バングラデシュ(2020年度)
日本語教育 国・地域別情報
2018年度日本語教育機関調査結果
機関数 | 教師数 | 学習者数※ |
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85 | 220 | 4,801 |
教育機関の種別 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
初等教育 | 0 | 0.0% |
中等教育 | 100 | 2.1% |
高等教育 | 648 | 13.5% |
学校教育以外 | 4,053 | 84.4% |
合計 | 4,801 | 100% |
(注) 2018年度日本語教育機関調査は、2018年5月~2019年3月に国際交流基金が実施した調査です。また、調査対象となった機関の中から、回答のあった機関の結果を取りまとめたものです。そのため、当ページの文中の数値とは異なる場合があります。
日本語教育の実施状況
全体的状況
沿革
バングラデシュ独立後間もない1972年に在バングラデシュ日本国大使館内に日本語学校が設立された(以後、大使館の移転にともない、ダッカ日本語教室として独立し活動していたが2010年1月に閉校)。
同年、ダッカ大学国際関係学部の外国語履修科目として日本語が導入され、日本語の授業が開始された。1974年、同大学内に現代言語研究所が設立され、1983年から現在に至るまで当地における日本語教育の中心的施設として日本語学習4年コース(学位取得不可)が開設されていた。(同研究所には、1974年から1998年にかけて、国際交流基金の専門家が、その後、2004年から2008年までJICA海外協力隊員が派遣された)。1996年にラジシャヒ大学、1997年にジャハンギノゴル大学、2002年にはクルナ大学で日本語初級前半レベルの日本語の授業が開始された。バングラデシュ日本留学同窓生協会(JUAAB)でも2004年から日本人教師による日本語会話コース、初級前半・後半コースが運営されている。また、2006年からダッカ大学日本研究センター(JSC、2017年に社会学部日本研究学科に移行)で日本研究修士課程に日本語初級前半コースが、2008年に同ダッカ大学国際関係学部では、必修選択科目として日本語教育が、それぞれのカリキュラムに応じて行われている。2009年、スタンフォード大学(私立)に8か月間の日本語コースが開設され、2011年には、国立チッタゴン工科大学に日本語コースが開設された。2016年からダッカ大学現代言語研究所で学士号取得コース(Bachelor in Japanese Language & Culture)が設立された。また、2013年にダフォディル大学、2016年にグリーン大学、2018年にノースサウス大学及びリベラル・アーツ大学等の私立大学にも日本語コースが開設されている。
その他、主にバングラデシュ人日本語教師が初級前半レベルを教える民間日本語教育機関が運営されている。
また、日本語能力試験は2001年から実施されており、最近の受験者数は次のとおりである。2018年(第2回)1,806名、2019年(第1回)1,233名。
また、2016年にバングラデシュ日本語教師会(JALTAB)が設立された。
背景
1972年の外交関係樹立以来現在に至るまで、日本はバングラデシュに対する最大の経済援助協力国として同国の経済発展に貢献してきており、両国関係は非常に良好な状況にある。日本語学習者は文部科学省国費留学や私費留学を目指す者が多く、初級後半程度までを学んでいる。留学やその先の就職を期待して日本語学習を始める学業成績中位層の学習者が多い一方で、全般的には日本語への関心はそれほど高くない。日本語学習者増加のため、国際交流基金による日本語教育プログラムによる支援など、各機関の役割に見合った支援策を講じている。
日本文化に関しては、以前から、いけばな、盆栽、日本映画、空手などが知られているが、近年、日本のアニメ等のポップカルチャーが一部の若年層に好まれ始めており、それらを通じて日本語学習に関心を持つ若者も増えている。
特徴
当地の日本語教育機関の内訳は、80%以上が学校教育以外となっている。日本語学習者の学習動機は、日本留学、就職に必要な資格・能力向上、異文化への興味・関心であるが、バングラデシュは学位や証明書を重視する社会であるため、日本語能力試験対策を重視する一部の民間の教育機関に人気が集中する傾向にある。他方、全般的に学習者の日本語能力到達度は、日本語能力試験N5に集中している。また、教師は、ダッカ大学の常勤講師及び、日本語を学習して一定のレベルに達した者とバングラデシュ在住の日本人教師が主であり、大学以外のバングラデシュ人教師の日本語レベルは、日本語能力試験N4程度である。
最新動向
昨今のバングラデシュの好調な経済発展を機に多くの日系企業が進出してきており、日本語対応が可能な現地人職員を積極的に雇用する企業も増えてきている。特に、革製品、アパレル関連企業では、技術やビジネスの専門能力と同等に、ある程度の日本語能力が求められていることから、日本語コースを開設する企業もあり、新たな日本語のニーズを生み出している。また最近では,高度人材として就労ビザを取得し、日本のITセクターでキャリアを築くルートに当国ICT庁、ハイテクパーク庁、BCC(Bangladesh Computer Council)等が積極的に関与しており、この関係で、2017年よりJICAの技術協力プロジェクトB-JET(バングラデシュICT人材向けの日本就職をターゲットとしたトレーニングプログラム)においても、日本語教育が開始された。その他、日本のIT企業がITを専攻した理系大学生を採用する動きがあり,学生が日本企業に採用された私立大学等の一部が日本語コースを開設している。このような日本企業の更なる進出によって日本語学習者数の増加や学習意欲の向上に結びついていくことが期待される。さらに、2019年8月にはバングラデシュとの在留資格「特定技能」を有する外国人材に関する制度の適正な実施のための基本的枠組みに関する協力覚書(MOC)への署名がなされ、これを契機に日本語学習者が急増した。
教育段階別の状況
初等教育
(下記【中等教育】参照。)
中等教育
NGO設立の学校が1校(中等教育)、ロータリークラブにより建設された私立学校(初等教育+中等教育)が1校の計2校のみで、ここではいずれも校長の個人的方針で日本語学習を必修としているが、ほとんどの学校では、初等、中等教育機関での日本語教育は行われていない。
高等教育
日本語学習の中心的存在であるダッカ大学現代言語研究所日本語科では通常4年間のノン・ディプロマコースが開講され、約250名の学生が学んでいる。同研究所では2017年度から新たに学士号取得コース(Bachelor in Japanese Language and Culture)も新設された。また、別途、夜間コース、集中コースも開設している。その他の国立大学(ダッカ大学社会学部日本研究学科、国際関係学科、ジャハンギノゴル大学、チッタゴン大学等)及び私立大学では、日本語初級前半コースが設けられている。
学校教育以外
主な受講者は学生と社会人であり、日本への私費留学を目指す者が多い。日本語能力試験合格に向けて、初級前半コースを運営する学校が主である。
教育制度と外国語教育
教育制度
教育制度
5-3-2-2制。
初等教育5年生及び中等教育8年生修了時に統一試験が実施され、10年生修了時の統一試験(S.S.C : Secondary School Certificate)に合格した者が中等教育修了証を取得。
その後、College(高等学校)で2年間の教育を修了し、上級中等教育修了試験(H.S.C:Higher Secondary Certificate)に合格した者が修了証を取得できる。さらに、大学入学資格試験を経て大学に進学できる。義務教育は初等教育の5年間。
教育行政
バングラデシュ初等・大衆教育省では、カリキュラムに従って5年生までの一般初等教育管理局がある。
バングラデシュ教育省では、中等教育6年生からの中等教育管理局、高等教育のための大学管理局がある。また、イスラム教育を重んじるマドラサ局、テクニカル教育局がある。
言語事情
公用語はベンガル語。英語主体での教育を行う学校もあり、大学生等は英語でのコミュニケーションがある程度可能であるが、一般市民の多くはベンガル語しか解さない。
外国語教育
ベンガル語を主体とする学校では国立・私立とも、英語とアラビア語(初歩レベル)を、英語を主体とする学校(私立のみ)では幼稚部から英語を学ぶが、上級クラスでは選択科目の中にフランス語、ドイツ語などが含まれる。また、マドラサでは、アラビア語、英語を学ぶ。
外国語の中での日本語の人気
高等教育レベルで人気があるのは、英語、フランス語、ドイツ語、中国語、日本語、アラビア語、スペイン語。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
学習環境
教材
初等教育
(下記【中等教育】参照。)
中等教育
『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『BASIC KANJI BOOK』加納千恵子ほか(凡人社)
高等教育
『みんなの日本語』(前出)、『新日本語の基礎ⅠⅡ』海外技術者研修協会(スリーエーネットワーク)、『BASIC KANJI BOOK』(前出)、『新日本語の基礎漢字練習帳ⅠⅡ』鶴尾能子ほか(スリーエーネットワーク)、『絵入り日本語作文入門』C&P日本語・教材研究会(専門教育出版)、『文化中級日本語』文化外国語専門学校(文化外国語専門学校)、『日本語作文Ⅰ』C&P日本語・教材研究会(専門教育出版)、『日本語中級読解入門』富岡純子ほか(アルク)等
学校教育以外
『新日本語の基礎ⅠⅡ』(前出)、『みんなの日本語』(前出)、『日本語初歩』国際交流基金国際日本語センター(凡人社)、『日本語の基礎』、『新しい日本語』
IT・視聴覚機材
授業の中で、副教材のテープや、ビデオが活用されている。コンピューターの使用はほとんどない。
教師
資格要件
初等教育
日本留学、語学留学経験者。特に日本語教育に関する資格は不要。
中等教育
日本留学、語学留学経験者。特に日本語教育に関する資格は不要。
高等教育
バングラデシュ人教師の場合、修士号、日本語能力試験N2を取得している者。または、修士号取得者でバングラデシュ国内の日本語教育機関で日本語を学んだ後、国際交流基金の海外日本語教師短期・長期研修を経て、非常勤講師として経験を積み、大学当局から認定された者に限り日本語教師になれる。または、文部科学省国費留学生等、日本で学んだ経験があり、日本語教授能力を持っている者。
学校教育以外
特に資格は不要であるが、JLPT N3レベル以上が望ましい
日本語教師養成機関(プログラム)
組織的な養成機関はない。
日本語のネイティブ教師(日本人教師)の雇用状況とその役割
ダッカ大学及びいくつかの私立大学で日本語ネィティブ講師が教えている。日本語能力試験N5に合格する程度の初級前半レベルのクラスを受け持っている。
その他、民間の日本語学校で数名の日本人教師が教鞭をとっている。
教師研修
2018年及び2019年、国際交流基金ニューデリー日本文化センターの日本語教育巡回セミナーが行われた。訪日研修としては、国際交流基金の日本語教師研修に毎年数名が参加している。
現職教師研修プログラム(一覧)
現在は行われていない。
教師会
日本語教育関係のネットワークの状況
2016年4月にバングラデシュ日本語教師会(JALTAB)が設立された。
最新動向
特になし。
日本語教師派遣情報
国際交流基金からの派遣
国際協力機構(JICA)からの派遣
国際交流基金、JICAからの派遣は行われていない。
その他からの派遣
(情報なし)
評価・試験
国際交流基金主催の日本語能力試験(ダッカで開催)のみが共通の評価基準である。
日本語教育略史
1972年 | ダッカ大学で日本語教育開始 在バングラデシュ日本大使館内に日本語学校設置(以後、大使館の移転にともない、ダッカ日本語教室として活動。 |
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1974年 | ダッカ大学に現代言語研究所設立 同研究所に国際交流基金の日本語専門家派遣開始 |
1983年 | ダッカ大学現代言語研究所に4年コースの日本語科設置 |
1987年 | 日本アカデミーで日本語コース開始 |
1996年 | ラジシャヒ大学言語センターに日本語科設置 |
1997年 | ジャハンギノゴル大学言語センターに6か月コースの日本語科設置 |
1998年 | ダッカ大学現代言語研究所への国際交流基金による日本語専門家派遣中止 |
2000年 | インド・カルカタで日本語能力試験実施(受付はダッカ) |
2001年 | ダッカで日本語能力試験実施(以後毎年ダッカで実施) |
2002年 | クルナ大学で日本語教育開始 |
2004年 | ダッカ大学にJICA海外協力隊日本語講師派遣開始 バングラデシュ日本留学同窓生協会(JUAAB)で日本語会話コース、初級前半・後半コース開講 |
2006年 | ダッカ大学で第一回国際交流基金日本語教育巡回セミナー開催 |
2008年 | ダッカ大学へのJICA海外協力隊日本語講師派遣中止 |
2009年 | ジャハンギノゴル大学にJICA海外協力隊日本語講師派遣開始 スタンフォード大学で8か月間の日本語コース開設 |
2010年 | 第1回新日本語能力試験実施。年2回の日本語能力試験実施開始 国際交流基金日本語教育巡回セミナーが年2回の開催となる ダッカ日本語教室閉校 |
2011年 | チッタゴン工科大学で日本語教育開始 |
2016年 | バングラデシュ日本語教師会(JALTAB)設立 ダッカ大学現代言語研究所でBachelor in Japanese Language & Culture開設 |
2017年 | ダッカ大学日本研究センター(修士課程)がDepartment of Japanese Studiesに移行し、学士課程4年間及び修士課程1年間となった。 |