国際交流基金賞50周年記念 多和田 葉子さんからのメッセージ

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平成30(2018)年度 国際交流基金賞

小説家、詩人

多和田 葉子

[日本]

国際交流基金には本当にお世話になり、感謝の気持ちがつきません。小説は翻訳され印刷されなければ、その小説の書かれた言語の枠を超えることはできません。しかし翻訳家の仕事はその重要さに見合う支払いを受けられないこともあります。また文学の出版事情の難しい国では、翻訳文学を出すこと自体が出版社にとって大きな冒険となってしまいます。国際交流基金のサポートには感謝しています。

また、翻訳された小説が出版されてから、作者との対話を求めてくる国もあります。わたしの側もまた、別の言語を話す読者がわたしの小説をどのように受けとめてくれたのかには興味があります。読者や他の作家との交流の旅を支えてくださったのも国際交流基金です。旅の事務的なサポートだけでなく、現地でも作家、アーチスト、学生たちとも交流できるように準備してくださり、又文化的、歴史的に興味深い場所などを紹介してくださったりもしました。わたしは異文化の中で学んだものを作品に持ち込むことで、読者の方々にお返ししたいと思って今日まで努力してきました。もっとも「異文化」という言葉は正確ではないかもしれません。自分の文化と他人の文化という区別があるわけではないからです。あらゆる文化は本来つながりあっているもので、そのつながりを切らないようにするのがわたしたちの役目ではないかと思います。今の世界は決して楽観視できる状態にはありません。勝手に「敵」のイメージがつくりあげられ、人々の不満が一定の文化や人々に向けられるように裏で操作されているような危機感を感じることも稀ではありません。そんな中で文学は、複数の視点から未知なる他者を描き続ける努力を重ねていかなければなりません。

多和田 葉子

(原文 日本語)

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