平成29(2017)年度 日本語指導助手レポート 多文化多言語社会の中の日本語~初等・中等教育での試み~

ロンドン日本文化センター
 鵜飼香奈子

イギリスEU離脱決定1ヶ月後、2016年7月から国際交流基金ロンドン日本文化センター(以下、JFL)にて日本語指導助手(以下、指導助手)としての生活が始まりました。JFLでは、英国各地の日本語教育の普及と様々な年齢の日本語学習の幅広い支援を目的に、日本語講座、教師研修、スピーチコンテスト、イベントへの出展等を行っています。今回はその中から私が関わっている業務についてご紹介したいと思います。

初等教育の日本語

JTSトレーニングで楽しそうに話し合うメンバー達の画像
JTSトレーニングで楽しそうに話し合うメンバー達

英国では2002年に教育技能省(現教育省)がLanguages for All:Languages for Lifeと題した言語政策文書を基に「2010年までにKey Stage 2(初等教育 Year3~6、7~11歳)全ての児童に外国語を学ぶ機会を与える」とし2014年から外国語教育が必修化され、日本語も小学校で教えられることになりました。いくつかの学校では日本語が学ばれていましたが、さらなる日本語教育普及を目標にJFLではJapanese Taster for Schools (以下、JTS) プログラムを始めました。当初は「学校で日本語授業やクラブを始めてみたいが、どうしたらいいのか分からない」という声に応えJFLの専任講師が日本語出張体験講座を行っていましたが、希望する学校が増え続け2006年にJTSプログラムを始めました。日本語ボランティアが挨拶や数字などを紹介し日本文化に親しんでもらう体験講座を要望のある小中学校に提供するというものです。46名で始まったJTSメンバーも今では390名という大変心強いサポーターとなっています。現在は定期的に研修会を開催し、初めてのメンバーには学校内での注意点や授業の作り方を紹介し、ベテランのメンバーには今まで行った活動を他のメンバーと共有する場を提供しています。

ここで私が驚いたのはボランティアメンバーの層の厚さです。研修会でお会いした方だけでも英国在住の日本人、大学で日本学を専攻し日本への交換留学したイギリス人、日本で数年仕事をされた経験のあるインド人、大学で日本語を勉強されたポーランド人等と多様なバックグランドを持った方々がご活躍されています。また私自身も出張講座を担当し、子供たちと直接触れ合い、訪問先の教育機関の校長や教師に直接お会いすることができました。英国の学校教育や外国語教育の現状について生の声を聞き、多くの情報を得ることで現在取り組んでいる初等教育の教材開発に還元できればと思います。

日本語教育の新しいカタチ

国際交流基金では様々な機関・団体による日本語普及活動に対し経費の一部を助成していますが、JFLではJapanese Language Local Project Support Programmeを実施しています。このプログラムでは日本語クラスを提供する初中等教育機関、またはGeneral Certificate of Secondary Education等の試験対策クラスを設置する中等教育機関に対し重点的に補助金を給付しています。今回はその制度を利用し日本語クラスを始めた中学校をご紹介したいと思います。

スコットランドでの日本語出張授業の一コマの画像
スコットランドでの日本語出張授業の一コマ

ロンドン市内にあるSpecial Needs Education(特別支援教育)Schoolでは自閉症や学習障害を持つ4~19歳の学生が通っており、その中のあるクラスでは今年度から折り紙、アニメ、算数、そして空手などを通して日本語を学んでいます。学校を訪問した日、全校集会で日本語クラスの活動をまとめたビデオを全校生徒と見たあと、日本語を勉強しているクラスを訪ねると「おはよう!」と学生から挨拶をしてくれました。また授業を担当されている先生には特別支援教育で日本語を教える工夫や課題などを直接伺うことができました。そして特に印象に残ったのは日本語を始めようとこのクラスを立ち上げた先生の言葉でした。「今、多くの学生達の世界は学校と家だけで完結しています。障害といっても様々で外国へ行くにはまだ多くの問題があり異文化に触れる機会は中々ありません。ならば異文化である日本文化を学校へ持ってこようと思ったのです。」必修科目とは異なり、日本語は人間性を高めるための科目としてアートや音楽と同じように考えられるのではないかと特別支援教育での日本語を通し新しい視点から日本語教育を見ることができ、日本語教育の新たな可能性を感じました。

JFLでは多岐にわたる日本語関連事業を展開しており、指導助手はチームの一員として、日本語上級専門家、日本語専門家をはじめ現地スタッフや職員からアドバイスをもらい、協力しながら業務に携わっています。また外国語教育の研究が盛んな国である英国で様々な学会や研修会に参加出来る恵まれた環境に感謝し日本語教師として成長できるよう目の前にある業務を一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいと思います。

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