国際交流基金賞50周年記念 日本語教育学会からのメッセージ

日本語教育学会のロゴ画像

昭和55(1980)年度 国際交流奨励賞

日本語教育学会

[日本]

国際交流基金賞50周年記念メッセージ

国際交流基金賞50周年を迎えるにあたり、記念メッセージを申し上げます。

西口 光一さんの写真

この度、貴50周年記念サイトを拝見し、過去50年間国際文化交流が各方面で非常に活発に展開されていることに目を見張るとともに、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・国際対話の各方面で国際交流基金が重要な役割を果たしていることについて認識を新たにしました。

日本を中心とした国際文化交流と言うと、美術や演劇や文学などのハイカルチャーの交流がまずイメージされるかもしれません。ただ、その一方で、日本のテレビのドラマなどや、マンガ、アニメ、Jポップなど日本発のポップカルチャーが世界中で若い世代を中心として人気を博しているという状況があります。それに加え、従来より、健康的でちょっとおしゃれな寿司なども世界の人々に愛されています。世界の若者たちには、日本は、楽しいポップカルチャーの国、伝統的な日本文化の国、そして優れた物作りとテクノロジーの国として注目されています。そして、そのように「日本」に親しんだ若者の中から、日本はおもしろい国なのでもっと知りたい、日本に行って仕事を得て生活したい、日本の大学に進んで将来は日本で就職して日本で暮らしたい、日本の大学院に進学して日本研究者となって教育研究職に就き生涯にわたって日本との関係を続けたい、という若者が出てきます。そんな若者たちの気持ちやかれらが思い描く人生経路に引き寄せられそれにいわば伴う形でかれらの日本語の学習が始まります。端的に言うと、「日本はおもしろい国、素敵な国」や「日本が好き」というところから日本語の学習が始まっています。

過去50年を振り返りますと、そうした広い意味での期待に応える形で、海外センターでの日本語コースの開設、海外大学での日本語学科等の設置支援や現地教師の研修とネットワーク形成支援、海外教員の来日研修など、そして最近ではオンライン教材の提供とオンライン学習支援の提供など、国際交流基金は海外での日本語教育の普及について多大な成果を上げてこられました。一方で、50有余年の歴史を有するわたくしども日本語教育学会は日本語教師と日本語教育の専門家や研究者等をメンバーとする学術研究団体として、日本語教育のさらなる発展と日本語教育に関わる学術研究の振興を図るとともに、教育実践や研究活動から得た経験、知見、洞察、視野などに基づいて社会に貢献することを使命として、これまでさまざまな事業や活動を続けてきました。

海外出身者が日本語を学習して多言語多文化の一つである日本語に触れたり日本文化に親しんだりすることは、国際交流基金が提供する国際文化交流事業の一部であるわけですが、上で論じたような人生経路を、始めはぼんやりと、そしてやがては明瞭に思い描いて日本語を学習し身につけようとする人たちにとっては、日本語はただ実用的に必要な言語なのではなく、楽しみにも一層近づかせてくれる、「新たなわたし」の人生のいわば伴侶となる言語です。つまり、かれらにとっては、日本語は、仕事や生活することに関わるだけでなく、楽しみを増やしてくれて、日本と関係した人生の各ステージで出会ういろいろな人たちと交わって人生を分かち合って生きていくことにも関わる言語だということです。

わたしたち一人ひとりは他の人と関わりながら人生を営んでいます。言うまでもなく、わたしたちは言語だけでなく非言語のさまざまなチャンネルも使って関わりを作りコミュニケーションをしています。そうした中で言語はやはり非常に重要な役割を果たしていると言わなければなりません。わたしたちは、言語を重要な仲立ちとして他の人と関わり交わって分かち合う現実を相互的に構成し、そうして構成された現実の中で生きています。言語とコミュニケーションは実用的な用を達成するだけでなく、それぞれの人の人生を開いてくれるものです。

これからの日本語教育は、日本語を身につけようとする人を直近で必要なコミュニケーションの仕方をただ学ぶ者と捉えるのではなく、日本語を用いて生きる社会的主体として捉え、他の人と関わりながらより豊かな人生が送れるようにという広い視点で教育を企画し実践する必要があるでしょう。

2013年に公益社団法人となった日本語教育学会では、理念体系を公にしています。そして、その中で、学会の使命を標語的に「人をつなぎ、社会をつくる」と表現しています。皆様ご存じのように、国内においては、2019年6月に日本語教育推進法(正式名称は、日本語教育の推進に関する法律)が施行されました。そして、2023年6月には日本語教育機関認定法(正式名称は、日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律)が公布され、2024年4月から施行されます。日本語教育の重要性が公的に認識されるようになってきたと言っていいでしょう。そうした中で、日本語教育の一定のガイドラインが示され、教育モデル開発の事業なども進行中です。また、教師養成課程の枠組みの提案と充実支援やさまざまな種類の教師研修の事業なども展開されています。しかし、制度が整備されれば、即座に教育がこの時代にふさわしい優れたものになるというものではありません。教師養成課程なども含めて実際の教育を企画し実践するのは、日本語教育の専門家であり、日本語教師です。そして、各々が一人の人である日本語教育の専門家や日本語教師が自ら一層優れた専門家や専門職となっていくためには、日本語教育の基盤となる高度な学術研究や実践の蓄積・共有・考究の一層の推進が欠かせません。日本語教育学会は、「人をつなぎ、社会をつくる」という使命を念頭におきながら、そうした研究や考究の場を引き続き提供し、そこで形成された高度な専門性を基礎として社会に寄与する活動を続けたいと考えています。海外での日本語教育と国内での日本語教育が連続体となりつつある中、今後は国際交流基金と日本語教育学会はこれまでにも増して連携し協力して活動を展開していく必要があるかと思います。

公益社団法人日本語教育学会
会長 西口 光一

(原文 日本語)

※ 日本語教育学会の英語名称は、国際交流奨励賞受賞後の2021年5月に、それまでのThe Society for Teaching Japanese as a Foreign Languageから現在のAssociation for Japanese Language Educationに変更となりました。

What We Do事業内容を知る