国際交流基金賞50周年記念 細川 俊夫さんからのメッセージ

細川 俊夫さんの画像

平成30(2018)年度 国際交流基金賞

作曲家

細川 俊夫

[日本]

国際交流基金賞50周年

私が国際交流基金賞をいただいたのは、2018年でパンデミックが始まる少し前のことでした。パンデミックが始まって、私の生活は大きく変化しました。それまではヨーロッパと日本との間を頻繁に往復していましたが、パンデミック以後は、1年に2、3回渡航するだけになりました。その間にも、海外での演奏会はたくさんありましたが、その練習もズームを通して参加したり、無観客コンサートが放映されるのを、日本の自宅において聴くことも体験しました。実際に演奏会の現場に行って体験するのとは異なる体験で、身体的には楽なのですが、やはり音楽は現場に行って、ライブを体験しないと、何か物足りなさを感じます。

ようやく昨年暮れぐらいから、コンサートもお客さんを入れて開催されるようになり、私も渡欧の機会が増えました。2022年9月にはチューリッヒのトーンハレオーケストラで、フルート協奏曲「セレモニー」をエマニュエル・パユの独奏で、そして2023年3月には、ベルリンフィルでヴァイオリン協奏曲「祈る人」を樫本大進の独奏で世界初演しました。この二つの作品は、シャーマニズムの「祭祀」、「祈り」をテーマにしたものです。パンデミックの間に、作曲家の私に何ができるだろう、と自分に問いかけました。そして音楽の根源は、「祭祀」であり、「祈り」であろうと考えました。パンデミックで多くの人が亡くなり、そしてウクライナでは悲惨な戦争が始まりました。このような時代に音楽にできることは、「祈ること」、「死者への鎮魂の歌を歌うこと」だと思うようになりました。

日本には、たくさんの仏像があります。素晴らしいお寺の中にばかりではなく、路傍にもたくさんの石の仏像が風雨に晒されながら、祈り続けています。そしてそれを作った仏師のほとんどは無名の人たちです。これらの祈りの彫刻は、現実的に直接にはなんの力も発しないかもしれませんが、どこかで深く私たちを支えてくれているのではないでしょうか。私の小さな音楽作品は、この無名の仏像のように、世界の片隅で響いてくれたら、と願うのです。

私は新しいオペラを構想しており、その台本テキストを、私と同時に国際交流基金賞を受賞した多和田葉子さんにお願いしました。そのテキストはすでに完成し、それを基に私はこれから1年以上かけて作曲します。国際交流基金賞での出会いによって新しいオペラが誕生したら、ぜひ皆さんに聴いていただきたいです。オペラの題名は「ナターシャ」。地球環境の破壊がテーマです。

細川 俊夫

(原文 日本語)

What We Do事業内容を知る