(日本語能力はN3以上)を対象としてアウトプット活動を取り入れた実践授業を3回行って、受身文に関する学習者の知識がどう変化したか調べました。 そして、帰国後考えたのは、日本語能力がN2以上の学習者にも研究したのと同じアウトプット授業のやり方は効果があるのか、またどのような効果が見られるかということでした。そのため、今年の3月に担当した修士予備コースで特定課題研究で行ったのと同じ研究方法と内容を取り入れて授業を行いました。 授業を行う前には、対象の学習者は日本語能力が高いので、授業の効果はあまり見られないと思って、心配しながらも、どんな結果が見られるか知りたいこともあって、わくわくしました。日本語能力が高いので、受身文に関する知識はあいまいではなく、整理されていて、受身文の使用法についてある程度まで分かっているはずだと思っていました。例えば、「主語は無生物だから」という答えが出て、学習者の知識は整理されていて、研究の内容と方法は使えないだろうと思っていました。研究を行った時と同じ効果は期待していませんでした。しかし、研究方法の流れの通り、最初はプレテストで無生物主語の受身文に関して、どれぐらい知識を持っているか調べました。修士予備コースの学習者は8人で、皆日本語能力がN2以上です。3人で1グループを作って、プレテストを行いました。その結果、無生物主語の受身を使った方がいい所を設けた7箇所の内、学習者は5つか6つに下線を引きました。 しかし、理由記述には「『言われる』という受身の動詞の形は良く使われるから」、「受身の動詞を使うべきだから」、「人にされたから」、「理由は分からない」という答えが出ました。文を読んで受身を使った方がいいと分かっても、なぜ受身を使うのか理解していないことが分かりました。特定課題研究の対象者3年生より受身を使うべきところを指摘することができても、理由記述には同じ状態が見られ、学習者の無生物主語の受身文に関する知識はあいまいだったということが分かりました。びっくりすると同時にこれから授業を行って学習者の無生物主語の受身に関する知識を意識化する方法は役に立つと思いました。そして日をあけ、授業を3回行って、最後にポストテストを行いました。 ポストテストで無生物主語の受身文に関する理由記述を正しく書けるようになりました。主語の観点、文章の構成、書く人の立場から書けるだけではなく、「主語が無生物で、動作主を表す必要がない場合、受身を使う」というように答えられるようになりました。私の研究の内容と研究方法は、日本語の能力が高い学習者を対象することはできないと思いましたが、効果が見られたので、学習者の日本語能力に関係なく、学習者の文法知識を整理するためにアウトプット活動はとても役に立つということが分かりました。理解中心の教え方で学んだ学習者は日本語能力が上がっても、文法を規則的に考え、運用できる可能性が低く、文法に関する知識が整理されていないということも分かりました。今年の6月の2学期で必ず3年生のクラスでこの内容と方法をそのまま使って、無生物主語の受身に関する知識を意識化します。それから、他の文法項目でもアウトプット活動を取り入れる研究方法を使ってみようと思っています。


カメさん(カウズラリッチ カメリア/KAUZLARIC KAMELIJA/クロアチア/ザグレブ大学)

【特定課題研究報告】
テーマ:会話における学習者の参加と不安の分析-インタビュー活動のやり取りと振り返りに注目して-
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日本語国際センターで過ごした1年間は私にとって貴重な経験でした。この1年間で、研究で明らかにしたいことをどうやって論理的に分析したり、それを解明するために妥当な研究計画を立てたりする方法などを勉強できました。そして、自分がやりたいからやるだけではなく、やりたいことの意味などを考えるのも大事だということにも気が付かせてもらいました。そのおかげで、まだ不安なことがたくさんありますが、今日も一人で研究を頑張り続けています。 日本での修士課程を卒業してから、もう6ヶ月以上が経ちました。去年の10月に新しい学年が始まり、私の教えている学生は相変わらずの挑戦を迎えました。それは、短い間にたくさんの文法とたくさんの語彙を身に付ける必要性と、実際に日本語を話す機会の少なさです。私の日本での研究テーマは日本語会話に対する学習者の不安でした。実習のとき、ペアでインタビュー活動を行い、学生に自分のパフォーマンスについて振り返ってもらいました。目的は、話すときに感じている不安や緊張と話す能力の関係を調べることでした。国に帰って、その研究から学んだことを、現場でどのように応用できるか?と考えました。 帰国からの半年に、2つのとても違う学習者のグループでインタビュー活動と振り返りの話し合いをやってみる機会がありました。1つのグループは、ザグレブ大学の日本学コースの卒業生で、CEFRのB1程度の日本語能力のある3人でした。2人は6ヶ月以上日本にいたこともあって、みんなは友達で、お互いのことをよく知っていました。それでも長い間日本にいた1人の学習者は日本語で話すときに強く緊張していると言いました。そのグループで3回活動を行って、彼女の進歩を見ることができました。第1週では複雑な文法で戸惑ってしまい、短い文章しか作れなかったのに、第3週では自分の言いたいことについて長く話せて、友だちに積極的に話を広げるための質問をたくさんしていました。 もう1つのグループは、プーラ大学学士課程の日本語コースの1年生と2年生で、CEFRのA1かA2程度の8人でした。課外授業の時間を借りて、今まで2回同じ活動を行いました。ほとんどの参加者は、それが自分にとって1~2文より長く日本語で話す初めての機会だったと言いました。 日本語学習の段階がとても違うこの2つのグループの同じ活動への参加を見て学んだ一番大きなことは、両方のグループが話すときの同じ問題を何回も指摘したことです。簡単な文法しか使えない、そして文章がなかなか作れないという文句がよく出ました。しかし、実は、一番多く挙げられた問題は、必要な語彙がわからない、あるいは知っていても思い出せないことでした。学生は文法で最も苦労していると思っていた私にとって、それはとても意外な気づきでした。そして多くの学生は、語彙がわからないから、日本語が全然話せないと思うと言いました。学生の話によると、そのせいで、話す自信がもともと低かったか、あっても途中で言えないことがあれば自信を失ったこともあったとのことでした。しかし、インタビュー活動で、初めての人でも、大体みんなが20~30分以上日本語だけで話すことができました。 このような学生の直面している問題に気づいて、今後は会話活動が語彙の知識を増やし、言い換えの能力を身に付けるためにどのように使えるかを研究したくなりました。そして、将来会話に集中した1学期の長さの科目で応用できる教案を作ってみたいと思います。

お問い合わせ

国際交流基金日本語国際センター
教師研修チーム
電話:048-834-1181 ファックス:048-834-1170
Eメール:urawa@jpf.go.jp
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