オンラインから対面へ

国際交流基金バンコク日本文化センター(JFBKK)
一丸夕花

 2022年6月にバンコク日本文化センター(以下、JFBKK)に着任してからもうすぐ一年が経ちます。私は日本語指導助手(以下、指導助手)として、主に(1)タイの中等教育機関支援事業、(2)一般日本語学習者を対象としたJF講座、(3)教材作成に携わっています。2022年度は多くの事業で「オンライン+一部対面」の実施が試みられた一年でした。対面で人と会うことの有難さ、大切さを強く意識した取り組みを2つご紹介します。

国費留学生と日本語パートナーズの対面交流会

 JFBKKでは、日本の大学または大学院に進学予定の国費留学生を対象にした日本語講座のコースを毎年開講しています。2022年度後期に、初めて日本語を勉強する国費留学生を対象にオンラインで授業を実施しました。テキストには『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)の入門を使用しました。コースの終盤では、これから日本での生活を控えている国費留学生に日本人と日本語でコミュニケーションを取る機会を作って自信をつけてもらうとともに、留学生同士の関係作りのきっかけにしてもらおうと対面での交流会を企画しました。その際、タイに派遣中だった「日本語パートナーズ」(以下、NP)10期の方々の中から会話ボランティアを募集し、協力していただきました。複数の事業を展開し、JF講座チーム、NPチーム、特定技能チームといった事業チームごとの横の連携がある、当拠点ならではのクロスオーバーの事例だったと思います。
 交流会では、オンライン授業の復習をした後、『まるごと』で学習したトピックである「好きな食べ物」や「趣味」について自己紹介シートに書いてもらい、国費留学生とNPがペアになってお互いのことについて日本語で質問し合いました。また、最後に自由に席を立ってお喋りをするフリートークの時間も設けました。
 私は日本語専門家と専任講師と協力し、主にNPへの連絡と、急遽対面での参加ができなくなった国費留学生にオンラインで当日のフォローを担いました。NPは非常に協力的で、活動の趣旨を理解して積極的に国費留学生との交流活動に参加してくれました。フリートークの時間中、国費留学生の進学先とNPの地元が近いということで、自主的に連絡先を交換しあう様子も見られました。対面で実施したからこそ、その場限りで終わらない縁を紡ぐことができたのだと、やりがいを感じました。実施後のアンケートでは、国費留学生から「授業で学んだことを実践的に話せてよかった」「実際に日本人と話す機会が得られてとても嬉しかった」という声を聞くことができ、『まるごと』での学習内容が実際のコミュニケーションに活かされたことを私自身も感じることができました。

国費留学生と日本語パートナーズの対面交流会の様子の写真
国費留学生と日本語パートナーズの対面交流会の様子

教授法ブラッシュアップ研修-生徒のモチベーションを高めるためにできること

 JFBKKでは主に中等教育機関(中学校、高校)で日本語を教えているタイ人教師を対象にした教師研修を行っています。その内の一つである「教授法ブラッシュアップ研修」は教師の教授力を高めるための研修です。2022年度後期のテーマは「生徒のモチベーションを高めるためにできること」でした。これは生徒の日本語学習へのモチベーションの低さに悩む教師に光を与えることと、教師同士のネットワークの強化を目指したもので、モチベーションに関する理論「ARCS理論」を紹介し、授業に実践するためのアイデアを考えるという内容でした。
 研修は同様の内容で全4回行われましたが、最初の3回はオンラインで、4回目は対面での実施となりました。回によってはタイ人教師と日本人教師混合のグループができたり、教師経験の長い先生も経験の浅い先生もミックスされたグループになって意見が交わされました。講師側から答えを提示する形式ではなく、研修参加者同士で考えてもらうやり方は、時間もかかるし手順も必要になりますが、その時その場に集まった人達でしか生まれなかったアイデアがあり、非常に興味深いと感じました。こうした参加者主体のスタイルの研修を見られたことは、指導助手の任期を終えてから自分がどのような道を選んだとしても、自分の考え方の基礎になると思っています。
 4回目の対面研修では一層活発に意見交換が行われ、制限時間を超えても話し合いが続いていたのが印象的でした。先生方が「この時間とこの場を大切にしよう」と意識していたからこそ、活発なやり取りが生まれたのだと思います。また、コロナ禍を経て久しぶりに再会できた先生方の嬉しそうな様子を見て、こうした場を多くの先生が待ち望んでいたのだと感じました。
 私は対面研修2日目のアイスブレイクのパートを専任講師とともに担当しました。教師研修において内容の一部を考えたり、進行を任せてもらえたことは私にとって初めての経験であり、挑戦でした。任期中にこうした研修に参加する機会がまたあるかと思いますが、「自分が担当者だったらどうするか」という視点を持って参加するようにしたいと思います。そして、自分もいつか参加者に価値を与えられる研修を一から作り上げてみたいと感じました。

教授法ブラッシュアップ研修でのグループ発表の様子の写真
教授法ブラッシュアップ研修でのグループ発表の様子

2年目に向けて

 1年目は、センターでの仕事を覚えることと、派遣専門家や専任講師の仕事から学び取っていこうという意識があり、自分自身の成長という点に主軸がありました。2年目は「タイの日本語学習者が長期的に学習を続けられる支援をする」ことに軸を置いて取り組みたいです。例えば、JF講座の受講生がオンライン授業という環境下でも途中で挫折することなく最後まで修了できるように、そしてその後も自分で日本語の学習を続けようと思ってもらえるように、授業内外で講師としてできることは何か。また、国際交流基金関西国際センターが開発した日本語学習プラットホームである「JFにほんごeラーニング みなと」の拠点オリジナル自習コースを現在制作していますが、完成してから数年後、十年後も使ってもらえるコースにするためにはどのような内容にしたらいいか、といったことです。
 周囲に相談できる派遣専門家や専任講師がいる恵まれた環境を最大限生かして、残りの任期を精一杯務めたいと思います。

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