国際交流基金賞50周年記念 林 望さんからのメッセージ

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平成4(1992)年度 国際交流奨励賞

元東京芸術大学助教授/日本書誌学・国文学

林 望

[日本]

国際交流基金 奨励賞への感謝

思えば、私とピーター・コーニツキ君が国際交流奨励賞を戴いてから、もう三十年余の月日が過ぎた、その時の経つことの速やかさに驚かされる。私どもが撰述した『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(ケンブリッジ大学出版刊)に対して、国際交流奨励賞を戴いたのは1992年のことであった。由来ケンブリッジ大学図書館には、外交官アーネスト・サトウが蒐集し、ウイリアム・アストンを経由して同館に収蔵されるに至った凡そ一万冊に及ぶ日本古典籍が保管されていたが、嘗て図書館長であったエリック・キーデル氏が目録編纂に志したものの、氏の急逝によって成らなかったという歴史がある。私自身は、イギリス所在日本古典籍の書誌学的悉皆調査を志して1984年に渡英したのだったが、偶然にその年の秋に日本から帰国してケンブリッジ大学の教員となったコーニツキ君とあいまみえて、共同で全く新しい学術目録の編纂をしようという合意に至り、国際交流基金の客員教授招聘の助成を得て1986年から再渡英することとなった。かくて同目録は1991年にケンブリッジ大学出版から日本語で公刊されるに至ったのである。かかる地味な、そうして膨大な時間と努力を要する仕事を、国際交流奨励賞という栄誉を以て顕彰して戴いたことは、基礎的学術研究に携わる者として本当にありがたかった。授賞式に当って、私どもはそれぞれ日本語と英語で挨拶文を書き、当日思い立ってそれを交換して、私が英語で、コーニツキ君が日本語でスピーチをしたことも楽しく懐しい想い出となっている。そうして御所にお招きいただいて当時の天皇皇后両陛下に拝謁を賜ったこともまた生涯の栄誉として今に忘れ難い。

林 望

(原文 日本語)

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